価値の基準
バイタオさんと一緒に買い取り部屋に行くと、麻袋が用意されていた。バイタオさんは買い取り金額が記された紙を俺に示しながら説明をしてくれた。
「F級のゴブリン討伐依頼は3体討伐することが条件で、報酬は銅貨3枚、30エンピアが相場です。パンが3本買えるくらいですかね」
命がけでゴブリンを倒して1体あたり100円。仕事の過酷さには見合わない気がするけれど、日本よりも命が軽い世界なのだろうということは分かってきた。
価値が低ければ守られない。だけど俺は望実やリオラ、サランの命を守りたい。そのためには俺が世界最強と言えるほど強くなって、腕づくで守り抜くしかない。
「今回は43体の討伐でしたので試験の特別報酬10エンピアと依頼14つ分で420エンピア、合わせて430エンピアが普通なのですが、今回は大群の討伐で危険度はB級相当でしたので、依頼分は2,100エンピア、合わせて2,110エンピアとさせていただきます」
思わぬ収入を得ることができた。内心ガッツポーズをしていると、バイタオさんは紙の次の段を指し示した。
「続いて、ノーツウサギはゴブリンとランクが同じなので依頼報酬も変わりません。ですが肉が売れる分お金にはなりますね。今回は試験だったので1体討伐で特別に10エンピアと、1000gの買い取りで15,000エンピア、合計で15,010エンピアになります」
「ありがとうございます」
「いえ。サクヤさんたちは討伐の時点からその後のことが考えられた傷の少ない狩り方がされていて、解体も処理も丁寧で質が良いので買い取れる量が多いので必然的に額も大きくなります。質の良さによっては額が上がることもありますから、頑張ってくださいね」
その説明になるほどと納得する。前回買い取ってもらったノーツウサギよりも今回の方が安く買い取られている。やっぱり狩った直後に解体の全工程を終えられるか、冷凍保存できるかが大きく関わってくるのだろう。
「それからヒール草ですが、1本なので3エンピアでの買い取りになります」
めちゃくちゃ安い。ニラ1束30円なんて言ったら農家さんは激怒するだろうな。
「なるべく安価で提供するためにはどうしても安く買い取るしかなくて。ですが安い分積極的に採取に行ってくださる冒険者さんは少なくて。皆さん依頼のついでのお小遣い稼ぎのような認識ですね」
バイタオさんは困ったように笑うけれど、そりゃそうだとしか言いようがない。
「それから、冒険者ランクについてなのですが」
バイタオさんは金額がかかれた紙を麻袋に仕舞いながら話を続ける。
「B級相当の依頼をこなしたということで控えめにC級への昇格をギルド本部へ申請したのですが、やはり通常時の依頼達成個数をこなすように、とのことでE級昇格で留まりました。D級まであと16つ。依頼達成頑張ってください!」
やけに期待の籠った目で見られて、俺は頭を掻いた。魔王であることを隠すためにはあまり目立ちたくはない。だけど可愛い子の期待には応えたくなる。っと、これは前にも言ったかな。
「ありがとうございます。バイタオさんが応援してくれるなら頑張れますね」
なんて格好つけちゃうんだよな。
顔を赤らめて俯きながら麻袋を差し出すバイタオさんから報酬を受け取って、アイテム袋に麻袋を仕舞ってから買い取り部屋を後にする。エントランスに戻ると、すっかり酔っぱらって顔を茹蛸のように赤くしたドクラさんが俺に気が付いて手を高く挙げた。
「サクヤ! どうだった? 金はたくさんもらえたか?」
「まあ、ぼちぼちです。ランクはE級に上がりましたよ」
「やっぱり初日で昇格か! まあ、少なくともD級まで行くかと思ったんだがな」
「本部の連中は親から地盤を継いだ頭の固い連中ばっかりだからね」
こちらも顔を真っ赤にして酔っぱらっているトリクスタさん。ニヤニヤと笑いながら舌好調だ。マキリさんは爆睡しているし、ランスさんは顔色1つ変わっていないように見えて目が座っている。酔っぱらいの相手は面倒臭いぞ。
「お兄ちゃん、ランクアップおめでとう!」
「流石ですね」
「サクヤお兄ちゃん凄い!」
仲間たちも口々に褒めてくれる。嬉しいけれど、みんなのテンションの高さが気になる。お酒は飲んでいないはずなのに、酔っぱらいに見える。もしかして空気で酔ったのか。
「おい兄ちゃん」
どうしたものかと悩んでいると、突然後ろから肩に手を置かれた。なんて、気配には気が付いていたから大して驚きもしなかったけれど。
「はい、どうかしましたか?」
振り返ってみると、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべた、ドクラさんほどではないけれど、とか言ったらドクラさんに怒られるかな、強面で筋肉マッチョな男が1人立っていた。その後ろには雑魚キャラ感が強すぎる低レベルな装備を纏ったヒョロヒョロで、こちらもニヤニヤといかにも悪者感のある笑いを浮かべた男が3人立っている。
装備に関して言えば未だに高校の学ランを着ている俺がどうこう言えることではないけれど。そろそろ装備も変えないといけないか。気づかせてくれて有難い。
「いやなに、話が聞えてきてな。凄い新人が現れたもんだな。昇格おめでとう」
「ありがとうございます」
普通に人当たりが良さそうな顔を作って返事をすると、後ろの3人の雑魚キャラ男たちがさらにニヤニヤと笑い始めた。
「ところで、このギルドでは新人が先輩に奢るのが伝統なんだよな?」
リーダーらしい強面マッチョ男はニタァッと汚い笑顔を浮かべる。なるほど、そういうことか。
俺は望実たちを背後に隠すように立ち位置をずらす。まったく、面倒な連中に絡まれたものだ。
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