第9話 最古の大いなる力
「それで、何をすればいいの?」
私は自信のない面持ちで問い、少女の答えを待った。
「まずは私のお手伝いをしてほしい。大丈夫、焦る必要はないわ。彼女たちの侵略のやり方は、多くの時間を必要とする。だけれども、時間は問題を解決しないし、彼女たちは決してあきらめない。彼女たちの意志を挫くため、私たちも動き出しましょう。」
「............。」
「お手伝いをしてもらうために、今から必要な能力を授けます。正しく言えば、能力をお返しするの。本来、人間が持っていた真の力。」
「真の、ちから......。」
「目を閉じて、身体の奥底に、自分の細胞一つ一つに意識を集中して。」
少女は、そういうと目を閉じ、ふーっと鼻で息を吐いた。私は言われるがままに目を閉じ、自らの頭からつま先まで神経を集中させた。
「こ、こうかな......?」
「とても上手。その感覚でしばらく集中よ。」
「......。」
沈黙の時がしばらく続いた。少女の手は、暖かさを増し、いよいよ人離れした熱を帯びだしてきた。それなのに少女の手は、汗の一つも感じられなかった。
とくとくと私の心臓が早くなるのを感じた。
............。
ッチ ッチ ッッッチチッ......
チチチッ、ビビッッヴィヴィッ
電気が発する火花の気配を感じさせる音が、聞こえる。
少女の手の中にある私の手はかすかなしびれを感じ始めた。
そして、そのしびれはゆっくりと私の手から腕を伝い、首のところまで登っていき、さらに頭と足の方向へ分かれて全身に広がった。身体がふわふわと浮く感じがし、私はつい足の裏で地面があることを探った。
バチッ、バチチッ!
ラップ音が大きくて低い音に代わり、体のしびれはピリピリとした痛みに置き換わっていった。
体をよじっていはいけない気がして、懸命にそれを我慢した。
バンッ!!!
突然、発砲音に似た轟音が響くと、瞼の奥から光があふれ、あっという間に視界を白色に染めてしまった。
「あっ!!!!」
私は本能的に叫び、閉じていた目を大きく見開いた。
そこは少女の部屋ではなく、どこか遠い宇宙であった。目の前にはキラキラとした大小の恒星たちが映る宙があり、それをバックステージにして大きく激しく燃える星が在った。
私はというと宇宙の中で、握られていたはずの手を肩の高さに浮かせて、ふわふわと全身をたゆとわせているのであった。
非現実的なことが起きているので、ここはどこだとか、息ができるとか、寒い暑いなどと考えている余地はなかった。しかし私は、何かを見せられるためにここにいるのだと、すぐに理解できた。
突如、私のはるか前を横切りながら、燃え盛る星に近づいていく一つの岩が流れていった。岩は燃える星に近づくにつれて流れる速度を徐々に落とし、ついには静止したまま浮遊した。岩が燃える星の光に照らされているうちに、その周りに小さな石や氷のような粗い粒子が渦を巻きながら、集まっていった。あたかも星の誕生の瞬間のように、いやまさにそれは星の誕生の瞬間であると確信した。
最初はただのごつごつした岩だったそれも、様々な粒子を吸収していくうちに丸みを帯び、あっという間に赤熱を放つ真球へと姿を変えていった。
燃え盛る星の勢いがやや弱まると、新しくできた赤熱の星はやがて濃い灰色の靄に囲まれ、それが晴れると濃い青と鮮やかな緑に覆われた地表が現れた。
私の知識とはかなり異なる大陸の形をしているが、それが地球であることに疑いはなかった。私は、不思議な力によって地球の誕生を見せられていたのだと気が付いた。
そして突如、強い耳鳴りがすると視界が白くぼやけはじめ、同時に激しい眩暈に襲われた。はぁはぁという呼吸ととんとんという心臓の音が、私の意識をかろうじてつなぎとめていた。
「......っ!?」
眩暈にゆられていると、つぎは身体が落下する感覚に襲われ、私は身体をぎゅっとこわばらせた。同時に、落下するという恐怖から心臓が飛び出るほど大きく高鳴った。
とんっとやわらかい音と感覚を頭と首に感じ、気づくと私は再びあの木の天井を見つめていた。そして傍らには少女の顔があり、柔らかな表情でこちらを見つめていた。まるでこれは予想通りのことであったというように。
「おかえり、......見ることができたのね。」
「はぁ...はぁ...はぁ...はぁ............くんっ。」
私は硬いつばを飲み込むと、少し落ち着きを取り戻すことができ、自分が少女の腕の中で抱かれていることに気が付いた。
「......あれは......一体......。」
「あれはこの惑星の始まりの様子。あきらちゃんは、能力獲得の証左として私に触れることで、私の過去の一部を垣間見ることができたの。」
「...はぁ...はぁ...。」
私は額に浮いた大量の汗をぬぐおうと右の手をゆっくりと目の前まで動かした。そして、何気なくまじまじと右手を見た。あんな非現実的な体験をしても、いつもと見た目が変わらないでいてくれる自分の手に、ほっとした。
私は掌を額に近づけた。
バチッンッ!!
「ッ~~~~~ッ!!!!???」
私は何が起きたのか理解ができなかった。
私の手のひらから強烈な衝撃と閃光が発せられ、太い針に刺されたような鋭い痛みが額に走ったからだ。
少女は、少し慌てた様子で私の右手を恋人つなぎのように指を絡ませ、抑えた。
「これが、あきらちゃんに授けた力の一部。自分を含めたすべての物質を創り、変え、壊す、人が電気と呼び、用いていた最古の大いなる力よ。」
少女は、きゅっと指を深く絡ませ、同時に親指で私の手のひらをすりすりと優しく揉みながら言った。
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