『呪い屋』と億劫なる乙女
つぐい みこと
プロローグ
人を呪わば穴二つ──使い古された戒めの言葉だ。
人間はどう生きようとも妬み、辛み、妬み、嫉み、僻みといった他社にまつわる感情を捨てきれない。そんな節のある生き物だ。
どうしても自分自身より自分以外の存在に対して何かを求めてしまう。
そのことそのものは肯定されるべきものとは手放しで言えたものではないが、同時に完全に否定されるものでもない。
それゆえに、そんなマイナスな感情を帯びた願いを、祈りを成就させるための場所というものは過去から現在に至るまで多く存在していた。
ここにも一軒、存在を知るものの前にだけ姿を現すとまことしやかに囁かれる場所がある。全ての〝呪い〟を完遂させ、成せぬことなどないという所謂〝呪い屋〟だった。
今日も店には客が訪れる。
取り立てて禍々しい何かを持つでもなく、浮いてしまうような何かがあるというわけでもなく、街中の人混みに立てば埋もれてしまうくらいのごく一般的な姿をした女性──彼女こそが客人だった。
彼女は視線を右往左往させた後、意を結した様子で扉の取っ手に手をかける。握って回せばがちゃりと音がして、扉は簡単に開くことができた。
少し古びた木の扉は音を立てて開きながら、客人である彼女のことを出迎えてくれる。
中に広がっていたのは世間一般の住宅と称される場所とは別物で、想像もつかないようなアンティークナ内装に彩られた部屋だった。
「お客かの?」
仰々しい口調にしては可愛らしい声が問いかける。
彼女の目の前に立つのはダボついた濃紺一色のワンピースに、いやでも目にとまるピンクの髪を持つ少女だ。
「え……っと……」
彼女は思わず口籠る。目の前の少女が先の声の主なのかと考えると口調の仰々しさが気に掛かり、別人の可能性を考えると目の前の少女の正体についての疑問が襲いかかるような状況だ。
それによって彼女はすっかり混乱をきたしてしまい、何の言葉も発せずにいるというわけだ。
「呪い屋に何かご用かの?」
少女は困惑するばかりの女性に再び問いかける。
その言葉に控えめながら少女は頷いた。
「はい……呪って欲しい人がいるんです。友達を」
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