[第五章:意外な仕掛け人]その1
相変わらず、ゲームは続いている。続けている。
「まだ、やるのか。勝利のためになるとは思えない行動も、そうでない行動も」
「だとしても、勝利のために頑張るのがぁ、Aユニットの役目だし」
「よくよく無駄な行動を……」
彼ら二人も今なお、動いている。
その中で、このように疑問の声を漏らすのは、二人が自身の役割を忠実にこなそうとしている証拠であり、そのために合理的思考に基づいて行動するプログラムを持つ存在故であり…ゲームの本当の狙いのために、自分たちに与えられた到達目標を遠ざけるような指令を出される故だろう。
…なんにしろ、彼らは疑問と、不満に似た思考をつつ、真面目に動いていた。
しかし、それらが今ついに………。
『私たちは、宣言します!』
「なん?」
突如、両軍のKユニット上空に巨大な画面が出現した。
『私たちは、あなた達を一体残らず、殲滅します!ゲームを叩き潰すために、です!』
「何を言っている……?」
Aユニット二体は首を傾げる。
『……もうあなたたちの勝手にはさせません。これは、あなたたちへの、宣戦布告です!』
「…邪魔を、する気ぃ……?ゲームは大切なのにぃ」
二人とも、眉を顰める。
『下らない、迷惑なゲームもこれでお終い!全部、めちゃくちゃにしてやりますよ!』
その言葉とともに、画面は消える。
「………。めちゃくちゃにする。現地人たちが、今まで以上に、ゲームの邪魔をしてくる……」
「NPC分際で、邪魔を……」
二人は同時にそう呟き、そしてまた、同時に呟いた。
「潰す」
……こんなにも思い通りに反応を見せてくれるなんて。
▽―▽
「皆さん!」
そこは、小高い丘。森に隠れていたA軍のKユニットをやや遠くに見ることができる場所で、私は振り向きます。仲間たちに向かって。
「今日こそ、あの憎き連中を倒す時が来ました!連中が大事にしているゲームを叩き潰すため………なにより私たちの被った大迷惑の仕返しのため、跡形もなく叩き潰してやりましょう!」
叫び、私は腕を高く振り上げました。
「私たちは……許さなぁぁぁい!」
『許さなぁぁぁい!』
広がる森のいたるところにいる仲間たちの声が響き合い、とてつもない音量へと昇華されます。
「……よし、指揮は十分です」
ゲームに対し、多くの実戦経験と知識、そして叩き潰してやると言う意思を特に強く持った私は、一部隊の隊長になっていました。と言っても、指示はあまり出しません。仲間たちの動機は激しい怒りであり、攻撃の開始の指示を出しさえすれば、怒りに任せて敵を潰しに行くであろう、と推測されるからです。…っていうか、私が間違いなくそうするので、同じ思いの仲間たちがそうするのはそう不思議ではありません。
「…ここまで来た以上、もう指揮は不要です」
A軍攻撃部隊の、一指揮官の役目は、あくまで仲間たち(せんりょく)を目的地まで誘導する事ですから。
これから私も、一兵士として、Kユニットに突撃するのです。
その敵拠点には、無数のユニットが集結しており、武器を構えて臨戦態勢を取っています。全方位を警戒しており、今すぐにでも攻撃を開始しそうな勢いです。
「さぁ、始めましょう」
私のその言葉とともに、攻撃が開始されます。
「攻撃、開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」
皆が、Kユニットに向かって進み出しました。飛べるものは蜂の巣にならないよう、低空を飛行し、足の遅い者は地形を楯にしながら進んでいきます。
「私たちも行きますよ!」
私は、あらかじめ読んでおいたシィムルグに乗り、遅れて戦線に加わります。
「叩き潰しましょう、全部!」
Kユニット周辺に展開する全てのユニットが私たちに気付き、既に攻撃を始めています。
巨大ロボットがユニットを蹴り飛ばし、巨大な虫がユニットを貪り、擬人化属種の集団がユニットに噛みつき、ひっかく。誰もが勢いで敵に迫り、攻撃を加えるため、あたりはあっという間に乱戦になります。
