皇帝の創造物
ゴブリンもどきの足元から駆け上がり始めると、それまで全く俺に気が付いていなかったゴブリンもどきも流石に気が付いたらしい。石斧を俺に向かって振り下ろしてくる。
俺がそれを避けると石斧が自らの身体を傷つける。けれどゴブリンもどきはやっぱりそれを意に介することなく俺を狙い続ける。
「お前、俺が倒す前に倒れるぞ」
俺の言葉を理解することもできないらしいゴブリンもどきは、とめどなく石斧を振り下ろす。俺はそれを躱しながらゴブリンもどきの頭部を目指した。
魔石をエネルギーにしてはいるけれど、それがどこまでこのゴブリンもどきの行動を支えているのか分からない。それなら確実に根元から壊してしまいたい。
「サクヤ!」
下からランスさんに呼ばれてチラッと振り向くけれど、今視線を足場から離し過ぎるのは危ない。特に用事はなさそうだったからそのまま無視して頭部を目指し続けた。
ゴブリンもどきの肩を這い上った瞬間、首元にわずかな切れ目を見つけた。俺の刀なら切れ目の幅より薄い。ここからなら少ない抵抗で斬れるはず。だけどここで失敗すれば基盤を叩き割るチャンスを失うことになる。
脆そうな切れ目の傍にいる俺にも石斧は飛んでくる。石斧をゴブリンもどきの耳に飛び上がって回避すると、石斧はそのままゴブリンもどきの切れ目に刺さった。
石斧が離れると切れ目が大きくなっていた。中で回線がショートして火花が散る。ゴブリンもどきはふらりとよろめいて、石斧をめちゃくちゃに振り回し始めた。
石斧は身体に当たったり、適当な地面を叩いたり。俺とランスさんに狙いが定められることがなくなった分、動きが読めなくて余計に動きにくい。
「頭が落ちれば問題ない、か」
こうなってしまえば覚悟を決めるより他にない。俺は耳から肩に飛び降りて刀を構えた。短い助走で切れ目に斬り込むと、そのままゴブリンもどきの肩から斜めに飛び降りた。斬る力は自重と落下を頼りに、自分は刀を握る手に力を込めて必死に刀にしがみついた。
刀の方からブチブチと回線が切れる音がする。何かに引っかかって刀が止まりそうになるたびに足を振って遠心力で無理やり刀を前に進める。
決して格好良くはないけれど、他に手がない。いや、本当にそうか?
刀の先でショートした回線が火花を散らすのを見てひらめいた。〈火属性魔法〉は使えないけれど、使える〈無属性魔法〉がある。そしてこの状況なら、スキルと言わずとも誤魔化せる。
「〈発火〉」
小さく呟きながらもう1度足を振って刀を進める。ブチッと回線が切れた瞬間、バチッというショートした音に先駆けてボッと火がついた。
「ダァッゴラァッ!」
望実が近くにいたら絶対に出さないような声を出して最後の一押し。火がついたことで斬れやすくなったのか、一気に胴と頭が離れた。そしてその勢いで俺は地面に放り出された。
「サクヤ!」
ランスさんの声が耳に届く。1回転して勢いを殺してから5点着地。低レベルとはいえ〈体術〉スキルを会得したことでできるようになった着地方法だ。
俺が着地した直後、後ろにゴブリンもどきの頭部が落下して地面にめり込んだ。俺の上に落ちて来なくて良かったとホッとしたのも束の間、頭が落ちたせいなのか、ゴブリンもどきの動きがさらに荒々しく、不規則になった。
頭部を叩き割ろうとした俺の背後にも石斧が振り下ろされて、一旦頭は諦めて飛び退いた。チラリとランスさんの方を見ると、ランスさんは俺の方に駆け寄ってこようとしていた。しかしその動線上にもう1本の石斧が振り下ろされる。
ランスさんの足が速いおかげでランスさんに直撃するか、ギリギリその後ろに落ちるだろうかといった位置。止まれと言えば良いのか、駆け抜けろと言えば良いのか。
「危ない!」
中身のない言葉しか言えないまま、石斧に気が付いていない様子のランスさんの元まで走って抱き寄せる。その直後、ランスさんがいたはずの位置に石斧が刺さった。
「す、すまない」
「いえ。俺が魔石を壊しに行く間、死なないでくださいね」
俺は内心バクバクと鳴る心臓を抑え込む。腕の中で悔しそうな顔をしているランスさんをその場に残して、俺はまた振り下ろされて洞窟の壁に刺さった石斧に飛び乗った。そこから腕を伝って駆け上る。
首を落されたゴブリンもどきは首を燃やしながら、ギチギチと軋む音を立てる。体中も自傷のせいでベコベコになっている。それでも石斧を振り回し続けるゴブリンもどきが可哀想に思えて来た。
「すぐに楽にしてやるからな」
魔石があるのは心臓部。刀を鞘に戻して隣に差していたナイフを抜いた俺は、腕を振り回すゴブリンもどきが石斧を地面に刺して動きを止めたその一瞬の間にゴブリンもどきの胸元に向かって踏み切った。そしてその勢いのままナイフをゴブリンもどきの心臓部に突き刺した。
ナイフは固い体表に刺さりにくい。だけど身体のへこんだところに足を掛けてバランスを取りながらもう1度ナイフを振りかぶる。1度斬り込みがあったところに上手く刺さると、ナイフはそのまま心臓部まで深く突き刺さった。
声はない。だけどガチャン、ゴンッ、バチッ、と音を立てながらゴブリンもどきが崩れていく。倒れていくゴブリンもどきにしがみついて、地面が近づいたところで転がっている頭の方に飛び降りた。
またナイフを腰の鞘に戻して、落ちていたゴブリンもどきの石斧を拾いあげる。案外重たいな。
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