第3話 旅の始まり

 賑やかな喧騒。笑い合う人々、並べられた豪華な食卓。その中で、アサミはお誕生日席に座って宴会を楽しむ......と、思っていたが。


「ああ、勇者様はこれから王様へ謁見します」


「...え?自分は宴会には...」


「何を言ってらっしゃいますか勇者様!世界を救えば一生遊び放題ですぞ!」


「え?ああ...はい...」


 というわけで、アサミは今王様の前で跪いていた。王様は豪華な椅子に座って、ただこっちを見ている。


 その顔は年齢や疲労のせいか、とてもシワが深くなり、そのしわに負けぬと目を見開いていた。


 ちなみに、まったく関係ない話だが自分の性別は変わらず男のままだった。アサミはそのことを改めて思い出し、ホッとしたのも束の間、王様に話しかけられた。


「勇者よ」


「ハッ!」


「そなたに世界を救う覚悟はあるか?」


「ありますとも!」


 その声を聞いて安心したのか、王様は顔を微笑ませた。シワはより一層深くなっていく。


「よろしい、ではそなたに封じられし聖なる剣を」


 横のドアから真っ白な服を着た一団が現れた。先頭を歩く人は細長の帽子を被り、その手には一つの剣が握られていた。


 これはこの世界の、いわゆる神父的な人なのだろうか?先頭はアサミの前に立ち、剣をアサミに差し出した。


「神からの加護を受け賜りし剣でございます。」


 アサミは黙って立ち上がり、剣を受け取る。


 その瞬間、剣が光り輝いて辺りを包み込む。やがて光は収まり、元の状態に戻った。


「おお!やはりあなたは神に選ばれし勇者!」


 王様や真っ白集団や周りの兵士が感嘆とする。


「勇者よ、そなたはそれから苦しく長い旅にするかもしれない。しかし、人類の希望はそなたにかかっている。どうか、頼んだぞ」


「はい、たとえそうなろうとも構いません。必ずや人類を救ってみせます!」


 我ながらいい演技だ、アサミは心中ほくそ笑む。


「それでは、行ってまいります!」


 アサミは振り返り、城の出口を目指して歩き始める。


「ああ、少し待たれよ、一つ忘れておった。」


 いいところをしらけさせやがってこの野郎。


「いくら勇者様の力があったとしても一人で旅するのは厳しいだろう。そういうわけで一人、旅のお供を用意させてもらった。」


 横のドア、さっき真っ白集団が出てきたドアから、もう一人の女が現れた。真っ白集団とは対照的な真っ黒な衣服を身に纏い、大きな杖を持っている。


「この国1の魔法使いだ、旅のお供に使ってくれ」


 魔法使いが近寄り、軽く挨拶する。


「では行くがいい勇者よ!世界の運命はそなたに

託された!」


 王様は立ち上がり、今日1番の声を出す。アサミは再び、出口を目指して歩き出す。ここから、アサミの勇者としての旅が始まる。

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「あのー」


 隣を歩く魔法使いに話しかける。


「なんでしょう?」


 魔法使いはにこやかにしている。けど何故だろう、なんか目が笑ってないような気がする。


「お名前は?」


「勝手に呼んでもらって結構ですよ?」


「あー...そうですか...」


 この明らかに猫を被ってる感じ、そしてどこか優しさを感じる立ち振る舞い...


「じゃあ、ツンデレさんとか」


「は?」


「すいませんでした」


 どうやらデレが少ない方らしい。

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