第17話 惑星を武器にする者2

 ザッザッザッザザザザーーーーッ!!!



 私たちは勢いよく砂漠に足から突っ込み、そして止まった。

 あたりに濃い赤の砂煙が立ち込め、せき込んでしまう。

 この赤い砂の色は酸化鉄によるもので、豊富な鉄資源があることが色でわかるのである。


 ママは、砂を手ですくい私に見せた。




 「一般的に酸化した鉄は電気を通さないと言われているわ。それは鉄の原子が酸素原子に取り囲まれた構造をしているから。でも構造にも色々あって、導電性を持つ酸化鉄ももちろんある。いうに及ばず、自然界には多様性があるがゆえに、様々な構造の酸化鉄がどこにでも存在する。」


 「つまり、酸化鉄は電気通さないって話は心配しなくていいってことだね。」


 「賢いわね、そういうことよ。さぁ恐れず基本的な武器である剣を創ってみましょう。」



 ママはそういうと今度は手の中の砂を、鉄製の剣にあっという間にかえてみせた。

 


 「頭でイメージする形がそのままできると考えて。砂をすくいあげ、電気の力を掌に集中させるの。」



 私は言われるがままに掌に砂をすくい上げ、身体の奥底から湧くしびれる気配を掌に集中させた。


 剣......剣.......剣......どんな形にしようかな......?


 

 

 ビチンッ!!


 

 掌に熱い感覚が走り、水を激しく撃った音が聞こえると私の手のひらにはいびつな形をした濃い灰色の鉄のオブジェが載っていた。

 お世辞にも剣とは言えず、失敗は明らかであった。



 「あー......。」 私はぽいとオブジェを投げ捨てた。


 「あきらちゃんは、どんなデザインにするか迷ってるんじゃないかしら。」


 「へへ、そうだね......。」


 「これを見て、触って、感じてみてごらんなさい。」



 ママは先ほど作った剣を私に渡した。軽々とした動作で渡されたそれはずっしりと重く見た目以上に高密度であった。さらに、まじまじと見てみると暖かい太陽の光を受けているにもかかわらず、剣は冷たい光を返し、威圧的な雰囲気を放っていた。


 


 (なんてすごい威圧感......見た目以上に重いからかな.....。)



  私はママに剣を返すと、目を閉じ、もう一度剣の創造を試みた。



 (......あの剣の姿を思い浮かべろ......冷たく輝き、重たく...大きな...!)



 手の内にさっきよりも熱い流れが迸る。

 不思議なことに手の中の砂よりもはるかに重たい質量が私の手にのしかかる。

 


 (......重たいっ!耐えられないッ!)



 ガヂンッ!!

 鈍い金属音と共に手にのしかかる重さが消えた。


 私が目を開けてみると、目の前には剣が地面に横たわっていた。

 それは私の身体と同じくらいの丈をした大きな大剣だった。

 白銀の刃先に縁どられた濃い灰色の大きな刀身は、ママのものとは異なって太陽の光を返すことなく吸収し、暗い不気味な冷たさを伴っていた。


 私が自ら作った大剣を信じられないという目で見ていると、ママはぱちぱちと拍手して喜んだ。



 「まぁ、なんてすごい!はじめてよ、こんなにすごい大剣をたった2回目で作れた子は。」


 「えっへへ......へへへ......。」


 「でも随分と私のものとは違うわね......。でもいいのよ、本来はこうあるべきなの。あきらちゃんの思いを地球の資源を用いて、具現化する。その結果が、この大剣なの。」


 「ひぇ、私ってこんなこと思ってたんだ......。」


 「それにしてもあっという間に、星女せいじょの能力の一つを新たに獲得できたわね。ほんとにびっくりしちゃった。」



 ママは腰に手を当て、目を丸くし、口を真一文字に結んだ。びっくりだと言わんばかりの表情であった。




 「ちょっとそれを持って、振ってみて。」


 「え、うん......。」



 

