第19話 腐食性代謝生物
「ゴボッ......ゴボゴボゴボ......。」
何者かが吐瀉をしている音がハウスの中から這い出してきた。そして同時に甘く、酸っぱい、そして嗅覚から苦みさえ感じられる臭いが漂ってきた。
腐敗臭と酸臭が混ざったその臭いは、私に危険が迫っている直感を知らしめた。
私は、ハウスの中にいる臭いと声の主を見るために、スマートフォンのライトを照らした。
そこには緑色の粘液質の山が積もっており、山の中腹から人間の頭と思わしきバスケットボール大の何かが2つ突き出ていた。頭と思われるそれは、白い歯のような残滓を点々とまとわせた口から、高い粘度の液を吐き出していた。どうやら粘度が高すぎて吐き出すことに苦しんでいるようだった。
「なによ......これ......。」
私はその異形を見た瞬間、これは地球のものではなく、ママの警戒する例の侵入者の末路であることを悟った。いや、末路ではなくこれはこの地球に適合しようとしている半ばかもしれない。
頭らしき二つの突起が私の方へゆっくりと向いた。そして、そいつは我さきにと二つの突起を私の方へゆっくりと交互に伸び縮みさせながら、のろのろと動き始めた、まるでナメクジの触手が動くかの如く。
粘液の山が動くたびに、そいつの身体に埋まっている茶色と白がまだらになった骨のような棒切れや、マネキンの動体の半きれみたいな塊が見え隠れする。これは明らかに人を消化している様子であるが、なぜ緑色の粘液と化しているのか。
そいつが動くたびに、あたりに腐酸臭が充満する。
私は呼吸器が侵される気がして、距離を取ろうとしたが思うように足が動かない。
(......足に力が入らない、動けないっ......!)
そいつはにじり寄りながらハウスの玄関から出て、徐々に私との距離を詰めつつあった。彼我の間で10m程度の距離があったが、それでも息ができないほど激烈な腐酸臭が鼻を突いた。
「ぐっ......ガハッ!!ゴホッ!ゴホッ......!」
のどや鼻が刺激されてせき込み、それらのほかに加えて肺に強い痛みを感じた。
私はたまらず、地面に顔を伏せた。
「......あぁッ!!........あ”ぁ”......!?」
強く痛む胸を押さえながら、私は今ようやく気が付いた。
この激烈な臭いは、毒ガスによるものであると。
「ぐぅっ......。」
胸の痛みはさらに亢進した。
「ゴボッ......ゴボゴボゴボ......。」
何者かが吐瀉をしている音がハウスの中から這い出してきた。そして同時に甘く、酸っぱい、そして嗅覚から苦みさえ感じられる臭いが漂ってきた。
腐敗臭と酸臭が混ざったその臭いは、私に危険が迫っている直感を知らしめた。
私は、ハウスの中にいる臭いと声の主を見るために、スマートフォンのライトを照らした。
そこには緑色の粘液質の山が積もっており、山の中腹から人間の頭と思わしきバスケットボール大の何かが2つ突き出ていた。頭と思われるそれは、白い歯のような残滓を点々とまとわせた口から、高い粘度の液を吐き出していた。どうやら粘度が高すぎて吐き出すことに苦しんでいるようだった。
「なによ......これ......。」
私はその異形を見た瞬間、これは地球のものではなく、ママの警戒する例の侵入者の末路であることを悟った。いや、末路ではなくこれはこの地球に適合しようとしている半ばかもしれない。
頭らしき二つの突起が私の方へゆっくりと向いた。そして、そいつは我さきにと二つの突起を私の方へゆっくりと交互に伸び縮みさせながら、のろのろと動き始めた、まるでナメクジの触手が動くかの如く。
粘液の山が動くたびに、そいつの身体に埋まっている茶色と白がまだらになった骨のような棒切れや、マネキンの動体の半きれみたいな塊が見え隠れする。これは明らかに人を消化している様子であるが、なぜ緑色の粘液と化しているのか。
そいつが動くたびに、あたりに腐酸臭が充満する。
私は呼吸器が侵される気がして、距離を取ろうとしたが思うように足が動かない。
(......足に力が入らない、動けないっ......!)
そいつはにじり寄りながらハウスの玄関から出て、徐々に私との距離を詰めつつあった。彼我の間で10m程度の距離があったが、それでも息ができないほど激烈な腐酸臭が鼻を突いた。
「ぐっ......ガハッ!!ゴホッ!ゴホッ......!」
のどや鼻が刺激されてせき込み、それらのほかに加えて肺に強い痛みを感じた。
私はたまらず、地面に顔を伏せた。
「......あぁッ!!........あ”ぁ”......!?」
強く痛む胸を手で押さえながら、私は今ようやく気が付いた。
この激烈な臭いは、毒ガスによるものであると。
「ぅぅぐっ......!!」
胸の痛みは激烈に亢進し、もはや身体全体をまげて胸を押さえねば耐えられなかった。苦痛のあまり私の意識は明瞭であったが、戦闘能力は完全に失われていた。
私が苦痛で動けぬ間に、そいつは私との距離をますます縮め、3m程度まで差し迫っていた。
この距離まで迫られると、粘液の山に埋もれた細かい人間の残滓がよく見える。
そして、こいつに喰われた犠牲者たちの指や目、何かの塊が、粘液の山から私を見返している。
そいつが触覚のような頭からごぼごぼと粘っこい塊を、大量に吐き出すとより一層強い腐酸臭が爆発した。
ブチッという音が頭の中で響くと、その瞬間からあれだけ叫び声を上げていた私の嗅覚と痛覚が水を打ったように沈黙した。そして直に呼吸をしている感覚が分からなくなり、胸のなかに冷たい水がつつーっと流れ落ちる感覚に襲われたのであった。
身体の感覚がなく指の一本さえ、動かせない。宙に浮いているような感覚。
粘液の山から突出した頭が私の身体の前に差し出された。
「......ママ、ごめんなさい......。」
頭が私のブーツをゆっくりと食むと、ジューっという焼ける音が聞こえてきた。
それは私は自らの死の足音を聞かされながら、なすすべもなく転がっていた。
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