二 其は店の主たるもの
迎えられた店は見た目と反して無骨な様々なものを少女の瞳に映す。
呆気にとられている少女に対して、彼女自身よりも幼い――ように見える――店主らしき人物は口を開いた。
「友達を呪いたい、とな?」
いかめしいくちょうは店主らしき人物の姿と全く合致することなく、違和感を与える。
「……はい」
少女がひとつうなずくと、店主らしき人物は小さく唸った。
「まぁ、まず座るとええ」
そう言うと店主らしき人物は少女にソファをすすめる。
一目では何か判断のつかない様々なものに取り巻かれながら、真ん中にソファはあった。
一般的な家庭に、一般的な部屋の中に置かれていたならばそれなりに存在感のある大きさである。
しかしこの店の中にあっては普通など目安にすらならない。
得体の知れない呪具のよなものあ、あからさまにおどろおどろしい様相の素材、それらはソファを取り囲みながらそれだけでは飽き足らず、所狭しと様々な場所で存在を主張していた。
ソファに腰を下ろしはしても、少女としては全然全く落ち着けるはずもない。
うろうろと所在なく視線を彷徨わせては、見てはいけない恐ろしいものと向かい合ってしまったという様子で目を伏せる。勇気を振り絞り、もう一度視線を上に持ち上げたところでやはり目前に広がるのはこの店の異様かつ恐ろしい呪具と思しきものばかりであり、結局はその視線を落としてしまうということを繰り返していた。
「ほれ」
そう言って店主はソファの前のテーブルにカップをひとつ置く。
少女は不安げにカップをのぞき込むと、店主が笑った。
「茶じゃ。怪しいものではない」
言葉の通りカップにはお茶らしきものが淹れられている。それでも不安を拭えず少女は口をつける前に、くんとにおいを確認してみるが彼女にもなじみのある茶の香りが確かにしていた。
一口、含んでみれば口の中には甘さすら感じる柔らかな香りに満たされて、気が付けば緊張と恐怖に支配されていた気持ちがほどかれて穏やかなものへと変化している。
「おいしい……」
少女は無意識のうちに言葉を口からこぼしていた。
「そうじゃろう?」
店主は少し得意げな表情を浮かべると、胸を張りながら少女の前のもう一つのソファに腰を下ろす。床につかない足が店主の姿をやはり子供に相違ないことをありありと伝え、少女に改めて困惑を抱かせる。
本当にこの人が自分の探し求めていた〝呪い屋〟なのだろうか。
何度目かの同じ疑問が少女の中を支配する。その疑問をまるで見透かすかのように笑った店主が口を開いた。
「さて、今度こそ仕事の話をしようかの」
その言葉を区切りにして店主の持つ雰囲気ががらりと変化する。それまでは少々茶目っ気があり、子供じみたところもまるで隠そうともしない。奔放と言ってしまえばそこまでではあるが、そんな言葉で片づけてしまうにはあまりにも幼さばかりを感じさせる姿があった。
だが今はどうだ。
それまでの幼さは見た目以外、見る影もない。
まとう雰囲気はぴりと緊張を帯び、真っ直ぐに少女へとむけられるしせんには確かな自信と誇りが感じられた。
「もう一度話をさせてすまんが、友達を呪いたいと?」
「はい」
「間違いはないようじゃな。では、詳しい話を聞かせてもらおうかの」
続けて促される言葉を受けて、少女は神妙にひとつ頷いて見せた。
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