魔法の可能性は無限大


 こちらに向かってきたゴブリンたちに向けて手を翳す。



「〈土属性魔法〉、〈火属性魔法〉、〈水属性魔法〉、〈風属性魔法〉」



 主要4属性を駆使して、鍛冶で何度も経験した溶鉄の要領で地中から必要な成分を集める。そしてそれを最大限加熱する。それを1度風で包んだら水も別に用意した袋状の風で包む。2つの袋を土の塊でコーティング。これを量産すれば準備は完了。



「リオラ! サラン! あいつらには近づくなよ!」


「はい!」


「分かった!」



 2人は一瞬だけ俺の方を見るとすぐに離れた位置にいるゴブリンもどきの方に駆け出した。


 さて。同時に規模の大きな爆発を起こしたとして、爆ぜたときに生まれた破片が四方八方に飛び散ることになる。それが望実たちの方に飛ばないようにする策も講じてから発動させようか。



「〈聖属性魔法〉」



 ゴブリンもどきと俺だけが中に入るように大きな結界を張る。キラキラと光る青色の透明な壁。視認できるそれに、ドクラさんたちは一瞬動きを止めた。全く、獲物を前にして動きを止めたら危ないだろうに。



「っぐ……」



 言ったそばからランスさんの右腕にゴブリンの石斧がクリーンヒットした。いくら防御力を上げているとはいえ、ゴブリンの全力の一撃を食らえば怪我をする。回復薬を出すこともできず、慣れない左手で双槍を振り続ける。


 向こうを助けたいけれど、これ以上ゴブリンもどきが近づいてくれば爆発に巻き込まれる危険が高まる。一瞬の迷い。それは戦場において死を呼び寄せるものだ。



「〈聖属性魔法〉」



 ランスさんの右腕の傷が塞がって血が止まる。ランスさんは驚きながらも双槍を右腕に持ち換えた。そして血の臭いでさらに引き寄せられたゴブリンたちも含めて、目の前にいたゴブリンを一掃した。


 ランスさんが窮地を脱したことを確認したころ、俺の足元には後ろから迫っていたゴブリンもどきが振りかざした石斧の影が映っていた。


 俺は〈跳躍〉で一気に飛び上る。ゴブリンもどきたちがいないスペースに着地する直前、さっき準備しておいた爆弾をゴブリンもどきたちの方へ飛ばそうとした。



「〈風属性魔法〉」



 何故か風が重たい。爆弾は数ミリだけ浮かんで、そのまま地面に落ちそうになる。そして同時に結界が解除された。



「〈闇属性魔法〉」



 影も動かない。影の動きを感じることはできるけれど、影を操ることはできない。使えるのは使ったことがある影だけか。



「〈念動〉」



 咄嗟に発動させた〈無属性魔法〉の〈念動〉だけは発動して、どうにか俺の周りで全ての爆弾が爆発するという事態だけは回避できた。



「どういうことだ?」



 内心焦りながら、俺を追いかけるゴブリンもどきたちの攻撃を避け続ける。



「〈無属性魔法〉だけが使える。ということは。そうか、ステータスオープン!」



 俺の目の前に現れた青白い液晶画面。残りMPは0。これでは〈無属性魔法〉以外は発動できるはずもない。


 このまま念動で爆弾を投げつければゴブリンもどきは一掃できる。だけど自分の身の安全は保証できないというのがネックだ。影も入れたとしても出られるか確信が持てない以上、使わないに越したことはない。


 そうなれば取ることができる手段はただ1つ。


 どうせ俺の取り分だ。さっき倒したゴブリンもどきが持っていた魔石3つ全てをアイテム袋から取り出す。ゴブリンもどきたちの攻撃を避けながら魔石の頭を割って中身を飲み干す。



「うっ、くっ……」



 突然濃厚な魔力を取り込んだことで、俺の中にある魔石がドクドク、バクバクと不規則かつ激しく跳ねる。それを抑え込みながら避けるなんて不可能だと思いつつ、死ぬ気で避ける。俺はまだ死ねない。


 次第に魔力が身体に馴染んでくると、力が漲ってくるのを感じる。ステータスを確認すれば魔力は全回復。MP最大値も180上昇した。つまり1つ当たりは60。ゴブリンもどきに使われている魔石はA級相当の魔石だ。アブスの冒険者たちが敵うような相手ではない。


 いや、今はそんなことを考えている場合ではないか。


 改めて体勢を立て直すと、俺を追ってきていたゴブリンもどきの頭上を越えるほど跳躍して、ゴブリンもどきたちから離れたところに着地する。



「〈聖属性魔法〉、〈念動〉」



 結界を張り直して、〈念動〉で爆弾をゴブリンもどきにぶつける。



「〈闇属性魔法〉」



 俺自身は影に潜って結界の外に移動する。俺が影から顔を出した瞬間、激しい揺れと爆発音が辺りに響く。恐らく爆弾の爆発によって基盤からも爆発や出火が起きたのだろう。それと同時に結界にヒビが入った。



「〈聖属性魔法〉」



 結界を3重に張り直してどうにか耐えようとしたけれど、内側に張られた2枚があっという間に割れて2枚の結界だけが残った。そしてさらに1枚の結界が割れた。


 ただでさえ結界を張るのはMPの消費が激しい。MPが切れる前に手立てを講じなくては。


 周りをみればゴブリンもどきは全て、ゴブリンはあらかた討伐が終わっている。



「リオラ! 全員を〈範囲防御〉で守ってくれ!」


「分かりました!」



 リオラの周りに全員が集まろうとする中、俺は全神経を集中させてイメージを構築する。魔法の同時詠唱はそれなりな集中力が必要になる。それも全属性となればなおさらだ。



「〈聖属性魔法〉、〈土属性魔法〉、〈火属性魔法〉、〈風属性魔法〉、〈水属性魔法〉、〈闇属性魔法〉」



 結界を1枚追加して、それを覆うように土壁を作って火で強化。その土壁を覆うように空気を固めて、水で覆う。それを闇で覆って凍らせる。


 これで俺の最大限の防御が完成した。リオラとサランがいればみんなの身も安全。少し安心した瞬間視界がぐるりと反転した。


 連戦でHPも減っている中でMPの過剰使用。それもそうかと納得しながら意識を飛ばした。


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