第12話:うるわしきひと01


「ハーイ! 今日もよろしくこんちくわ! あなたのランチのお供! オールランチブレイカー! 今日も始まりまーす! イエィ!」


 姉御のスクールラジオが展開される。これはまぁ毎度と言えば毎度のこと。寒波も厳しくなる今日この頃。心を温めるのは人の愛。


「はーい。というわけでパーソナリティはお馴染みアネキサンダー大王が取り仕切りまぁす。まぁね。アレね。今やってるソシャゲで星五が最近出てないなーって思ってるうちでして。物欲センサーってなんであんなに高度に働くのかしら?」


 ちなみにそのソシャゲは僕もやっている。


「じゃあまずはふつおたから~。ラジオネーム神在月の巫女さん。えーと、テストの問題教えてください。いや。気持ちは分かるよ? 良い点獲るためにズルはしたいよね。うちだって昔は生徒だったからその気持ちはよく分かる。ただ……教師から言わせると毎回授業の内容振り返って、その範囲で同じじゃないけど似通った問題作るのってしんどいのよ。そもそもテストって受ける側もそうだろうけど作る側も面倒くさいのよ。だからせめてこっちの給料分くらいは苦しんでください」


 アネキサンダー大王絶好調。


「次。ラジオネームダイターンスリムさんから。好きな人に振り向いて貰うにはどうすればいいですか? あー。独身貴族のうちにソレを聞きますか。そうね。まず自分が相手を好きだと言うことを認識して、けれども拗らせないようにしましょう。自分がどれだけ相手を想っていても相手が自分を意識するわけではないことは自覚すべきね。その上で単純接触効果でも取り入れれば良いんじゃない? まぁうちに言われても説得力なんてないんだけど」


 まったくだよ。


「じゃあ今日の慧風示威王ガチャ結果のコーナー。まずはラジオネーム鈴鹿先人。ピックアップの星五鯖二枚抜きしました! チッ。ピねばいいのに」


 かなりアウトに近いアネキサンダー大王の感想はともあれ、今回のピックアップについてはたしかに僕も思うところがあるわけで。


「で」


 五組の教室。アネキサンダー大王のオールランチブレイカーを拝聴しつつ、今ある現在の原罪について、ヒクヒクとこめかみの血管を引きつらせながら墨州が口にする。


「つまりこちらのマリン・スミスが実際には両替機と幼い頃に結婚の約束をした女の子だった……と?」


「そう相成りますか」


 もちろん現状の惨状についての言及だ。今まで僕はマリン・スミスを墨州真理だと思って愛を伝えたことになる。しかも墨州とスミスって発音一緒だし。


「えへー。マイダーリン。好き好き大好き愛してる」


「えーと。マリン?」


「なに?」


 フワリとオレンジの香りが僕を包む。


「か、可愛い!」


 ギュッと抱きしめてしまった。


「えと。えへー。嬉しい」


 超可愛い。


「なんか私と同じ顔の女の子がそうされると微妙ね」


 それよ。それなのよ。マリン・スミスと墨州真理の名前も似ているけど、ソレ以上に二人の顔の造りがあまりに同一すぎるのだ。マリンは金髪で墨州は茶髪だけど、とっさに振り向くとどっちがどっちか分からなくなる。しかも僕は墨州の御尊貌に惚れているため、その意味でマリンの御尊貌にも思うところが在るわけで。


「そう。じゃ、お幸せに」


「ああ~。待って墨州」


「そりゃ私が幼い頃の結婚の約束を覚えてないわけよね。他に居たんだから」


「ぐ……」


 ソレを言われるとあらゆる事象が其処に収束する。つまり本当の嫁はマリンだという。


「えと。それでこちらの御仁は?」


 キョトンと首を傾げるマリンのソプラノは華麗にして美麗な声だった。


 心に刺さる……とでもいうのか。あまりに可憐な声はひどくこっちの胸をかき立てる。


「墨州真理。えーと……」


「あはは。似てるね。顔だけじゃなく名前まで」


 拙も名前はマリン・スミスなんだーと軽やかにマリンは話していた。


「可愛いわね……」


「えと。それ自画自賛? 拙を可愛いって言うなら、それはつまり墨州さんが可愛いって事だよ」


 だから墨州を好きだって事はマリンも好きだって事で。


「……………………」


 ジト目でコッチを睨む墨州の視線に凍える。おそらく彼女はこっちの懊悩とその自分勝手さについて容易く見破っているはずだ。


「とりあえず一発」


 バキィッとどこからか取り出したドライバーが僕の頭部目掛けて振られた。


「きゃっ」


 で、マリンが唖然とする。ダクダクと流れる僕の頭部の流血を見て開いた口が塞がらないらしい。


「マイダーリンに何するのッ?」


「大丈夫よ。これくらいじゃ死なないから」


「そういう問題じゃ……」


「いやまぁ大丈夫なんだけどね」


 マリンをギュッと抱きしめて頭を撫でる。


「ぁぅ……」


「可愛い可愛い」


「私の前でイチャつかないでくれる?」


「そうなんだけど……どうにもマリンは可愛すぎる」


「同時並列的に私も可愛いって言ってる?」


「言ってる!」


 ていうか墨州が可愛いなんて言い続けてきた。


「そっかー」


 で、どこか炭酸の抜けたコーラのような声を発したのはマリンで、彼女はニコッと笑って僕を正面に捉えた。

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