三 愛しきは憎しに変わり
呪いを求めた理由は衝動的だった。
少女はどうにも幼いころより、他人と比べて一歩後ろに下がってしまうところがあった。それゆえに自身の要望を口にすること、己の望みを主張するという言動に苦手意識を抱き続けている。
だから、という訳ではないのだが妙に他者に固執してしまうところもあり、本人の意図せぬところで劣等感を埋めるよう必死な行動をしてしまうというところもあった。
おいて行かれたくない。
少女の正直な気持ちはそこに尽きる。せっかく一緒にいてくれる人を見つけたのに、おいて行かれたまた一人ぼっちに逆戻りだ。
そんな負の感情が少女を突き動かす。
最初は良かれと思って。だがそのうちそれは、伝わって当然とわかってもらえるものと錯覚を起こし始めるのだ。
とんだ勘違いだともわからぬままに。
「最初はね、堪えられたの」
しょうじょは淡々と告げた。それはそうだ。ずれていく感覚を認めてしまえば、次に自身のいる場所は十中八九奈落の底である。
「けど続かなくなっちゃった」
「それでわざわざ店を探して、ここまで来たと。そういうわけじゃな」
店主の言葉に少女はひとつ頷いて見せた。
「話をすることは望まんのか?」
「もう……出来ないよ」
店主の問いに対し、少女は首を横に振る。
もう試した後の話であるのか、ただ諦めてしまったがゆえの話なのかは少女は語らない。
「せめてあの人……友達と仲良くしている人と引き離して、私はそれだけで」
「ふむ」
店主がまたひとつ頷く。思案する様子を見せると、そのまま口を閉ざしてしまった。
「お願いします。友達が、あの子が一人になっておちていくように呪ってください」
少女は必死に懇願する。店主を見つめ、頭を下げてはまた目の前の様子をうかがうことを繰り返した。
それでも店主は、口を噤んだまま動きもしない。
そしてゆっくりひとつため息を吐いた。
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