第36話 再会の狼煙 ” 雷樹 ”
「......ふぅ......このぐらいの大きさで大丈夫かな?」
額に汗をにじませたネプの両手には、気相法で造られたこぶし大の見事なダイヤモンドが鎮座していた。
ウランがそれを覗き込み、ガスの噴出孔と見比べる。
「大丈夫よ、孔に押し込みましょう。」
「んじゃ、よっしょっと......。」
ネプはダイヤモンドを噴出孔に押し込み、踵でガンガンと踏み込んだ。
ダイヤモンドが孔にがっちりと喰い込み、ガスの噴出が止まった。
「熱に強く、頑丈なダイヤモンドなら永くこの孔をふさぐことができるはずよ。」
「そうだね、お仕事も終わったしあとは人の子に任せちゃおう。帰ろ?」
「うん、ネプちゃんお疲れ様でした。」
二人はお互いの労をねぎらうと、坑道を出口に向けて歩き出した。
しばらく歩くと、月の明かりを湛えた藍色の夜空が坑道の出口から優しく覗かせた。
「あぁ、やっと出口だ。案外歩いたなぁ......。」
「道が見えにくいと距離感分からないわね。新鮮な空気が楽しみだわ。」
二人は達成感と喜び、そして少しの疲労感を口にしながら坑道を出た。
そしてすぐさま夜空に舞い上がり、夜の冷たい新鮮な空気を堪能した。
夜空は、優しい月の明かりと凛とした星の輝きのコントラストでにぎやかだった。
そう、にぎやかだった。
いや、騒がしかった。
明らかに耳にうるさい音が聞こえるのだった。
その騒音は、空を裂くような甲高い音、巨人の足音を思わせるドシンドシンとした音と空気の振動、そして遠くに聞こえる叫び声たち。
「......ねぇウランちゃん、何かおかしくない?」
「この音、空耳じゃないよね............ッ!?ネプちゃん、街の方を見てッ!!」
「えっ......な、なにこれ......!」
二人の視線の先にある街からは、どす黒い煙が至る所から立ち上っていた。
そして街全体が、大小の火炎の嵐に街を夕焼けに当てたように紅く染められていた。
「ど、どうなってるの......!」
「行きましょ!現状を把握するの!」
二人は街の方へと光の矢の如く、飛行した。
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ハボローネ ボツワナ首都 上空800m
上空からみた街の様子は何もかもが炎に包まれ、明らかに破壊され、まさに地獄の様相だった。炎の勢いは非常に強く、火炎の渦が発生するたびに熱気がここまで伝ってくる。まさに空を焦がす勢いであった。
その中を、人々が群を成して逃げ回っており、街は混乱しきっていた。
「......ひどいね......。」
「一体何が......あっあれは!」
ウランが街の北側を指さすと、そこには地面に何かがたくさん這っている様子が見えた。
その何かは黒い砂煙をもうもうと立てながら猛烈な勢いと数で街に押し寄せてくるのであった。そしてそのうちのいくつかは、立ち止まり、猛烈な光と爆発音を放った。
「......あれは......なんだ?......武装化された車両......?」
「......戦車と装甲車ね......何の組織が?何故こんなことを?」
「ミリタリーにしても国防軍なのか他国の軍隊なのか、わからないね......。」
「ともかく、なんとかしないとっ......!」
「待って!」
ウランは戦車たちの群れに突っ込もうと身構えたが、ネプはウランの腕をつかんだ。
「......ウラン、ちょっと無謀だよ?この規模の組織を相手にするには、地球の
その言葉を聞いたウランは、何かに気が付き、構えを解いた。
「......お姉ちゃん......。」
「..................。」
沈黙する2人には構わず眼下では侵攻に伴い、見慣れ、愛着のある街の破壊と殺人が勢いを増し、進んでいた。
巻き上がる炎の熱気が、より過激さを増す。
二人の葛藤を炙り、あまつさえ火をつけ、駆り立てるかのように。
ネプがふと顔を上げた。
「......そうだ、
「...あっ......でもこの状況、何か誤解を招かないかしら......?」
「......大丈夫よ、きっと分かってくれるわ、賢いあの子ならば。」
「............。」
「これだけ多くの私たちの愛しい人の子達が、傷つき悲しむ状況は、一瞬、それだけも認められない。」
「......分かったわ、お姉ちゃんとあの子を信じるわ。」
「......うん、ありがとう............さぁ再会の狼煙”雷樹”を上げよう!」
ネプは、右手を雲に向かってかざし、ウランは両手をネプの肩にかけた。
「ありったけの電流を、高度が高い雲に指向するっ!!地上から逆流する雷、通称”雷樹”を生成するのよ!!」
「大丈夫!わかってる!お姉ちゃん、力を貸すから全力で受け止めてよっ!!」
......ブゥゥゥーーーーンという空気が鈍く震える音が電力の高まりに伴い、大きく大きくなってゆく。
二人の身体から青くぼんやりとした光の球が、大小と溢れ出る。抑えきれない体内の電力の高まりがそうさせるのだ。
「......あぁっ......くぅっ......!!」
ネプの手の指の間に青白いアーク電流が走る。
「......うぅ.......いっ!!」
ウランの両腕も絶縁破壊のために、小さな爆発が起き、傷ついていた。
本来なら2人にとって繊細かつ大胆な電気操作を行うことは、息をするがごとく簡単な技術だがこの時間だけは、すべての力を掌という極点に集中させるために、すべての気力・集中力が費やされていたのだ。
2人の
......鈍い振動音はジェット機のような高音に変わり、鋭く響いた。
一方。ネプの右手から青白い稲妻の奔流が、噴水のようにあふれ出していた。
「.......ぁ”ぁ”ぁ”あ”.......も”うげ、げんかいっ!!げん”がい”っ!!はな”ずよ”っっ!!??」
「ぁ”ぁ”あ”あ”あ”あ”あ”......い”いい”い”......い”い”い”い”い”ッttt!!!!!!」
............二人が決心したその刹那、世界は白い光に飲み込まれた。
そして世界は、もうまもなくして........................殺人的な音圧に押し潰された!!
ゴゴオゥン”ン”ン”ッ!!!!!!!!!
「........................あ”ア”ッッッ!!!!!????」
「........................ンッ”ッ”ッ”ッ”ッ”!!!???」
それと同時に、同時に、二人の身体は一気に地表に向けて勢いよく振り落された。
身体の電荷を雲に引っ張り上げられた反作用で、地表に向けた大きな力が働いてしまったのだ。
加速された落下速度は、計り知れないほど速く、飛行体制を立て直さねば星女でも即死は免れないほどの衝撃力になり得た。
しかし
(......がっ.....!!??翼を展開する電力が、残ってないッ!!!!)
(.......あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”あ”tッッ!!??)
二人とも飛行に費やす電力まで雲に吸引されてしまったのである。
「「う、う”わ”ぁ”あ”あ”あ”あ”ッッ!!!!!!」」
硬い瓦礫の市街地に向けて二人は、隕石のように落下を続けた。
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