第9話:愛に生きる人09
金色の髪。豊かな胸。けれども黄金比で形成される肢体はあからさまに美少女の証だ。
ちょっとエッチィな胸襟の開いた騎士姿は僕から見ても魅力的で、なのにソレ以上に今の状況の異常さが際立つ。
「……………………」
「……………………」
コスプレイヤーとして感謝を伝えるべき場面で、けれども言葉を失ったのは僕だけでなく彼女も同様だ。まぁそりゃそうだろう。
「…………墨州?」
「…………両牙くん?」
金髪はウィッグだろう。胸もパッドかもしれない。
けれども確かに彼女は墨州だった。
御尊貌だけは裏切れない。
パッチリした瞳も、愛らしい小鼻も、曰く言い難い艶のあるリップも、全てが墨州だった。肌の色まで白く透き通っている。
「え?」
「え? え? え?」
ポカンとする僕に、困惑で返す彼女。
「両牙くん……」
「……久しぶりだね」
「うん。久しぶり」
僕のことを「両牙くん」と呼ぶ墨州はたしかに久しぶりだ。
高校に入ってからは「両替機」としか呼んでいない。
「墨州……なんでこんな……」
「えーと……」
完全に眼がバタフライで泳いでいた。困惑しているのは僕も一緒だ。でも、それでも墨州にとってのこの場が何なのかは問わずにはいられない。
「その聖騎士……聖痕のガングリオンのヒロインだよね?」
「えと。わかる?」
「好きな作品だし」
「はわぁ! 拙も!」
キラリと墨州の目が光る。
「墨州ってもしかしてソッチ系だったの?」
「ぐ……」
で、言葉に詰まる辺りが可愛い。
「その……誰にも言えなくて……」
「わかる!」
こっちとしてもメイド服完備の姿は人に知られたくない。墨州にはすでに何がどうのでもないんだけど。
「えと。両牙くんも可愛いね……?」
「うん。それを受け入れていいのかはかなり疑問が残るんだけど」
「えと。素敵だよ」
「ありがとう!」
何故コスプレエリアで僕らは逢ってしまったんだろう。
「それで墨州って」
「違うの! 本当の拙はサン・ミケーレ島で眠ってるの!」
「じゃあ此処に居る墨州は墨州じゃないんだね?」
「えと……そゆことにしておいてください……」
頬を赤らめつつツンツンと両手の人差し指をつつく墨州の愛らしさよ。
「えと……幻滅した?」
「なわけないよ! むしろ趣味が共有出来て嬉しい!」
「両牙くん……ッ!」
真夏のヒマワリの様に彼女の笑顔が花開いた。
「聖痕のガングリオン萌えるよね? 両牙くんも好きだもんね?」
「萌え萌えだよ!」
「嬉しい! 両牙くんに引かれたらどうしようって!」
「そんなこと悩んでたの? 杞憂なのに」
「だから嬉しくって……」
「墨州」
「えと。両牙くん?」
「結婚しよう」
「本当に……その気なの……?」
「何だと思ったの?」
「幼い頃の忘れてしまった思い出……」
「うん。色々と忘れているけど、墨州と結婚する約束をしたことだけは忘れてないよ」
「結婚……してくれるの?」
「墨州さえ望めば」
まぁ年齢的にもうちょっと加齢が必要なんだけど。
ホロリと墨州の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「う……嬉しい……。拙は……そんな資格無いのに……」
「むしろ墨州が結婚してくれないと人生暗澹まであるよ」
それほど僕は墨州に憧れている。
「ていうか結婚の約束……本当に憶えていたんだね」
「これでも忘れたことはなかったんだけど……」
「じゃあどうして……」
「言えないよ。そんなこと」
紅に染まった顔でポツリと呟く墨州の可愛さよ。
「か……」
「か?」
「可愛い!」
ヒシッと僕は墨州を抱きしめた。
「萌え萌えだよ墨州!」
「えと。本当に?」
「うん。結婚しよう!」
「あ……う……えと……拙でよければ……」
ガッツポーズ!
自分を信じることだ! 自信の無い者に戦う資格は無い!
「でも、じゃあ拙は両牙くんの嫁?」
「ついでに墨州は僕の嫁!」
「本当にいいの?」
「万感願って此処に僕が居る!」
墨州も本当は結婚の約束を憶えていてくれた!
そのことがとても嬉しい!
「えと。じゃ、じゃあよろしく御願いします」
「こっちこそ」
今冬最も明るい笑顔が僕を彩った。
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