月夜

on

月夜

遮るものがない窓から、今日は一筋の光が差し込んでいた

重だるい身体を起こして光の源を探す




あ、満月だ




空に黄金色の穴がぽっかりと空いている

美しく透明なそれは、なぜかわたしを鋭く照らす


どうしたの?


なんて、白々しい




わたしが忘れてはいけない日

この胸に刻み込まれた日


手元の甘い紅茶をこくりと飲む

これを淹れた茶葉も、今日で底を尽きてしまった

蜂蜜が入ってるんだっけ、

甘いね、好きだったよね




キャミソールの胸元を人差し指で下げる

そこには空と同じく穴がある


君がくれた穴




去年のこの日、容態が変わったわたしのもとに駆けつけた君は、状況に合わない朗らかさで笑ってみせた


「もう何も心配ないよ」


個室のベッドに置いたのは、消毒液の匂いをかき消す、蜂蜜の甘い香り

酸素が足りなくて霞んだ視界の向こうで、

月が今日と同じ一筋の光を放って、君の横顔を照らしていた




朝が来て、


黄金色の穴は、君だけを吸い込んで帰って行った




君がいない君の身体には、わたしと同じ穴が空いていた


わたしの欠陥品を受け入れてしまった、君の穴


君に生かされた世界は、君がいないと意味がないのに

わたしは1人で生かされてしまった




でもそれも今日でおしまい

君を確かめる甘いそれも、わたしの心も終わってしまったから






1年前、わたしだけを置いていった黄金色

今年は連れていってくれる?

君のもとへ、終わりのない世界へ


光に手を伸ばす

どこまでも遠く、ここを飛び立って___






「_____!!」


身体が塀を越える瞬間、後ろから誰かに抱きしめられた

さっき飲み干したはずの甘い香りがここを満たす

忘れられない温もり

わたしの大切な人




気がつけば、わたしは元通り、塀の内側にいた

月が瞬いて、振り向くより先に、温もりは消えて




いかないで




弱いわたしに泣く権利なんてないのに

気づけば生暖かい雫が頬を伝う


君に2度も生かされてしまった

君がくれた心臓で、わたしはこれからも生かされていく




君の命、無駄にできないことは分かってるの

でも今日だけは許して


月よ、わたしを連れて行って

君のもとへ、終わりのない世界へ______








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月夜 on @non-my-yell0914

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