第8話 惑星のお願いごと
「私が、勇気が、必要って、どういうことですか......?」
私は非現実的な少女の突然のお願いを、全く理解ができなかった。無理もないと言えばそうだった。なぜなら目を覚まして以来、何もかもが現実離れしているのだから。
「今、この惑星は遠い別の惑星からの侵略の危機にあるの。」
「............えぇっ!?」
「太陽が発する磁気の様子が、最近おかしかったという話を知ってる?」
私はしばらく記憶をたどり、それに関する騒動を思い出した。
「......少し前に、そのようなお話は聞きました。でも、結局その時は何も起こらなかったので、みんなそのことがあったことを忘れているような、そんな些細な話のような気がしますけど。」
「そうね、その時は大きな変化を感じることはできなかったでしょうね。でも、太陽の磁気変異はこの惑星を守るために張っていた防護壁を無効化してしまったの。」
「それは、オゾン層とかとは何が違うんですか?」
「外から地球の具体的な位置や姿を秘匿・欺騙する、そんな役割を担っていたオゾン層とは異なるものよ。実はほかの惑星からは、地球は荒廃した死の星に見えるか、その位置が実際とはかなり異なる位置に見えるの。」
「......どうしてそんなことを......?」
「この惑星に住まうあまねく生命、特にあなたたち人間を、狙う者たちがいるからよ。それが、さっきも言ったけど侵略者の主体は他の惑星、すなわち私の姿や能力に類似する存在たち。......それぞれの惑星の管理者たち。」
「ほかの......惑星の、管理者......たち。」
私は少女の言うことを懸命に理解しようとしたが、彼女の言葉を繰り返すだけで精いっぱいであった。頭の中で処理すべき疑問が、山ほどあり、それを質問にするための脳のリソースは皆無だった。
少女は、私の両手を優しく握り、じっと目をみつめながら話をつづけた。まるで小さく大切な子供に理を言い聞かせるような、そんな仕草だった。
「防護壁の再構築は時間がかかるけど、可能なの。だからこの危機がいつまでも続くわけじゃない。」
「......あっ、よかった......。」
「問題は、再構築までの間に侵略者がこの惑星に到達し、影響力を及ぼすこと。そしてそれは、もうすでに始まっている。」
「....えっ、あっあっ......。」
「あきらちゃんにお願いしたいことは、防護壁の再構築に必要な時間と機会を、彼女たちと対峙・撃退することで稼いでほしいの。もっと激しい言い方をすると、彼女たちと戦ってほしいの。この惑星の運命を守るために。」
「ああああ絶対無理です!!」
少女は、私の手をきゅっと握るとすこし語気を強めた。
「もちろん、私があきらちゃんにそのための能力や技能を授けます。あきらちゃんと雷電体でぶつかったとき、あなたのすべての過去の記憶と経験、思い出を瞬間的に観たわ。......とても素直で優しい子、でも常に自分にない何かを求めている。そしてそれが、困難を乗り越える勇気になり、何度もあなた自身を救ってきた。」
少女は、一呼吸おいて今度は静かに続けた。
「人を思いやる優しさゆえに、今までたくさん傷ついてきたでしょう。自分に厳しい向上心ゆえに、たくさん悩んできたことでしょう。」
「あなたはそれゆえに、強く、賢くなっていった。管理者の代理人に足る素晴らしい素質を持っている。私と共に戦って......どんな時でも、あなたを死なせない。私を信じて、40億年間この惑星の生命を育んできた、この私を。」
私は、はぁはぁと自らの呼吸が早くなっていくのを感じていた。少女の情熱的な視線や言葉に気圧されただけではない。
自らの内側から使命感のような大きな膨らみが、込みあがってくるのを感じたからであった。
「......はい......。」
私は気持ちが固まる前に、つい返事をしてしまった。それはまるで母が子供に約束事をするようにも見られ、また婚約指輪を差し向けられ、夫婦ととなることを求められたときのようにも見える不思議な情景だった。
「ありがとう......。」
少女は、一層強く私の手を握った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます