第5話 屋上にて......
ペタン、パタン、ペタン、パタン......。
暗闇の中で、床とスリッパの擦れる音が吹き抜けの階段に大きく響く。
私はスマートフォンのライトを頼りにして、長い階段を昇り、屋上へと独り向かっているのであった。
階を昇るにつれて、激しい雨が屋上をたたく音が大きくなり、足音が消えていく。激しい雨音はまるでテレビの砂嵐のようであった。
私は、暗闇の中、これから起こり得る危険についてあれこれ思案を巡らせて、一つの考えに至った。
(通常、屋上で落雷による電気火災が生起していれば、入口ドアノブから感電する危険性がある......。)
(ただし、この豪雨の中では、電流は建物を流れ落ちる水流にも拡散するはず......。)
(......故に、ドアノブを布で覆い電気的な抵抗を増す処置をすることで、入口を開ける際の感電は防げる......。)
(............状況を確認する際でも、雨に濡れることは努めて避けねばならない......。)
私は、屋上入り口のドアの前にどうにか着くと、呼吸を整えた。
中学生の時から社会人に至るまで陸上部に入り、短距離走を得意としていた私だったが、日ごろの激務に忙殺されてすっかり体力を失ってしまった。
久しぶりの運動から額に汗がにじむのを感じた。劣った自分をはっきり感じて嫌になる。振り払うように額を手の甲でぬぐった。
私は今治の白いハンカチをお尻のポケットから取り出し、ドアノブに直接指が触れないようそれを慎重に巻き付けた。
そして私は、布巻にされたドアノブを左の人差し指の先で素早くつつき、次に左手でゆっくりとドアノブをつかみ、感電の恐れがないことを確認した。
「ふぅッ.......。」
切れの良いような悪いような、中途半端なため息が漏れた。
次は思い切りドアを開けて、すばやく確認するだけ、残りの工程におそらく心配はいらないだろうとの安堵感が心に生まれた。
(.......、.............................。)
私は、ドアノブをつかむ手にやおら力を加え。
一気にドアを引き開けた。
ヴ ァ チ ン ッ!!!!
( う” ッ !!!!!!!!!!?????)
ドアを開けた瞬間、私の目の前が真っ白になり、正面から大きな拳でぶん殴られたような衝撃を受けた。
「!!!!!!!!!!!」
衝撃の後に、体に熱い火の玉のようなものが乗っているのを感じた。目には見えなくても、それは形と重みと熱を伴って実体があることがはっきりとわかった。
「う”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!」
何が起こっているかわからずひたすらに叫びをあげる中、視界から白い光が失われ、代わりに漆黒の闇が落ちてきた。
目をいくら開こうと力を入れても、視界は全くの無であった。
死んでしまう、と思った。
だがいくら叫んでも、もがいても腹の上が激しい痛みと共に熱く燃えるのを感じ、視界が真っ暗闇であることは変わらないのであった。
「......えぐっ...!うぐぅっ...!............うぅぅ!?」
突然、腹の重みと猛烈な熱が引いた。しかし、今度は異なる苦しみが内から湧き出した。
「......ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ.......ぁッ!」
私は数度の喉が焼けるほど苦しい呼吸した後、数秒間だけ自分の呼吸が停止したのを感じた。
そして、自分の心臓がどくどくと脈動するのをだんだんと遠くに聞きながら、一瞬自らの死を悟った。
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