ゴブリン討伐


 後ろからランスさんがこちらに走って来る音がする。目の前からはゴブリンたちが武器を手に俺に向かって来る。ランスさんが俺の声が聞える範囲に来る前に片を付けた方が良さそうだ。



「敵だ!」


「殺せ!」



 ゴブリンの言葉も分かるんだなと冷静に考えながらゴブリンをなるべく惹きつける。1度になるべく多くのゴブリンを倒せた方が楽なはず。MPもHPも消費しないけれど、面倒なことは避けた方が精神衛生上良いだろう。



「〈睡眠導入〉」



 昨日の夜全員に魔法をかけたときに思いついた戦法。それは向かってくる敵全てを眠らせてしまうこと。


 タイミングを見て発動すると、思った通り目の前のゴブリンたちはバタバタと倒れてその場で寝息を立て始めた。



「こ、これは一体……」



 後ろで戸惑っているランスさんのことは無視して、ゴブリンたちに止めを刺しながら1体1体アイテム袋に収納する。ランスさんがいなければそのまま影に収納できるのに、と思うと面倒だけど仕方がない。


 ゴブリンたちを収納しながら、洞窟からさらに溢れてくるゴブリンたちを眠らせていく。他の魔法も使えれば楽だけど、基本的には1人1つしかスキルを持たないらしいから諦めるしかない。


 なんて思うけれど、この魔法だけ使えれば相当戦いやすい。実際ほとんど戦っていないし、怪我のリスクも遠距離戦闘を極めるより低い。これはこれからも活用したい魔法だ。


 洞窟の外に出て来た40体程度のゴブリンたちを倒しきってから洞窟の中に足を踏み入れると、目が合ったゴブリンたちは洞窟の奥に逃げ帰って行った。


 さらに奥に行こうとすると、ランスさんが俺の肩に手を置いて止めてきた。一々止められてそろそろ面倒臭く思えてくるけれど、俺を心配していることは分かっているから足を止めた。



「これ以上深追いする必要はないんじゃないのか?」


「これだけの群れを放っておいて良いんですか?」



 俺の返事にランスさんは返事に窮した。しかししばらく考え込むと首を横に振った。



「放っておいて良いわけがない。だがしかし、サクヤが1人で挑む理由はない」


「レベルも上がるし、素材も1人占めできますよ」



 俺の返事にランスさんは呆れたようにため息を吐く。だけど実際問題ゴブリンをこれだけ倒せばレベルは上がる。


 ステータス表を見ていないから正確なことは分からないけれど、レベルが上がっている感覚はある。多分STRやDEXも上がっているはず。



「そうは言っても危険だ。ここまでやれば実力証明には十分だ」



 ランスさんは引く気がないのだろう。今までで一番きつく睨みつけられてしまった。これ以上はランスさんの面目にも関わるだろう。俺は諦めて両手を上げた。



「分かりました。今日は諦めます」



 俺の言葉にランスさんはホッと息を吐いた。そして俺が洞窟を出るのを確認するように後ろをついて来た。これだけの収穫があれば十分だったかと内心肩を落としながら洞窟を出ると、その瞬間目の前に大きな影が立ち塞がった。


 刀の柄に手をかけながら相手を見上げると、さっきまでのゴブリンの3倍はありそうなゴブリンがいた。



「ギャー!」


「な、なんだこれは……」



 ランスさんの顔がサッと青くなる。俺は手を翳して〈睡眠導入〉を発動したけれど、このゴブリンには効果がないらしい。ゴブリンはまた遠吠えのような奇声を上げた。



「ギャー」



 どこかおかしい。このゴブリンは言葉を話さない。正確に言うなら、鳴き声に意味がない。


 ゴブリンが手に持った石斧をブンッと振り下ろす。俺ではなくランスさんを狙っているようだ。



「ランスさん、下がって!」



 俺が言うまでもなくランスさんは飛び退いて攻撃を避けた。大きさの割に動きが俊敏だ。とはいえフロスと戦った時ほどの危機感はない。油断はできないが、勝てない相手ではない。


 ゴブリンが今度は俺を狙って石斧を振り下ろす。俺はそれをスレスレで躱して抜刀しながら斬りつけた。


 狙い通りに斬り込めたけれど、太すぎる腕の半分も切れなかった。それどころかゴブリンは真っ青な魔液がダラダラと垂れる腕を気にする素振りも見せずに再度俺を狙って石斧を振り下ろす。


 異常だ。俺は今度は攻撃せずに飛び退いてゴブリンと距離を取った。



「エグスめっ! はぁっ!」



 俺が戦線離脱したと判断したのか、それとも俺では力不足だと判断したのか。ランスさんが双槍でゴブリンの足元を薙ぎ払う。けれどやはりゴブリンは切られたところを気にすることなくランスさんに石斧を振り下ろす。


 鳴き声に意味がなく、痛みに対して反応もない。これが本当にゴブリンなのか?



「〈鑑定〉」



 ゴブリンにしては強すぎるステータス。魔液を流していたのにMPはゼロ。スキルも魔法も持っていない。その称号は〈皇帝の創造物〉。きな臭い称号だ。そしてあいつの近くに行ったときに聞こえた聞き慣れたモーター音。


 皇帝、つまりエンペルスがエグスに見せかけて作って送り込んできた機械仕掛けの敵。それがこのゴブリンもどき、というわけか。


 ランスさんを追い回すゴブリンもどき。機械仕掛けならエネルギー源を絶つか基盤を壊せば機能停止させることができるはず。緊急停止ボタンなんてものがあるかもしれないけれど、エンペルスがそこまで安全管理に余念がないかは分からない。



「〈探知〉」



 とにかく基盤を見つけてぶっ壊す。現代的なロボットと同じ仕組みになっているらしいゴブリンもどきの内部。エネルギー源の魔石は心臓の辺り、基盤は分かりやすく脳の部分に埋め込まれている。



「分かりやすくて助かったよ」



 俺はゴブリンもどきがランスさんに気を取られている間に、気配を消してその背後に回り込んだ。



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