第21話 雨が洗い流すもの
黒く焦がした地面から立ち上る白煙の中に、ママは立っていた。
額には玉のような汗を浮かべており、動揺している様子が見て取れた。
「あきらちゃん......!」
「ママ......!」
私たちはふらふらとよろめくようにお互い駆け寄り、抱きしめ合った。
私は小さくて暖かいその身体を抱きしめた瞬間、安堵から気が緩み、涙がとめどなくあふれた。
「うぅ......怖かったよぉ......!」
「ごめんね、ごめんね......!」
涙も鼻水も止められなかった。このように泣いたのはいつぶりなのだろう。恐怖と安心感のギャップを根拠にしたこの感情は、子供の頃にしばしば感じたものだった。
「その様子だと、アンタもてこずったようね。」
エブレンが腕を組みながら口を開いた。
「......助かったわ...........あきらちゃんのことを、ありがとう......。」
「............気にしないで、たまたま近くにいただけよ。」
「..................。」
「今回のアンタの相手はどんなやつだったの?」
「低級だけど増殖が速くて個体数が多かった......焼き払うために時間がかかった。」
「なるほど、そっち系ね。こっちはまとまってくれててある意味助かったわ。」
「アンタがやってくれたの?」
「もちろん、プラズマで内側から焼いてやったわ。......奴は神経性ガスをその子に吸わせて麻痺させたまま捕食しようとしていた。神経ガスの影響は、強制電気分解法で処置して、回復したからもう大丈夫よ。」
「あ......ありがとう......。」
「......その子、あたしたちを手伝ってくれたの。とても嬉しかったし、助かったわ。これくらいのことは当然よ。」
「............。」
「.....ねぇ、あたしたち、何を争っていたんだっけ?」
「............。」
「正直、あたしは思い出せない。」
「............。」
「アンタを久しぶりに見たとき、何となく思い出せそうな気がして、何となく怒りに狩られた気もしたんだけど、今となってはその気持ちとか思いは本当の自分のものじゃない気がしているの。」
「............。」
「今の気持ちは、孤児院の子供たちやあきらのことが心配なばかり。この子たちを宇宙の果てから降ってくるクズどもから守りたい、本音はそんなところよ。」
「............。」
「アンタはこの
「............。」
「でもね、ずっと言いたかったことは、覚えてる。」
「え......。」
「......あの時はただ自分の思いを理解してほしくて......ひどいことを言って、ひどいことをして............ごめんなさい。」
ママに抱きしめられている私の肩に冷たい雫が降りかかってきた。
......雨のようだった。ママが雷電体で来れたということは、上に雨雲があるに違いなかった。
冷たい雨が、2滴3滴と降り続いた。
「ほんとうに......ごめんなさい。」
「......わ、わたしもっ......!!」
ママが続けて言った。
「......す、すなおに、なれなくて......ごめんなさいっ......。」
雨がしとしとと降り急ぎ、勢いを増した。
「......あなたたちの確かな気づかいに気が付きたくなかった......自分が弱いものと認めたくなかった......自分の過ちを認めたくなかった.......。」
私の背後からエブレンが覆いかぶさり、私を挟んでママの肩を抱いた。
ママの小さな体は大きく小さく嗚咽で揺れた。
「......もうあなたは立派な
そうエブレンに言われると、ママの私の肩を抱く力が強くなり、それに合わせて嗚咽も強くなった。
その様子は少し苦しそうだった。まるで細いホースを使ってダムに貯められた大量の水を出すことが簡単ではないように、大量の複雑な感情や我慢が、ママの細い喉を通ることができずにいた。
そしてエブレンは私に強く体を押し付けると、身体越しにママを強く抱き、ぽつりと言った。
「......今度こそは、一緒に戦わせて......。」
雨は勢いを増し、季節外れともいうべきものとなった。
そんな激しい雨は二人の過去と心を洗い流しているようであった。
そしてこの雨は、何を育むのだろう?
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