ゴブリンもどきの襲来


 茂みから現れた1体のゴブリンもどき。やっぱり普通のゴブリンの3倍くらいの大きさだ。ゴブリンもどきは俺たちの姿を捉えた瞬間、こちらに向かって突進してきた。



「任せて!」



 目にも止まらぬ速さで前に飛び出したサランは、ゴブリンもどきが振り下ろしてきた石斧に向かって拳をぶつける。驚く俺とリオラをよそに、ゴブリンもどきはゆっくりとバランスを崩して仰向けに倒れた。



「ナイス!」



 この隙を逃すわけにはいかない。弱点を探そうとゴブリンもどきに駆け寄った瞬間、脳内に母さんの声が響いた。



『朔夜! 探知の魔法を使って弱点を見つけて!』


『え?』


『ごめん、説明してる余裕ない!』



 母さんからの〈念話〉はブツッと途切れた。きっと望実に危険が迫っている。行かないと。


 心臓が嫌な音を立てる。あの日のことを思い出す。朦朧とする意識の中で抱きしめたあの温かさ。ずっと大切に、望実が助けて欲しいときに助けられる男になろうと思っていた。そしてこの世界に来て、もっと守れるようになりたいと思った。



「サクヤさん?」



 リオラの焦った声にハッとすると、ゴブリンもどきが身体を起こそうと藻掻いていた。今倒さなければ。そう思うのに身体が動かない。


 考えろ。冷静になれ。



「〈水属性魔法〉」


「サクヤさん!」


「サクヤお兄ちゃん!」



 頭から水を被った俺は、リオラとサランが驚く声には応えずにふーっと長く息を吐く。


 母さんは〈探知〉を使えと言った。助けてとは言わなかった。それなら望実はまだ大丈夫だ。俺はこいつを倒す。



「〈探知〉」



 母さんの言う通り弱点を見つけることを意識して〈探知〉の〈無属性魔法〉を発動させると、ゴブリンもどきの心臓部分が赤く点滅している。



「リオラ! 心臓の辺りにナイフを突き立てて、そのまま水弾を放て!」


「はい!」



 ゴブリンもどきの上に飛び乗ったリオラは落下の勢いを利用して思いきり心臓部分にナイフを突き立てた。ナイフの刺さりはナイフだけで倒そうと思うならば甘いと言える。


 だけどリオラのナイフにはエグスの木で作られた杖が付属されている。そしてその杖がゴブリンもどきの体内に刺さっている。



「〈水弾〉」



 リオラが魔法を発動すると、ゴブリンもどきはショートして内側から破裂した。そしてぽっかりと空いた胸からゴトッと鈍い音を立てて魔石が落ちてきた。


 魔石を失ったゴブリンもどきは機能を停止した。前回俺は頭部の基盤から狙ったけれど魔石を埋め込まれた心臓部分こそ、このゴブリンもどきたちの弱点だったのだろう。



「この調子で倒していこう」


「はい!」


「リオラ、1人で倒すことになったらナイフを投げな。あの装甲に刺さるだけの強度はあるから、あとはリオラの技術と合わされば確実だ」



 リオラは少し迷うように視線を彷徨わせた。けれどすぐに真っすぐ俺を見つめて黙って頷いた。



「頑張ります」


「ああ、頑張ろうな。2人とも、気を付けて」


「うん!」



 俺たちは3手に分かれてうじゃうじゃと湧いてくるゴブリンもどきに向かっていく。


 俺は地面に手をつく。影から剣を取り出して、目の前に立ち塞がるゴブリンもどきの心臓部分に突き立てた。刺すなら刀より剣の方が向いている。



「〈火属性魔法〉」



 剣先を引き抜いてから傷をつけた隙間から見える内部に爆弾を仕込む。俺が1歩飛び退いた瞬間、ゴブリンもどきは爆発して粉々に爆ぜた。


 一息吐く間もなく次のゴブリンもどきに飛びかかろうと地面を蹴る。けれどその瞬間にゴブリンもどきの石斧が俺に向かって振り下ろされた。慌ててサランの空気凝固の魔法をイメージする。



「〈風属性魔法〉」



 足下に出現した空気の塊を蹴り飛ばして石斧を避ける。石斧は固い空気を叩き落として、地面にはクレーターが出来上がった。あんなの当たったらひとたまりもない。



「〈水属性魔法〉、〈闇属性魔法〉」



 いつも冷凍するときに使うコンボでゴブリンもどきの右腕の動きを止める。左腕の石斧が振り上げられたが、俺は構わず右腕からゴブリンもどきの身体を駆け上がった。心臓部分に飛びつこうとする俺に左腕が振り下ろされる。



「〈風属性魔法〉」



 ゴブリンもどきの心臓を軽く蹴って地面に落ちる。その瞬間に羽衣をイメージしてふわりと柔らかく地面に着地した。ゴブリンもどきの左腕の石斧は上手く彼自身の心臓部分を破壊した。



「〈風属性魔法〉」



 露わになった魔石をゴブリンもどきに繋ぐ回路を風の刃で斬り離す。ゴブリンもどきが前に倒れ込むと同時に魔石が落下する。俺は魔石を掴んで地面を蹴った。



「〈風属性魔法〉」



 風を噴射して加速してギリギリ倒れるゴブリンもどきの下から脱出した。そしてその勢いのまま、1体のゴブリンもどきと戦うリオラの背後に迫っているゴブリンもどきの背中に手を翳した。



「〈土属性魔法〉、〈火属性魔法〉」



 即席の特殊加工をしたナイフを飛ばすとゴブリンもどきの背中、心臓のちょうど真裏にナイフが刺さる。



「3、2、1」



 俺のカウントダウンに合わせてゴブリンもどきに刺さったナイフが爆発する。別に俺がイメージすれば爆発するわけだからカウントダウンには何の意味もない。ただ雰囲気を出すため。


 なにはともあれこれなら遠隔でも倒せることが分かった。それは良い収穫だった。どうしてもっと早く思いつかなかったんだろうな。力があっても上手く使えなければ宝の持ち腐れというものだ。


 集団で俺に向かって来てくれる10体程度のゴブリンもどき。さて。実験の検証をさせてもらおうか。


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