 しかし大剣はとても重たく、持ち上げることはかなわなかった。




 「あー......。」


 「ふふふ......やはりね。」




 ママは手を口に開けて、うっすら目を細めながら笑った。




 「次は、創った武器を自らが操れるようにする練習をしましょ。大丈夫、この調子ならすぐにマスターできるわ。」 


 「が、がんばるよ......。」




 ママは私の大剣を軽々と持ち上げると、そのまま棒切れでも振り回すかのように両手で横に縦に振り回した。大剣は銀色の尾を鋭く曳きながら、振り回され、叩きつけられたが、傷一つつかなかった。

 対して大剣がたたきつけられた砂地は、大きくえぐれ、その威力を恐ろしく感じさせる爪痕が刻まれていた。


 そのまま息の一つも乱さず、ママは片手で柄を持ち、大剣を地面に深く刺した。




 「とてもいい大剣よ......あきらちゃんの意志の頑強さが感じられる......。」


 「い、いったいどうやって......!?」


 「やはりここでも電気の力をうまく使うの。具体的には、電気の引力と斥力の両方を瞬発的に使い分けるの。」


 「お。おぉ......。」


 「ねぇ、磁石を想像してちょうだい。磁石は磁極の組み合わせで引きあったり、寄せ付け合ったりするでしょう。さっきは、この現象を物体の推進力に変えていたの。」


 「れ、レールガンみたいなもんですか......?」


 「その場合はちょっと仕組みは違うんだけど、銃のような武器を扱いたい場合は、火薬に頼らずに弾丸状物体を射出できるから、よかったら試してみて。

  話を戻すとこの大剣を縦に振る場合、大剣に電流を流すわけだけど、同時に腕近傍の大気にも同じ向きの電流を流すの。そうすると同じ磁極が大剣の刀身と腕の近傍に生起することになる。これでお互いが電気的に反発し合って、大剣は安定かつ楽に振り下ろせることになるわ。」


 「???????」


 「もちろん、この例だけだと腕も反発されちゃうからそれをパッチワークする別の電流も必要よ。」


 「??????????????」


 「ふふふ、頭で考えるのが難しいのはなんでもよ。やってみれば分かるわ。あきらちゃんはすでに身体の近傍に電流を発生させる技術を体得してる。翼の具現化や操作は、その一つなんだけど細部は頭で考えて使わないでしょう?」


 「そ、そ、そそうだね......。」


 「さ、恐れずやってみましょう。大剣に電流を流してみて。」


 

 

 私は大剣の柄を握ると、電流を手に集中させた。




 「握力で保持しようとしちゃだめ、自分の手に磁石でくっつけるように。引き抜くときは大剣よりも腕周りの電流の向きを制御することに集中して。」




 私はママの言う通り、柄が手に吸い付くよう電流の向きをコントロールした。その最中に自分の意志とは明らかに違う力で、ふわふわと大剣が浮き上がったり、重たくなったりしてまるで誰かに操られている気がした。



 

 「地球も大きな一つの磁石なのよ、邪魔してごめんなさい。」


 


 そうだった、目の前にいるお人形みたいな少女が地球の化身であったなんてことをすっかり忘れていた。


 しかし、それを聞いて私は一つの考えが頭によぎった。




 (大きな磁石として、地球の磁極は固定されているとみて良いなら......地球の磁極を基準にして電流の向きを変える方が、コトは単純そうだ......。)


 (つまり所望の方向へ推進力を得るには......これだな......。)




 私がぐんっと柄を引っ張ると、大剣は砂を流しながら地面から勢いよく引き揚げられた。それはまるで大剣自ら地面から跳ね上がったかのような光景だった。


 私は両手で柄を握ると、大剣を斜めに大きく斬り上げた。さらに振り向きざまに横に一閃薙ぎ、ブゥゥゥンという空気の震えを耳に聞きながら、今度は縦に叩きつけるように大剣を振り下ろした。地面が刀身以上に大きく深く割れるだけではなく、埋まっていた岩が大きく弾け飛んだ。



 

 「はぁっ...はぁっ...はぁっ......!」




 その光景を見たママは両手を口にあて、丸い目をますます真ん丸にして言葉を失っていた。



 二人は驚きのあまり微動だにせず、しばらく無言であった。


 



 照りつける太陽が短い影をつくった。


 


 


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