それぞれの戦闘スタイル


 正門の龍の口の前で8人と1丁でゴブリンの到達を待つ。アルハはもう1度森の上空を飛んで偵察に行ってくれた。



「デカいのが来たらサクヤたちに任せて良いんだよな?」


「はい。俺を中心にリオラとサランで迎え撃ちます。望実は通常のゴブリンの討伐に回ってくれるか?」


「分かった。剣は使って良いんだよね?」


「ああ。むしろ使ってくれ」



 俺の言葉に頷いた望実は、腰に差していた剣を抜きやすいように調整し始めた。リオラはナイフの確認、サランもスパイクが緩まないようにしっかり固定し直している。俺の刀は昨日のうちに丁寧に研いであるし、こちらの準備は万端だ。


 ドクラさんたちも剣や槍、斧の確認をしている。特に消耗品を使って戦うトリクスタさんは備品の確認を念入りにしているらしい。肩がけのアイテム袋3つに大量に備品を忍ばせているらしい。



「サクヤ!」



 こちらの準備が整ったころ、偵察に行っていたアルハが戻って来た。



「北の大群がもうすぐ到着するわ。東西からは怪物ならあり得ないくらいゆっくり進軍してるみたいですわ」


「なるほど。ありがとうございます」


「いえいえ。さて、私も戦闘の準備を始めようかしら」



 アルハはそう言うと高く飛び上がって、正門の龍の鼻の頭に止まった。そして翼をついばんで綺麗にし始める。〈魅了〉の使用には見た目の美しさも関わってくるのだろうか。


 アルハが身だしなみを整えているのを観察していると、不意にペタペタという足音が耳に届いた。



「サクヤお兄ちゃん」


「ああ。お出ましだな」



 獣人の耳を持つ俺とサランが戦闘の構えを取れば、みんなも戦闘態勢に入った。



「俺が取り逃したやつらをお願いします」


「了解!」



 俺とドクラさんが前に立って、その後ろにリオラとサラン、マキリさんとランスさん、1番後ろに望実とトリクスタさんが構える。ドクラさんたちは戦闘時の立ち位置が明確になっているらしい。俺たちも見習うべきか、悩ましいところだ。



「殺す!」


「奪う!」


「街!」


「肉!」



 森から一斉に飛び出してきたゴブリンたちが喚きながら俺たちに向かって石斧やナイフを向けてくる。木の上にも弓矢を持っている奴が見える辺り、連携してくるタイプらしい。多少厄介ではあるけれど、敵わない相手ではない。



「ドクラさん、矢を防いで! 望実、木の上の奴らを片っ端から頼む!」


「了解!」


「分かった!」



 ゴブリンたちがわらわらと出てくる。ドクラさんは大きな盾を振り上げて、上から狙いにくくしてくれる。



「お願い!」


『任せなさい!』



 望実と母さんも矢を連発して、片っ端からゴブリンの頭部を打ち抜いていく。光の矢が曲がりながら敵を追撃していく様に、ドクラさんたちは目を見張っていた。



「嘘だろ」


「あり得ん」



 うちの家族は凄いだろ、と心の中で自慢する。さて、そろそろゴブリンもある程度近づいてきてくれたことだし、俺も自分の仕事をしようか。



「〈風属性魔法〉」



 〈風属性魔法〉で俺たちの耳回りの空気を固める。急に音が聞えなくなったことに全員が驚いているけれど、次の魔法を聞かれたら戦闘不能になってしまうからな。



「〈睡眠導入〉」



 最初のゴブリンが膝から崩れ落ちるように倒れる。次々とゴブリンたちが倒れていく中で〈風属性魔法〉を解除する。



「倒れているのは後でで良いです。出てくるやつらを叩いてください」



 抜刀するなり先陣を切ってゴブリンの群れに突っ込んでいく。向かってくるゴブリンを刀で斬って、薙ぎ払って、刺し貫く。後ろから追ってきたドクラさんも盾でゴブリンを押さえて剣で叩き斬る。


 リオラは俺が今朝渡した方のナイフを投げて、百発百中でゴブリンたちに風穴を開けていく。サランは流石の身体能力を生かして飛んだり跳ねたり。的確に相手の急所に殴り込んで、メリケンサックやスパイクで血みどろにしていく。


 マキリさんは斧を振り回す。そして斧を投げたと思ったら、柄についていた鎖を手繰って手元に収める。時にはチェーンで相手を絡めとって締めあげていて、戦闘スタイルの多様さに驚かされる。


 ランスさんは双槍を振り回して少し遠くにいる相手も一気に薙ぎ払う。刺したり切ったり、鍛錬を積み重ねていなければできないだろう動きのキレとしなやかさだ。


 トリクスタさんはフラスコのような瓶を放り投げる。その着地点でフラスコが激しく爆発すると、その周辺にいたゴブリンたちが爆ぜていく。他にもクナイのようなものを放り投げる。それが地面に刺さると、そこには土壁やツタが現れてゴブリンたちの進行を妨げる。仕組みについて今度詳しく聞きたいところだ。


 そしてトリクスタさんのクナイと同時に後方から飛んでくるのが望実が放つ母さんが作る光の矢だ。木の上のゴブリンを倒し終わったのか、地上のゴブリンを狙って矢を降らせてくれる。俺たちに当たることがないから、普通に戦うことができる。



「おい、なんだあれ!」



 突然剣でゴブリンを叩き斬りながらドクラさんが叫んだ。ゴブリンもどきでも現れたかと思ってその視線の先を見る。すると何故かゴブリン同士で戦い始めていた。


 仲間割れかと思ったけれど、ゴブリンたちの頭上を飛び去って行く紅の影を見つけた。なるほど。彼女は俺の魔法以上に恐ろしいスキルを持っているらしい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る