第32話:マジック・オブ・ラブ02
「ハーイ! 今日もよろしくこんちくわ! あなたのランチのお供! オールランチブレイカー! 今日も始まりまーす! イエィ!」
で、昼休み。
「じゃあホールケーキの数は……」
生徒主催のクリスマスパーティーの準備は進む。参加人数も大凡絞られ、飲み物と食べ物に関してはクリパに命を賭けている生徒諸氏が残念無く進めていた。
「はーい。というわけでパーソナリティはお馴染みアネキサンダー大王が取り仕切りまぁす。ほんと今冬のクリスマスまでには彼氏作りたかったのに……」
姉御の校内ラジオもかなり悲惨な状況だ。
「はー。クリスマスパーティー……」
「マリンはアメリカでしなくて良いの?」
「せめてコレからはマイダーリンと過ごしたいし」
「嬉しいこと言ってくれるねシニョリーナ」
「うん。それほど拙は両牙くんが好きだから」
「抱き」
しめる。ギュッと。とてもこの多幸感を言葉では言い表せない。だったら可愛い彼女を抱きしめるより他になく。
「えへへ。えと。大好きだよマイダーリン」
「僕も……好き……。マリンが……大好き……」
さらにギュッと。
ああ。本当に僕はイカレている。
そんな間にも校内ラジオは続く。
「そこでうちは考えたわけですよ。モテる女を皆殺しにすればうちに男が流れてくるんじゃないかって。せめて日本の女性の内、うちよりモテる連中を惨殺すればうちの未来は明るいと思われて……」
その前に警察に捕まる。
「なわけでどうやったらその計画を推し進めていけるかと判合した場合……」
なわけでそんな昼休みどきの教室でクリパと校内ラジオに意識を傾けつつ、
「ところでアメリカでは何してたの?」
ちょっと考えるところをマリンに問うてみる。
「えと。論文を提出してました。一応義理もありますので」
「学生だよね君?」
「そうなんですけどちょっと考えるところがありまして」
「なんの論文?」
「魔法についてです」
はー。
「バカにしましたね?」
「かなり」
「ふーんだ。本当に恋する処女は魔法が使えるんですよぅ」
「どう思う? 王子サマー」
「吾輩に聞かれても困るんでござるが」
そうだよね。
「じゃあ今日の激情劇場のコーナー行ってみよう! 此度の匿名ラジオリスナーはこの人すみすちゃん萌え! その豊かな胸中で果てたい! 艶やかなのにスラッとした体付きで、しかも一部がカンブリア爆発をしている! 愛していると君に伝えたい! なのにそんな言葉さえもチープに思えて自分はこの愛を叫ぶしか術を知らない!」
あらら。また僕の手紙が採用されたよ。
「こうなると……でござるな」
「このバカ両替機!」
バンッ! と顔を真っ赤にした真理が僕らの教室に突撃してきた。
「セクハラよ!」
「愛とはセクハラだよ?」
「だからってこんな辱めを受けていいと思ってんの!?」
「そもそも何故責められているので?」
「あんた以外にこんなセクハラ文面投稿する奴いないでしょ!」
「それは一概に言えないのでは?」
「誰が得するのよ!」
「実際に徳を積み上げてる人」
と、僕は両手を両頬に添えてヤンヤンと恥ずかしがっているマリンを指差す。どうにもさっきの文面は嬉しいらしい。それもどうよ?
「しかも『すみす』って書く辺りが周到よ! どっちにも取れるじゃん!」
「おっぱいは違うけどね」
バキィとドライバーが僕をヘッドショットした。
「次やったらアルバトロスでブッ飛ばすわよ」
「是非!」
「これだからドMは!」
真理に打たれるなら本望だ。
「えへー。じゃあマイダーリンは拙のおっぱいで果てたいんだね?」
「いや。アレは匿名の誰かさんだから」
「じゃあ嫌?」
本望です!
三番アイアンが僕の頭を打った。ダクダクと血が流れる。
「何するの真理?」
「掣肘」
「もちろん真理も愛しているよ?」
「制裁」
「あ、おっぱいに貴賤は無いから」
「聖絶」
三打叩きのめされる。
「ふー。ふー。ふー」
で、血塗れのクラブを握って肩で息をする真理きゅん。さすがに教室の愛すべき学友たちもドン引きな状況だけど、僕としては可愛い以外に結論が無い。
「とかく人の業よ」
「両替機。その異能生存体の能力をどうにかしないと本気で引かれるでござるぞ」
「むー。墨州さんはマイダーリンを殴りすぎ。死んだらどうするの」
「コイツは死なないわよ。少なくとも私じゃ無理」
まぁ確かに真理の因果では両親が死んでも僕は生き残ったワケだし……。木綿のハンカチーフで額の流血を拭って、またクリパの申請書を見やりつつ話題を戻す。
「ちなみに魔法とは?」
「えと。STTって呼ばれてる。所謂MTとはちょっと違うんだけど」
「その略称が何よ?」
ちなみにマリンの違和感については真理もまた把握している。その手品ともとれる振る舞いの奇抜さに関して疑惑を持つのは常套だろう。
「えと。MTはマジックセオリー。要するにフィクションとしての魔法。もっともこの表現が正しいから魔法ともマジックセオリーとも拙の研究は呼ばれているんだけど」
おとがいに人差し指を当てて、思惑するようにマリンは言葉を続けた。
「本来の表現はスーパーサーモダイナミクスセオリー。略してSTT。要するに熱力学を超越した法則を指す言葉だよ」
「熱力学を」
「超越する」
「でござるか」
僕らが一様に驚愕する。ある種熱力学の絶対性は物理を囓れば信仰される。その意味で熱力学を崩壊させる法則と呼ばれる存在はかなり夢物語だ。
「えと。実際エントロピーの観念があるからエネルギー問題の解決にはかなり注目されててね。ゼロから一のエネルギーが造れればやっぱり人類の問題が解決するし」
「出来るって言うの?」
「理論上ね。拙の理論では解決しないんだけど」
いや。エネルギー保存則崩壊させる時点でかなりアバンギャルドだ。
「どうやって……でござるか?」
「異世界の粒子を使うの。拙の場合は」
「「「異世界……」」」
またファンタジーなテクニカルタームが。
「多分マイダーリンらが想像した異世界とは違うんだけど」
異世界って。
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