五 友よ、それは偽らざるものか

「おはよう」

 声を返しながら少女の気持ちは凍り付く。

 一番会いたかった人間と、一番会いたくなかった人間がそこにそろって立っていた。

 いつものように。

 すっかり普段の光景になってしまった二人の並んだ姿は、やはり少女に悔しさや憎さなどのマイナス感情を抱かせた。

 二人はまるで対であり、陰と陽ともいえるほどの対極差を感じさせる。だがそこがうまくはまるのだろう、気が付けばあっという間に二人は仲良くなっていた。

 ――私の方が、先だったのに。

 汚い感情が顔をのぞかせる。

 知っているのだ、これがただ嫉妬から来るだけの、醜くそして愚かな思考であるということは。

 分かっているのだ、こんなことを考えたところで意味なんてないということは。

 友達の隣にいるもう一人は、少女にあいさつのひとつもしようとしない。隣の人間以外はその瞳に映らないのだろう。

 その盲目さが少女は嫌いだった。

 それを可愛いと喜ぶ大好きな友達が嫌いだった。

 矛盾であることは承知の上だ。

 けれど苦手の塊のような人間が自分の居場所をかすめ取っていったような感覚は、どうしても拭い去ることが出来ない。

 それを許している友に少女は勝手に幻滅し、勝手に裏切られたような気がしていた。

 すべては身勝手、しかし感情は止まらない。

 暴走し踊り狂うかのように、感情はあっちへこっちへと大きく動く。

 何とかそんな感情を押し殺しながら、少女は笑った。

「先に行くね」

 もうこの場にはいたくない。それだけは確かなことだ。

「一緒に行こうよ」

 友達なんだから、という彼女は笑顔だった。

 しかし隣の人物はそうではない。

 消えろ、邪魔だ。とでも言いたげに憎々しい表情を少女へとむけた。

「ううん、ちょっと用事があるから」

 少女はそう言葉を返し、足早にこの場を後にする。

 きっとあの子は笑っているのだろう、そう思いながら。


 そこからはまるで世界が色を失ってしまったように、全く楽しいことなどなかった。

 彼女らを避けて、こそこそ行動する自身のことが少女は間抜けで愚かで滑稽に感じられるばかりだ。

 こんな状況で何を考えればいいのだろうか。

 朝と同じことを己に問いかけながら少女は一人、後者の隅で母親から渡された弁当を口に運ぶ。

 件の友達以外、特に付き合うこともしなくなっていたため、少女には一人で昼食をとる以外の選択肢がない。

 人付き合いというものは、局所的に行ってしまうと替えが利かないということを今さらながらに思い知る。

 少女は世の中の厳しさにさらされているような気分で、ただ悶々としながら弁当をただひたすらに口へと運び続けた。味はあまり感じられない。

 ため息を何度も吐きながら食事をしていると、聞こえてくる声があった。

「ウケるよね、ちょっと声をかけてあげただけでさ」

 あざけるように言うその声の主を少女はよく知っている。

 少女が好きゆえに憎さを募らせる友、その人のものだ。

 ただし聞いたことのないような冷ややかなその声に、少女はただ嫌な予感を覚えた。

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