第3話 俺は俺に会う。

 俺達は砂時計を見つけるために日が高く昇っている時間に2人で探した。まず可能性が高いのはあの公園だった。俺が見たのはそこだし、ひらもそこで見たらしい。なので最初はそこを目指すことにした。

「ひら」

 信号待ちをしていたタイミングで俺はひらに話しかける。

「どうして砂時計に触れたの?」

 俺はたまたま拾っただけだった。でも、ひらは何か違う気がしたのだ。

 

『私は過去に戻りたかっただけなの』


 深刻な顔でひらは文字を打った。やっぱりそうなんだ。

 信号が赤になり、俺達は横断歩道を渡った。

 公園に着いて、俺達は必死になって砂時計を探した。しかしいくら探してもそれらしいものは出てこない。どうして?もしかして逆世界には存在しないのか?

「西出、あった?」

 彼女は首を横に振る。ないのか……。

 俺達は他もあたってみた。高校から橋の下、小学校の通学路。でも見つからなくて俺達はコンビニで休憩しているところだった。

「……はあ、ねえな」

 ……こくん。

「一体、どこにあるんだよ……」

 俺はコンビニで買った紙パックのジュースを吸いながら言う。そしてコンビニにあったポスターを見る。そこには「花火大会」書かれていた。

 花火......。

「明日花火あるんだってよ西出。一緒に見る?」

 彼女は目を輝かせてうん!と頷く。

「花火好きなの?」

 またうん!と頷く。

「そうか、じゃあ楽しみだな」

 そして彼女はスマホを手に取って文字を打つ。

『うん。花火見るの久し振り』

 彼女の顔は笑ってはいなかったが確実に明るかった。

 それと同じタイミングで道の脇から1人の男の子が出てきた。なんだか小学生っぽくてじっとひらを見ていた。

 あれ?なんかあの人どっかで見たことあるような。

「姉ちゃん!」

 と気づけばその男の子は彼女に向かって叫んでた。言葉と行動が逆じゃない。

 姉ちゃんってことはひらの弟?

「良かった。急に居なくなるからすげえ探したんだよ!」

 弟はひらに抱きついてひらは弟の頭をさする。そしてひら弟と目線を合わせるようにしゃがんで声は出さず「ごめんね」の口をする。

「ねえ、あの人って誰?」

 弟が俺を指さしながら言う。ひらはスマホを出してメールで弟に伝える。

「小学生の時、仲良かった人?たまたまこの世界で再会した?」

 メールの文章を読み終わった時に弟は俺の方を見る。

「姉ちゃんもしかしてこの人、姉ちゃんのキーホルダー壊した人?」

 俺とひらは一瞬動揺して固まる。ひらは弟に向かってゆっくり頷く。その瞬間弟の目つきが変わった。

「お前、安達瑠希だっけ?」

「あ、うん」

 弟は俺に近づく。


「もう姉ちゃんと関わらないで」


「え?」

 俺は思考が止まってそこにずっと立ってるだけしか出来なかった。

「行こ、姉ちゃん」

 弟はひらの手を握って俺から離れようとする。

「おい、ひら!?」

 俺は弟を追いかけようとする。ひらも弟の手を離そうと抵抗していた。

「姉ちゃん、なんで抵抗するんだよ!あいつのせいで姉ちゃんの人生が狂ったんだろ!」

 俺はピタッとその場で止まる。俺がひらの人生を狂わせた?

 ひらも困っているような顔をしていた。

「行くよ姉ちゃん。こんな奴置いて元の世界に帰ろ」

 弟がひらの手を強引に引っ張る。

「ん!!」

 突然ひらが大きな声を出して抵抗した。まるで弟を連れ戻すようにひらは弟の手を離そうとしていた。

「なんだよ!何でそこまであいつにこだわるんだよ!」

「んん......うう!ん!」

「姉ちゃん!」

 やはり弟の力の方が強くひらは思い切り引っ張られ地面に転んでしまう。それでもひらは抵抗していた。

「?え」

 急に後ろから逆言葉が飛んできた。俺は後ろを振り返る。

「......っ!」

 そこには俺のドッペルゲンガー。逆世界の、もう一人の俺が立っていた。

 しまった。油断して全く気づかなかった。俺は焦りながら一歩ずつ後退していく。

「?!人2が俺」

 もう一人の俺も驚いて俺に近づく。そんな中、俺はひらの言葉を思い出す。


 ――2人のドッペルゲンガーが出会ったら逆世界から消える。


 つまり俺は死ぬ?

 天災は忘れた頃にやってくる。まさにこの状況だった。

「ひら!!」

 もう自分の身体が半分消えていることに気づき俺は必死になってひらを呼ぶ。ひらは俺が消えていることに気づいた。

「......ん!!」

 ひらは思い切り力を出して弟との手を離した。

「姉ちゃん!?」

 ひらは走って今度は俺の手を掴もうとする。しかし、俺の手とひらの手は透けてしまう。

「ひ、ひら!」

 俺は全身が消える前に言葉を大きく発する。

「お前だけでも元の世界に――!」

 俺の声は急にラジオの電源を切ったみたいにブツンと切れて俺の身体もサッと消えた。



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