六 我よ愚かなり

 だが、だがしかしだ。

 全く知りもしない友の姿は、様子は、声は、少女を強く惹きつける。

 怖いもの見たさ、などという言葉があるがまさしくそれに他ならない。

 本当は見なくても良いどころか見るまでもないほどに分かりやすく、嫌な予感しかしないものであろうとも。

 少女は姿を隠したまま、彼女の声に耳を傾けた。

「あの子、あたしのこといつも持ち上げつつ引き立ててくれるのは良いんだけどちょっとこう……ウザいんだよね」

 悪びれる様子もなくあっけらかんと告げる声は、冷たい嘲りを含む。

「……わかる。もじもじしてさ、声かけても気にしてませんけどって感じで強がっちゃってる感じも無理」

 応える声もまたやはり少女には覚えのあるものだ。少女はごくりと息を呑む。

「だよねぇ」

 友達と思っている女の普段より何倍も下品な笑い声は、応えた声の主のいやらしい笑い声と混ざり合って廊下に響いた。

 もう出ていく理由は、ない。

 少女にはこの話題にされている〝あの子〟は自分なのではないかという疑念が、渦巻くばかりだ。

 しかしそれを確信を持ったものに変えたくはない。あんなにも大好きで信じていた友達は、自分のことを好きでいてくれたわけではないらしいという、もうそれだけで胸が押し潰されそうだった。

「⚫︎⚫︎⚫︎、いいかげんウザいしムカつくわ」

 ⚫︎⚫︎⚫︎、それは少女の名前だ。聞き間違えたくともそうはいかない。

 憎さを勝手に募らせていた、そう思っていた友達当人の方がよほど少女よりも負の感情を募らせていたことは確かだった。

 ──嗚呼、なんて。

 ──愚かしい。

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