「…さて。私たちは」
シィムルグに指示を出し、地上の戦闘が激しく、上空に反応しづらい所を通ります。目指すはKユニットの中枢、エツのいるところです。
実はこの作戦、作戦と言うべき内容がほぼなく、配置に着いたら、後は自由行動です。つまり、好き勝手に暴れろと言う事ですね。なんとも頭が悪いですが、仲間たちのほとんどは、組織立った攻撃行動なんてできません。いつも一人か決まった数人の仲間内でやっているだけですから。
ならば、心の赴くまま、衝動のままに暴れさせたほうが、同士討ちは発生するかもしれませんが、敵に被害を出せる、ということです。
というかそもそも、この作戦は作戦名から分かる通り、ただの仕返し、なのです。よって、とりあえず気が済むように連中に攻撃する方が優先です。ゲームを潰すのは大事ですが、そのために暴れるのを我慢することなどありません。
「よって、この状況ですね」
誰もが、自分の家や作品を壊されたことを叫び、怒りのままにユニットを八つ裂きにしていきます。おお、怖い。……ま、私もその一因ですけど。
「まぁ、それはそれとして。さっさとエツを潰しに行きましょう」
私は槍を構え、シィムルグと共にKユニットへ一直線です。
「…そういえば、イチョウはどこにいったのでしょう」
ふと、私は気になります。
秤もそうですが、イチョウはあの町での一見以来、突然姿をくらませてしまいました。元々二人が、ゲームの破壊をすると言って張り切っていたのに。
「いったい、どうしたというのでしょうか」
ま、どこかで神様のためとか言って、戦っているんでしょうね。其れより今は、エツの撃破を優先しましょう。
「………アデュプスによれば、Kユニットの構造は……」
今なお森の木々に半分ほどが隠されているそれは、直方体の形をしており、表面の色は灰色です。表面には装飾の一つもなく、とても味気ないというか、無機質なのです。
「…入口なんて、何処にもなさそうな要塞、ですね」
むしろ、要塞と言うより、あれではただの巨大なレンガのようなものです。
それに向かって、巨大ロボットなど、私以外にも叩き潰すために迫る人たちがいます。
「とにかく行きましょう……って!?避けて!」
突如、地上からかぼちゃ色のビームが飛んできます。A軍のJユニットの攻撃のようです。見れば、いつの間にか巨大な顔をくりぬいたかぼちゃに三つの巨大な足をつけた怪物が何体も、Kユニットの周囲を囲んでいます。防衛装置ですかね。
「危なかった」
と安心したのもつかの間。
「…クェェェェ!!」
シィムルグが泣いたと同時に、複数方向からJユニットの砲火が浴びせられます。彼は錐揉み回転を連続で行いながら回避。私は当然振り落とされそうになり、必死に捕まります。
「……こ、ここは地上も激戦区のはず……他にも飛んでいる人はいるのに……」
その言葉通り、周囲には私たち以外にも、数はそこまで多くはないものの、鳥の擬人化属種の人たちが飛んでいます。
「何故、私たちが集中砲火を……」
「一度、やられかけたからだ」
「!?」
咄嗟に私は、慣れないながらも槍を後ろに振ります。
そこにいたユニットは無表情で、私の攻撃(とは言えない威力)を受け止めます。
「エツ!」
「落ちろ!」
「わきゃぁ!?」
いきなり回し蹴りを叩き込まれ、私はシィムルグから叩き落されます。
「お、落ちる……!助けて!」
私は彼を呼びます。彼は直ぐに気付き、結構高度が下がったところで私を回収してくれます。
「く、くそぉ…」
私はシィムルグにしっかりと捕まりますが、高速移動したエツに今度はシィムルグごと地面に蹴り落とされてしまいます。
「…が、頑張ってください!」
私たちは地面に激突する前に如何にか体勢を立て直し、森の一角に着地します。
「……ふぅ。ところでエツはどこに……」
「死ね」
「げぇ!?」
