第6話:愛に生きる人06


「ねえ両牙くん」


「はいはい」


「うちの嫁になんない?」


「夫じゃなく?」


「主婦も主夫も変わんないわよ」


「教師が生徒に手を出して良いので」


「サッパリ良くないんだけど」


「ついでに僕には想い人がいますので」


「って言ってるけど? 墨州くんの正直な処は?」


「迷惑」


 二文字でオワタ。


「とのことだけど?」


「へのつっぱりはいらんですよ!」


「おお、言葉の意味はよくわからんが、とにかくすごい自信だ!」


 こういうやりとりもディープオタ特有のネタだ。


「ていうかガチで二人はそんな感じ?」


「スミスが離してくれなくて……」


「精神的にね。肉体的には何もされてないししてないし」


「愛しているっていうのは簡単だけど、ソレを貫けるかは別問題よね~」


「姉御。不穏な事言わないで。たとえ世界でハルマゲドンが起きても僕と墨州ならロストパラダイスだから」


「失楽園の意味わかって言ってんの?」


「アダムとイブになるのよ!」


「そのまま滅んだ方が人類のためだと思うんだけど」


「なにをぅ……!」


「結婚~……」


「一体みんな誰と戦っているんだ……」


 まぁそう言いたくもなりますよね。


「で、間に合いそうなので?」


 しれっと現実を認識する墨州も素敵。コッチはともあれ姉御は実務とも並列している。ちなみに彼女のイラストスタイルは僕には再現できないので彼女が諦めればそこで終わりだ。


「ね、寝なければ」


「そのチキンレースみたいなスケジュールどうにかなりません?」


「墨州くんも同人作家になればわかるよぅ!」


「いや。なる気ありませんし」


「両牙くんは?」


「うーん。クリエイティブな仕事にはソワカかなぁ……」


「教師にだけはならない方が良いわよ。政治的に詰むから」


「政治家を動かせば?」


「無理よ。そもそも若者が選挙に行かないし」


 それよなー。


「そもそも選挙に行っても意味ないって言うけど! 根本的に政治家は票を投じる人間の意見を政治に反映させるんだから行かなかったら詰むだけじゃない! まずは若者が全員選挙に行って政治家に『若者の機嫌を取らねば!』って思わせることがスタートラインなのよ! そこで政治家に若者のエネルギーを見せないと老後サービスだけ充実するに決まってるじゃないのよ~!」


 誰の何に対しての意見かは聞かないことにして。


「だから教師職の緩和も今後の若者次第よ」


「上名先生も十分若いですよ」


「分かってるけど出会いがないと焦るのよぅ~!」


「まぁ頑張れ」


「愛が無いわよ両牙くん!」


「僕は既に墨州が居るんで」


「そんな妄言が吐ける辺り現実認識してないよね両替機は」


「アリストテレス曰く……樹木にとって最も大切なものは何かと問うたらそれは果実だと誰もが答えるだろうが、しかし実際には種なのだ」


 言ったのはニーチェだボケ。


「子ども作って老後を安穏と暮らしたい~」


「子どもがニートになる可能性は?」


「あるけど考えたくない~」


「で、出来れば若い夫を捕まえると葬式もやってくれそうですよね」


「だから墨州くんウチに来て~」


「出来れば僕の嫁で」


「両替機も上名先生も妄想妄言が逞しいですよねぇ」


「うぅ」


「あぅ」


「ま、恋愛はともあれ狂気の沙汰って意味では私も同じなんですけど」


「恋愛感情の中にはいつも若干の狂気が潜んでいる。とは言っても狂気の中にもまたいつも若干の理性が潜んでいるものである。ソクラテスの言葉だね」


 だからニーチェだボケ。


「狂気ねぇ……」


「姉御もだいたい狂ってるだろ」


「そう?」


「恋の軽んずるところは相手の人生への責任である」


「だって結婚しないと終わりって風潮があるし」


「日本人って太鼓叩いて皆躍ると逆らえないよね」


「魅力的な夫を捕まえると今度は浮気の心配をすることになりますよ」


「じゃあモテない夫を捕まえる?」


「ソレが無難かと」


「愛人に刺されずに済むのは、そんな恋愛ですね」


「こっちの純愛に応えてくれる独身貴族は?」


「いるならキャバクラ嬢と結婚するのでは?」


「じゃあ学校辞めてキャバ嬢になろうかしら?」


 まさに今更なんだけど。

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