第2話:愛に生きる人02


 場所はちょっと校舎の影で昏くなっている場所。そこに二人の生徒が居た。まぁこんな人のいないところで何をしているかと云えば全力少年的にあまり選択肢も無く。


「墨州さん! 好きっす! 某と付き合ってください!」


「えーと……」


 我が天使こと墨州は愛の告白を受けていた。しかも僕の知らない男子生徒に。声からは困惑が聞こえてきたが、そのことがとても僕の焦燥をかる。


「某じゃダメっすか? その……大切にするっす」


「あはは。大切に……ね」


「やっぱり両替機が?」


「いや。アレは好きじゃないよ」


 な! なんだってー!


 天地鳴動し竜一頭。


「ただちょっとね。恋愛をする気は無いの。私にとって恋愛ってちょっとアレだから」


「え。じゃあ両替機とは何も無い?」


「と言えるのかなぁ?」


 そこら辺は墨州にも分からないらしい。聞こえる声は遠くを向いていた。


 墨州。可愛いよ。その可愛さで僕を包んでくれ!


「じゃあさ。お試しで某と付き合うって言うのは……」


「はーっはっはっは!」


 未練がましい言葉を紡ごうとする男子生徒の声を塗りつぶして哄笑がとどろき渡った。もちろん僕だ。逆光にシルエットが描かれて、その核融合の星を背に僕はポーズを決める。


「だ、誰だ!?」


 誰何の声は地上の男子生徒から。僕は校舎の屋上で、縁に片脚をかけて腕を組んでいた。


「僕レッド参上!」


 ビシィとポーズを決める。


「僕ブルー参上!」


 次は別のポーズ。


「僕グリーン参上!」


 さらに異なポーズ。


「僕イエロー参上!」


 さらに違うポーズ。


「僕ピンク参上!」


 さらに変わるポーズ。


「一人戦隊! オレンジャー! 見参!」


 チュドーンと背後で五色の火薬が爆発する……ようなテンションで僕は見得を切った。


「何してんの両替機?」


「もちろん墨州を愛している!」


「そういうのいいから」


「そういうのいいから!? いや! よくはないだろう!」


「告白を覗き見ていたの?」


「墨州が手紙で呼び出されるところから全て!」


「悪夢よ」


「行くぞ! とう!」


 そして僕は屋上から飛び降りた。キランと背後の太陽が輝き、そして僕は顔面から地面に着地する。


「……………………」


「……………………」


 墨州と男子生徒が沈黙する。しばし時間が経って。


「あの。じゃあ某と付き合ってください申し……」


「ダメだダメだ! 墨州は僕が先約している!」


「そうやって普通に復活するの止めない?」


「墨州だって僕が好きだよね?」


「さほど」


「くぅう! そんな墨州のツンデレも好き!」


 大好き。萌え萌え。


 で、そんな僕の頭部をスコーンと墨州のドライバーがシュートする。


「あんたのストーカー気質は分かったけど野暮な事しないで」


「好きな人には別の男を意識して欲しくない!」


「重いのよアンタは。あんまり人のこと言えないけど」


 ぐぅと墨州が唇を噛む。


「あのぅ。某の立場は?」


 で、男子生徒が北風を受けつつ自分を指差す。


「まぁ恋人になるのは勘弁して。どっちにしろ私と付き合ったら両替機に刺されるわよ」


「そんなことしないよ! ちょっと釘を金槌で打ち込むくらい」


「刑事事件だから」


「なのでそこな男子生徒! 僕の墨州に手を出すな!」


「あ。はい」


 てなわけで男子生徒は去っていった。


 ヒュルリと冬の風が吹く。およそ恋とは哀しみを両立させるモノだけど、今の僕にとっては地獄のような空気を味わわずにすんで一息。だってもし墨州が他の男子と付き合うことになったら。ああ、考えるだけでハルマゲドン。でもさ。僕の墨州への想いが熱量だとするのならファイヤーウォールってあらゆる全てを飲み込まない?


 宇宙科学的に考えて。


「で、結局こうなるわけね」


「ふ。最後に愛は勝つ」


「あのさ。あんた私に多大な迷惑かけているの分かってる?」


「ええ!?」


「あ、やっぱり分かってなかった」


「僕が何かした!?」


「普通こういう雰囲気に水を差すのって野暮なんだけど」


「だったら今から僕が墨州に告白するよ! それならいいでしょ!」


「消えろ」


 ドライバーが僕の頭をシュートする。


「ていうか屋上から飛び降りて何で無事なのよ両替機は」


「愛在る限り僕は不滅だよ!」


「本気で言ってそうで怖いわ」


 本気なんだけど……。


「で、これからどうする? 両替機が私のロマンスを邪魔したのは事実で、まぁ理屈上あんたの思惑には乗っていると思うんだけど」


「コーヒーでも奢りましょう」


「そうね。それくらいで手を打ちましょう」


「愛してるよ墨州!」


「抱きつこうとするな。ホント……両替機にとって私ってどんな風に映っているのやら……聞いてみたい気もするし聞きたくない恐怖もあるのよね」


「聞きたい!?」


「聞きたくない」


「愛してるよぅ!」


 抱きつこうとするとバキィッとドライバーでしばかれた。


「ふ。僕ってばMの気質があるからそれくらいは許容範囲よ?」


「在る意味両替機に愛されるって恐怖よね」


「そうなの?」


「そこで無邪気にキョトンとされるとこっちとしても状況の把握に苦慮するんだけど。まぁいいか。どうせ両替機だし。じゃあ放課後ね」


「うん。今日も最高に可愛いよ墨州!」


「はいはい」


 そんなわけで僕らは校舎裏の場所から教室へと舞い戻るのだった。

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