第2話 ここに在らず

 (......やっぱ、みんなちゃんと大人してたなぁ......。)



 友人たちとの会食以降、私は食事をとる度にそう思うようになっていた。そして食事のたびに何を食べてもおいしくないと感じるようになっていた。



 (Aちゃんは、半年前に結婚してからチャットでよく旦那さんの愚痴をこぼしてくれてたけど、実際話す時の顔はめっちゃイキイキしてたなぁ......。)


 (Mは、2歳の男の子のママちゃんとやっててすごいなぁ......親戚付き合いとかしっかりやれてるからディナーにも子供預けてこれたんだろうなぁ......。)


 (Hも1歳の女の子のママだけど、実家との距離近いし、Hのお母様は保育士さんだったからめちゃ育児の大変さ理解してくれてたんだろうなぁ......。)


 (Sっちは、彼氏からプロポーズされてるからそろそろ挙式準備って言ってたな。大変だろうけど、聞く限りすごく愛されてるし、なんなら二人とも困難をばねにして歩んで行けそうですごいなぁ......。)



 そんなことを思うたびに、生命活動に必要なこの食事でさえも食べてる場合ではないと焦り、不安感が募る。が、しかし何ができるわけでもなくひたすらに減らない目の前のサンドイッチをわずかに口に運んで、焦燥感に抗ってみるも、砂漠に足を踏み入れるがごとくずぶずぶと思うように前に食べ進められないのであった。



「お昼のニュースです。今月24日、日本の国立天文台太陽観測研究チームが、太陽の活動変化に伴う強力な磁気嵐が発生する恐れがあるとコメントし、それを受け、政府はその経済的影響について試算するため、有識者検討会を立ち上げました。」


 アナウンサーの声をきっかけに、私は右目の端で食堂の端に設置されている52型テレビの画面をちらと見ると、なんとなく読み上げられたそのニュースが気になり始めた。

 


 「また、日本の国立天文台と同様に各国の太陽を観測する能力を保有する天文台観測チームから磁気嵐による影響を懸念する声があり、試算の結果によっては、この検討会が地球防衛会議と呼ばれる国際的枠組みにまで拡充されることも示唆されており、外務省による調整も並行されています。」


 「太陽の活動は常に変化しており、その表面のゆらぎも同様です。今回影響が懸念される磁気嵐は太陽風と呼ばれる主に表面部のゆらぎが一時的に強まることによるものです。一時的であっても、地球上の磁気に影響を与える可能性があり、特に電子機器が強く影響を受け、結果として私たちの経済活動に影響がでます。この電子機器への影響の仕組みについては~............。」



 私は、この話をずっと前に聞いたことがあると思った。それは2000年に恐怖の大王が宇宙から降ってくるというノストラダムスの大予言といわれていたものであった。当時はかなりセンセーショナルな内容で、年末年始の番組内容を総なめしていたものであった。しかし、当時私はまだ2歳であったから詳しくは知らないし、知っていることも動画サイトや親からの思い出話の一環として見聞きしていた知識に過ぎなかった。

 私が確かに知っていることは、その騒動が肩透かしであったという結末だけで、私たち人間は確かにこの地球で生存・繁栄を現在まで続けているのであった。



(私の人生も何か大きな変化がほしいな......別に彼氏とかじゃなくてもいいな......なんだか転職したくなってきた??)


 そうして転職サイトでも見るべく、スマートフォンのスリープを解除すると、画面の時計は13:28を示していた。



 「うぁっ......!?」



 私は驚いてあやうく椅子ごと後ろに倒れそうになった。あと2分後には仕事のデスクに戻っていないといけないのであった。

 

 

 (うぁ~~~っ!遅刻遅刻~~~!!)


  

 もはやみずみずしさが失われてパサパサになったサンドイッチを無理やり口内にねじ込み、冷めて酸っぱくなったホットコーヒーでそれを一気に流し込むと、私は私の戦場へと駆け足で前進していくのであった。

 

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