第4話 最後の「壊し」
「――うわあああああ!」
「ぐへっ!」
俺はさっきのコンビニに着地した。あの時と同じようにワープした感覚が残っていた。
「西出⁉」
俺は当たりを見渡して西出達を探す。しかし、どこにもいない。ドッペルゲンガーに会うと消えるって逆世界からのことだったんだ。だったら、ひらもドッペルゲンガー会ってればよかったんだ。これが最適解だったんだ。
元の世界は夜だった。時間、言葉、歩く向き。全てが戻った世界で俺はやっと地元に戻ったような安心感がある。しかし、西出がまだあの世界に残ったままだ。なんとか西出を戻す方法はないのか?
そうだ、砂時計。この世界で砂時計を見つければ西出は戻れるんじゃないか?あの世界にもう一度行って戻れる方法を教えれば、西出も妹もきっと戻れる!
俺はそう思って砂時計を見つけるために走り出した。まずはあの公園だった。俺は全力であの公園へ走った。帰る人々を無理やりどけて俺は走る。人を手でどかすたびに何かが落ちる音がした。きっとスマホを「壊した」んだ。
公園に着いてこのまえよりももっと懸命に砂時計を探す。しかし、何故かどこにもない。
「何処だ!どこにあるんだ!」
俺は泣きたくなる感情を抑えるために大声を出して探す。しかし、一向に見つからない。
「瑠希⁉」
――その声って確か……。俺は後ろを振り返る。そこには西出ではない女子が立っていた。
「古橋⁉」
古橋とは小学生の時、西出と仲が一番よかった友達だ。ほぼ喋ったことはないが卒業式の時に怒られた。ひらのキーホルダーを壊したから、卒業式には居なかったから。
「何してるの?」
「何って……」
「とりあえず落ち着いてよ。汗だらだらだよ」
古橋は俺を引っ張って公園にあったベンチに座らせた。
「塾の帰りになんか聴こえたからびっくりしたよ」
古橋は俺の隣に座りながら話す。
「瑠希、行方不明だったって聴いたけど」
「え?」
そうか、俺は逆世界にいたからこの世界ではいないことになってるんだ。ということはひらもここには居ない。
「古橋ってさ、確かひらと同じ中学だったよな?」
「うん、そうだけど」
「中学校でのひらってどんな感じだった?」
そのことを訊くと古橋は「話してもいいのか分かんないけど……」と言いながら俺を見る。
「中二くらいだったかな……?だんだん学校に来なくなっちゃって中三ではほとんど見てないんだよ」
「……え?」
俺は驚く。学校……行ってなかったのあいつ。
「どうして……?」
「ごめんね、私も中学に入ってからあんまりひらちゃんとは話してないの。でも、明らかに友達は少なそうだったよ。見かけてもいつも一人だったし……」
「やっぱ俺のせいかな……?」
古橋は「え?」と言いながら俺を見る。でも、古橋も半分そう思ってるはずなんだ。
「全部、俺がひらのキーホルダーを壊したことから始まったんだよ。ひらは自分のせいとか言ってたけど……」
「え?ひらちゃんに会ったの?」
「……うん」
古橋は立ち上がって俺の手を握る。
「お願い、私も会いたいの。ひらちゃんを無視しちゃったことちゃんと謝りたい」
「……でも、ひらはもう……」
「いないの⁉」
「い、いやいるんだけど、ここにはいないというか……。説明がむずいな」
古橋は「どゆこと?」という顔をした。俺もよく分からないんだよひらが言ってたこと。
「とにかく!ひらに会いたいんなら俺と一緒に砂時計を探してくれよ!」
「え?砂時計?なんで?」
「いいから!」
古橋は少し困った顔をして考える。
「よく分かんないけど見つけたらひらちゃんに会えるの?」
「そう!」
「うん、分かった!」
俺たちは河川敷に来て砂時計を探す。二手に分かれて探していた。協力してくれる人がいることはありがたかった。
しかし、探しても探しても一向に砂時計は見つからず、足が痛くなるほど探し続けた。
「どこだよ……」
疲れて土手に座っている俺はなんだか情けなくなってきて涙が出そうになってくる。まさか、ひらが不登校になっていたなんて。そして俺の頭の中にいままでにひらの記憶がよみがえってくる。
初めて出会ったのは小学一年生。まだ小さくて無邪気なひらが見える。
そしてだんだんと日を重ねるごとに仲良くなっていき、六年生まだその仲が壊れるようなことは無かった。
しかし、小学六年生。俺はひらのキーホルダーを壊し、二人の仲も壊し、人間関係を壊し、生活リズムも壊し、信頼を壊し、自分をも壊した。
なにやってんだろうな俺。過去に戻れたらどれだけよかったか。しかし、いつまでもこうしてる訳にはいかない。俺は立ち上がってあの作業を再開する。
コツン、と足になにかが当たった。あれ?これってもしかして。
「――あった!」
俺の手にはあの古びた黄色の砂時計があった。ついに俺は見つけたのだ。世界の架け橋を。これを使ってまたあの世界に行けば……!俺はあの時のように胸に砂時計をあてる。
しかし、強い光なんてものは出ず、砂時計には何も変化がない。なんで?どうしてだ?なんであっちの世界に行けない?
「なんで!おい!動けよ!」
俺は何度も砂時計を使ってワープしようとする。しかし、砂時計はなんとも言わず、反応もせずただの砂時計になっていた。
「おい!動け!」
何度叫んでも祈っても結果は変わりなかった。
「……ひら」
俺は泣きながらしゃがみこむ。
「……もう一度、あと一度。ひらに会いたい。あいつにもう一回ごめんを言いたい……」
俺は頭の中であることを思いつく。
これを壊せば、ひらは戻ってくる?でも、逆に戻れなくなるかも。人生で最大の「壊す」をするかもしれない。
しかし、これ以外方法は思いつかない。俺は土手に砂時計を置く。そして右足を上げる。
――私、喋れないの。
――病気。
――大丈夫?泣いてるよ?
――ありがとう。
――大嫌い。
――でも、今は嫌いじゃないよ。ふつーって感じ。
――瑠希だって私のせいで変わっちゃったんでしょ?
――私は過去に戻りたかっただけなの。
逆世界で会話した内容を俺は西出の声に乗せて思い出す。
――ありがとね。
ドン!と頭上から大きな音がした。それは、大きくて綺麗な花火だった。そういえば、花火大会あるんだった。ひらも見てるかな、あっちで。
「うわああああ!」
バキッ!っと鋭い音が夜の河川敷に溶ける。
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