冒険者登録
街に帰って冒険者ギルドに入ると、先に戻っていた望実が飛び込んできた。
「お兄ちゃん!」
「おっと」
片手で受け止めると、望実はうるうるした目で俺を見上げてくる。可愛い。可愛すぎる。尊い。生きていて良かった。
「ただいま。待たせてごめんね」
望実を安心させるようにゆっくりと髪を撫でると、望実はスッと目を細めて猫のように微笑んだ。
「私ね、冒険者になれたよ!」
「そうか。おめでとう」
パッと表情を明るくした望実は、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらニコニコと笑う。望実の実力なら難なくなれるだろうと思ってはいても、実際に報告されるとホッとする。
『思ったよりサクッと終わったんだよ。それなのにサクヤがあんまりにも帰ってこないから、望実もすっごく心配してたんだからね?』
『母さんにも心配かけてごめん。望実を守ってくれてありがとう』
『良いってことよ』
母さんはケラケラと笑って嬉しそうだ。あとで望実の試験の様子も聞きたいな。
「サクヤさん。私も冒険者になれました」
「そっか。良かった。おめでとう」
「ありがとうございます」
リオラは少し照れくさそうにしながら報告してくれた。その様子が可愛らしくてつい頭を撫でると、リオラはポッと頬を赤らめてはにかんだ。
ちょっと距離感を間違えたかも、と思う俺に望実の視線が冷たく刺さる。やめて、望実の冷たい視線ほど辛いものはないから。
「サクヤお兄ちゃん、ボクもなれたよ! 凄い? 偉い?」
「ああ、凄いし偉いぞ。おめでとう」
サランは嬉しそうに頭を俺に向けてくる。頭を撫でて欲しいんだなとストレートに伝わってきて、あまりの可愛さにわしゃわしゃと撫で回してやった。
「サクヤ、報告に行くぞ」
「はい。みんな、ちょっと行ってくるな」
望実の頭を軽く撫でてからランスさんについて受付に向かうと、バイタオさんが笑顔で迎えてくれた。しっぽをふりふりしながら買い取り部屋に案内されて、俺は部屋の中央に置かれた机にヒール草とノーツウサギ、合計43体のゴブリンをアイテム袋から取り出した。
「こ、こんなにですか!」
目玉が零れ落ちそうなほど目を見開いたバイタオさんは、ひとまずヒール草とノーツウサギ、そしてゴブリン1体の鑑定をしてくれた。
「ヒール草とノーツウサギ、ゴブリン討伐の依頼達成です。サクヤさんを冒険者として登録します」
「ありがとうございます」
バイタオさんはニコリと笑って1枚のカードをくれた。
「これが冒険者カードです。サクヤさんのステータスや冒険者としての成績もここに遠録されます。身分証にもなるので無くさないようにしてくださいね」
「ありがとうございます」
冒険者の証とも言えるカードを受け取って、俺はようやくこの世界で生きている実感が湧いてきた。バイタオさんはそんな俺をニコニコと笑いながら見ていたけれど、次の瞬間には険しい顔になっていた。
「それで、これ程の数のゴブリンはどこにいたんですか?」
俺がゴブリンがいた洞窟のことを伝えると、バイタオさんは難しい顔で顎に手を当てた。
「これ程の数のゴブリンが、洞窟の中に逃げることなく立ち向かってきたとなると……ゴブリンキングとクイーンの存在が考えられますね」
「ああ、その可能性は非常に高い」
「あの、ゴブリンキングとクイーンっていうのはなんですか?」
俺の質問にバイタオさんが答えてくれたことをまとめると、ゴブリンキングとクイーンが生まれると、ゴブリンの群れが爆発的に大きくなる。そして住処が満員になると、ゴブリンたちが新しい住処を求めて大移動を始める。それが街にやって来るとゴブリンスタンピードと言われる襲撃になるらしい。
「スタンピードが発生する前にゴブリンキングとクイーンを討伐する必要があるな」
「はい。すぐにでも討伐隊を編成して対処に向かってもらいます」
「分かった。我々も参加しよう」
「ありがとうございます!」
ランスさんの申し出に、バイタオさんは目を輝かせると、耳をピンと立ててしっぽを振った。A級冒険者が協力を申し出てくれるなんて、ギルドとしては願ってもないことだろう。
「それと、そのゴブリンの洞窟の前で妙なものを見たんだ」
ランスさんはゴブリンもどきのことを俺の考察も含めてバイタオさんに話して聞かせた。バイタオさんは信じられないといった様子で聞いていたけれど、次第に顔を青くした。
「そんなのがもし大群で襲ってきたら、マリアーナは壊滅しますよ!」
「ああ。今回はサクヤが1人で討伐したが、私が1人で討伐できるかと言われれば自信が無いというのが事実だ。上級の冒険者で束になってやっと倒せるような相手だろう」
「待ってください。サクヤさんはそんな相手を1人で倒したんですか?」
バイタオさんは眉間にシワを寄せる。信じられないと言いたげな目に、仕方がないとは思いつつも少しだけショックだと思った。
「今回はたまたまです。運が良かったんですよ」
俺はそう言って誤魔化すことしかできなかった。それに実際のところ、ゴブリンもどきの首に切れ目があったことは運が良かったと言えるだろう。
「サクヤさん、あの大量のゴブリンもそうですけど、絶対に無茶はしないでくださいね?」
「はい。心配してくれてありがとうございます」
耳を垂らしたバイタオさんに微笑みかけると、バイタオさんは少しだけホッとしたように肩の力を抜いた。心配もしてくれていることは嬉しいけれど、さっきのショックが未だに抜けない。
「さて、このゴブリンたちの鑑定をして報酬をお渡ししますので、少し待っていてください」
「それならサクヤ、少し茶でも飲まないか?」
「はい、喜んで」
「よし来た。バイタオ、エントランスで飲んでるから、終わったら声を掛けてくれ」
「分かりました」
バイタオさんに見送られて受付の前、エントランスに戻ると、望実たちはドクラさんたちに勧められたのか既にコップを手にしていた。
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