第5話 最後の「壊す」
姉ちゃんは安達が消えた後、ずっとそこでしゃがみこんでいた。そんなに大事な人だったの?姉ちゃんの大切なキーホルダーを壊した人だよ。
「姉ちゃん、大丈夫?」
僕は手を差し伸べる。姉ちゃんは顔を上げた。その顔からは涙が出ていた。何で?
「姉ちゃん?」
その瞬間、姉ちゃんは僕の手を振り払う。
「……え?」
そして姉ちゃんは自力で立ってどこかに行こうとする。
「姉ちゃん!」
姉ちゃんは決して振り向かずただただ歩く。
「どこ行くの姉ちゃん!」
僕は姉ちゃんの手を掴む。しかしまた手を振って僕の手を振り払う。僕はその衝撃で地面に尻もちをつく。
「痛……」
姉ちゃんは一瞬こっちを見て心配そうな顔をするが無視して行ってしまう。
何で?どうして?どうして僕を置いてくの?どうして僕は何もしてないのに。
僕は追いかける気も無くただ地面に座ってるだけだった。安達ってやつに殴られて、姉ちゃんに見捨てられて散々な1日だ。
「おい、大丈夫か?」
「――安達?いや、逆の方か……」
って、何で逆言葉じゃないんだろ。
「君、名前は?」
「は?西出さらだけど」
「西出……ってもしかしてひらの?」
「……うん」
何コイツ。めっちゃ優しいんだけど。
「ていうかさっきのひらだよね」
「そだけど」
「追いかけないの?お姉ちゃんなんでしょ」
……。
「僕は姉ちゃんの行動が意味わかんないの。喋れない病気だし」
「えっ?ひらって病気だったの?」
知らないのかよ。
「昔、色々壊された人に仲良くしてるし」
「つまり君はひらのことが好きなんだね」
「え!?」
僕が姉ちゃんを好き!?
「だってそうでしょ。そんなに心配するってことは」
「……い、いや。そんなことないから」
「ツンデレ」
「違うわ!」
安達はしゃがんで僕の頭に手を乗せる。
「……っておい!なにすんだよ!」
「別に家族の心配をしていいだろ。恥ずかしがることじゃないって」
僕は安達の手を必死にどけながら「え?」と思う。
「だから、行ってこいよ。仲直りしてこいよ。一回壊したら戻れなくなるぞ」
一回壊したら戻れなくなる。もしかして僕、安達と同じことをしたのかも。そして姉ちゃんは壊されたものを元に戻そうとしてるのかも。
僕は自信を持ったようにバッと立つ。
「ありがと!安達!意外といい奴だな!」
僕は走って姉ちゃんが行った方角に向かって走った。
どこだ姉ちゃん。どこに行ったんだ?
今更ながら、左頬と膝が痛むことに気付く。けれど休んでる暇などない。姉ちゃんに謝らないと。
僕は心当たりのある所を全てまわったが姉ちゃんはどこにも居なかった。
――姉ちゃん。朝。起きて。
――ごめん。今日は学校行きたくない。
――え?どうして?
――ちょっと……辛くて。
――いいなあ、学校休むなんて。羨ましいよ。
僕は走りながらあの記憶を思い出す。
――羨ましいなんて言わないでよ。
――え?
――出てってよ!
――お姉ちゃん……?
そしてその一週間後。
――ねえ、さら。
――何?お母さん?
――ひらは……その、病気になっちゃったの。
――……え?
僕は持っていたスマホを落とす。
――ひらは喋れないの。だから気を遣ってあげて。
その時僕は最低なことを言った。
――何で毎回姉ちゃん優先なんだよ。
――さら?
――姉ちゃんが学校行かなくなる前からそうだった。いつもお母さんは姉ちゃんのことばかり見て……。
――でも、今回は仕方ないでしょ。私も悪かったよ。
――もういい、姉ちゃんばっかり気にしてるんなら僕はいらないってことでしょ!
その後、僕は家出した。でも僕は友達の家に泊めてもらうのも何か嫌だったから河川敷で寝たんだ。
そしてお母さんからメールが来た。
――ひらが居なくなっちゃった。
は?何で姉ちゃんも居なくなるんだよ。悪いのは僕なのに。それから私はたまたまあの砂時計を公園で見つけてあの河川敷で逆世界に行ったんだ。
あの河川敷……。もしかして!
僕は思い立ってあの河川敷に行く。ここからはそんなに遠くなかったからすぐにその堤防は見えてくる。
そして橋の上に姉ちゃんが黒い影になって立っているのが見えた。
「やっぱりいた!」
僕は速度を上げて姉ちゃんの元に行く。そしてその瞬間姉ちゃんの方から花火が上がるのが見えた。その花火は姉ちゃんの影を明るく照らす。
「姉ちゃん?」
姉ちゃんは橋の手すり部分に座っていた。まるで飛び降りるかのように。
「姉ちゃん!」
僕は全力で走ってお姉ちゃんを追いかける。
――何で、何でだよ姉ちゃん。ホント姉ちゃんの行動、意味わかんないよ。何で「壊す」んだよ。
僕は姉ちゃんに追いつきそうになる。
――人生までも「壊して」なんの意味があるんだよ。
「姉ちゃああああん!!」
そして姉ちゃんは橋から飛び降りる。
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