第10話 惑星の管理者

 少女は、私の手のひらを摺りながら言った。


 「あきらちゃんの遺伝子構造を私のものに近づけ、私の能力を発現させるように変えたの。簡単に言えば電気を操作する能力よ。」


 「そ、そんなことができるなんて......。」


 「本来の遺伝子構造に戻しただけ、といった方がいいかもしれないわね。本来の遺伝子構造に帰れば、身体の構造が変わるにつれてさらに能力が発現するわ。......その能力は、この惑星を創り、発展させるために重要な意味を持っていたの。電気を操作する能力は、その中でも特に重要かつ基本的なもので、かつての人間たちはその能力を有していたの。」


 「じゃあ.........その能力を持っているあなたは、私たち人間のご先祖さまってこと...?」


 「”ママ”って頂戴。そうね、先祖というよりもモデルといった方がいいかもしれない。今の人間は、私たちが元になってるのよ。」


 「私、たち......?」


 「さっきも少し言ったけど、この惑星には、私のほかに創星に重要な能力を持つ人間たちがいた。その人間たちは、基本的な能力は似通っていたけれども、それぞれの特技も有していたの。その能力を以て、私たちは機能別に分かれた管理者として創星に携わり、さらにその過程で実際の創星の担い手として能力が制限された今の人間、つまりあなたたちを育んできたというわけ。

 目的や生まれた経緯が何であれ、あなたたちは私の大事な子供たちなのよ。」


 「ははぁ......。」


 「......侵略者といったのは、実はかつての地球の管理者たちことを指した言葉よ。彼女たちは、今は太陽系にある他の惑星の管理者をしてるけども、あなたたちを狙って襲ってきているのが今の状況よ。」


 「どういうこと?彼女?どうして前の管理者が私たちを襲うことをするの?」


 「彼女たちは私と同様、性として女性だから。そしてあなたたちを襲う理由は、彼女たちもあなたたちを愛しているから、私から奪い返したいと強く考えているから。彼女たちと私の子供たちの差は、能力を制限したという理由からほとんどないの。」


 「......ママ、それは私たち人間すべてがあなたを含めた管理者たちにとって実質的に1人の子供であると解釈していい......?」


 「......そうね、その通りよ。」 ママは、微笑みながら深くうなづき、そして続けた。


 「はるか昔、私は彼女たちと共に、あなたたちを育てる中で、共に生きるための方針を巡って争い、彼女たちをこの地球から追放した。創星初期の段階では、それぞれが持つ特技が重要な意味を持っていて、お互いのやり方に干渉する余地がなかったの。

 創星が進み、それぞれの特技の重要性が薄まってきた頃、私たちはあなたたちを育むという役割の重要性に注目するようになった。あなたたちをどう育むか、まさにゆりかごから墓場まで寵愛すべしという考えを基に、様々な方針が主張され、譲れないものであるがゆえに私たちは激しく衝突した......。」


 「なるほど、ママがその諍いに勝ち抜いたので、ほかの管理者たちを別の惑星に追い出して、それぞれの方針をもとにやり直しをさせた、というのが今なんだね。」


 「ふふ、さすがね。つまり、そういうことよ。」


 「じゃあなぜ今更地球にくるの?ほかの惑星で自分の思うがままにやり直せたんじゃないの?」


 「きっと彼女たちの方法では上手くできなかった。やり直せなかったからよ。ほかの太陽系惑星を見てみると、生命の気配はどこにもないことがわかるでしょう?」


 「............。」


 「......私は......私は自分が有能であったり、やり方が絶対に正しいとは思ってない。今まであきらちゃんと同じように答えのない問題に悩み、迷い、多くを失い、そして万難を排してここまでやってきたわ。

  大切なあなたたちを誰にも奪わせはしない、私自身のどんな犠牲を払ってでも!」


 「......どうしてそこまで?」


 「あなたたちと在って、幸せだったから。」




 木枠で固定された窓が、風でカタカタとなった。

 気が付くとママの表情から柔らかさが消え、私の手を握る力が強くなっていた。

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