第6話 帰還者
暗闇から女性の声が響く。
「......子は、選ん............。」
....................。
「......運命......違う..................いる...。」
........................................。
「それでも......の子..................かもしれない。」
............................................................。
「今この瞬間から.......私が......運命を............。」
突然目の前から白い光が差し、見る見るうちにそれが全体に広がっていった。
................................................................................。
白む光の奥からセピア色の景色が現れ、直にその各々が色を得て『世界』にまで存在が昇華された。
そして今、私の目の前にある世界の一部は、温かみのあるブラウンの木の壁として認知された。
(....................あっ、首が動かせる!!)
私は首の筋肉が自らの意志を通じて、わずかに駆動することを察知すると、油の切れたモーターのようなぎくしゃくとした動きで首を左右に振った。
右に首を振ると、きなり色の硬質な雰囲気の壁が目の前にすぐ現れた。そう、それが壁だと認識した瞬間、私は先ほどの木壁が天井であることを察した。
逆に少し左に首を振ると、木の天井に吊り下げられたシーリングファンがくるくると回っていることが分かった。とてもとても古い物のように見えたが、滑らかに静かに回り続けていた。
「こっちよ、頑張って。」
私は不意にかけられた声に大きく体をびくつかせると、恐る恐る声の方向へ首を向けた。
「......っ......。」
目の前に映った声の主は、少女だった。
しかし、少女は大人ではないし、子供でもない、そんな神秘的な雰囲気を漂わせていた。少女は身体も身にまとうものもすべてが不思議の塊だった。
まず紫電を閉じ込めたアメジスト色の宝石が真ん中に飾られた空色のカチューシャ・リボンは、肩甲骨まで延びる片編みの灰銀髪を飾っており、生命豊かな海を宿したような瞳の濃い青さを一層輝かしいものに感じさせていた。
さらに身体は思春期の始まりを思わせるほど小柄であるのに、その身に羽織る空色と金縁のケージ・ドレスのおかげで身体の大きさ以上の安心感と偉大さを抱かせた。
そして、それだけならまだしも、彼女はその身体とほぼ同じ大きさの白い翼を左右それぞれ3枚ずつ背中から伸ばしており、優雅にゆらゆらさせていた。その姿は、アニメに出てくる天使様そのものであった。
私はその姿があまりにも浮世離れ(よく言えば神秘的。)しており、現実的ではないため言葉を失したまま少女を見つめていた。
少女は、私の目を見つめながらほぉっと喉の奥からため息を出し、ついで鼻で息を大きく呑み、落ち着いた様子で口を開いた。
「おはよう。あきらちゃん。私は、あなたたちのママ。突然のことで、ごめんなさい。何が何だかわからないでしょう?まずは、あきらちゃんにしてしまったことを謝りたいのだけど、何が起きたのかを説明をしたいの。」
「.....................あ.......ぁい.......。」
私は答えに窮し、返事ができなかった。
少女は今度は口ですぅっと息を吸うと、話をつづけた。
「まず、あきらちゃんは生きてる。だいじょうぶ、ここは天国じゃないの。ここは私の部屋。この惑星(ほし)のどこにでもあって、どこにもない私の部屋。私が傷つけてしまったあきらちゃんのケガを治すために、ここに運んだの。」
「......はぁ........っすか....。」
私は、あぁそうなんですかと言いたかったのだが、口が渇き、喉が回らなかった。口を閉じた状態で舌を動かそうとするも、舌がざらざらと引っかかり動かなさい。
ママと名乗る少女は、私の様子を見てすぐにそのことを察したようだった。
「ごめんなさい、喉が渇いていたのよね。うん、温かいお茶を飲みながらお話ししましょう。その方がきっと落ち着けるから。」
そういうとママはくるりと背を向け、赤レンガでできた薪のオーブンが備え付けられたL字型キッチンに向って歩いて行った。
ママの背中にはやはり白い翼が宿っており、ゆらゆらと、しかしどこか秩序的な動きを以て漂っていた。
「それじゃあ、今から作るわね。」
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