いつの間にか背後にいた彼に驚き、私はシィムルグの背中から転がり落ちます。それが幸いし、先程まで後頭部に狙いを定めていたエツの銃弾を食らう事はありませんでした(頭は打ちましたが)。
「ま、不味いですよ……」
私は少し焦ります。秤の情報によれば、AユニットはKユニットにこもっている方が安全であり、この状況下で出てくるなど本来、あり得ません。
そんな私の疑問に答えるかのように、エツは言います。
「将軍の命令で、またこんなことを……。将軍は勝利する気などあるのか?ただのマッチポンプだとしても」
ん?マッチポンプ?どういう意味でしょうか。
「それは一体………いい!?」
私が口を開いた時には、首筋にエツの刃が付きつけられていました。
「…面白いとは、なんなのか。将軍は、そんなに楽しいのか?」
「なんの、話なんですか!?」
命の危機を感じ、つい声が大きくなってしまいます。
「NPCが知る必要はない」
「……プレイヤーが何を思っているのか、でしょうか、もしかして。まぁ何にしろ、ゲームは叩き潰すので。何を思っていようが、時期めちゃくちゃになって憤慨するだけですよ」
私は命を聞きを意識しないように、喋ることで心を落ち着かせます。
「なるといいがな」
「………どういう意味ですか」
意味深な返答です。しかしそれはそれとしてどうしましょう、この状況。
「助けてくれませんか?」
「拒否する。NPCは殺す。ゲームの邪魔にならないように。それが使命だ」
「そうですか」
落胆した声を出してしまう私。
「……いつまで、設定を続けるのか」
エツは小声でそう呟くと、剣を私の首筋に少し食い込ませます。
「……そしてお前は、いつまで踊らされるのか」
「……?」
踊らされる?私は自分で考え、決めているはずですが……。
「神様とやらの、手のひらの上と言う事ですか?」
「……神、様。か」
エツはさらに、私に銃口を向けます。
「まずは、死んでもらうか」
「い……!?ちょっと待って!時間を下さい!」
私は咄嗟の考えでそう言います。
そして、彼はいつも通りに無表情で、無情に、そして律儀に答えはしてくれました。狙い通りに。
「そんなものはいらな」
「いけー!食べてください、シィムルグ!」
「モガァ!」
私の言葉に応えた彼は首を伸ばしてエツを口内に入れます。
すかさず私は距離を取り(無様なジャンプ)、シィムルグはエツが入った状態でビームを撃ちます。
「む」
声と共にシィムルグは頭を振って口内のエツを吐き出します。
宙を舞った彼はボロボロになっており、飛ぶこともできずに地面に落ちます。
「よくもやってくれ………」
「とりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
叫びと共に迫るものが一人。
つまり私は槍を構え、落下した直後のエツの土手っ腹に思い切り突き刺しました。
「ぐ!?」
エツは驚きの声を上げ、崩れ落ちます。
「シィムルグ、おかわりです!」
「キェェェェェェェェェェェェェェェ!」
更なるビームが、エツの体に直撃します。
直後、爆発が発生。煙と炎が勢いよく舞い踊り、周囲の木々を吹き飛ばしました。
「ぐ……」
私は腕で顔を覆います。さらにシィムルグが翼で守ってくれたおかげで熱風を浴びずに済みました。
「……」
爆発の煙は爆発の音と同時に吹き飛びきったようで、直ぐに私は爆心地を見ることができます。
見ればそこには、何もありません。
「…もしかして」
ビームはエツを直撃していました。それによって爆発が起きたのなら、確実に倒せたはずです。
「…やった、やりました、きっと!」
その後、近くには誰の逃げた後もなく、誰の反撃の兆しもなかったため、私は勝利を確信しました。
「間違いなく、やりましたよ!」
随分、あっさりと倒せましたね。正直弱かったです。
「……いえ、シィムルグが強かったからですね」
気づいた私はシィムルグを労います。
「ありがとう、あなたのおかげであっさりとゲームを叩き潰せましたよ」
「クェェェ」
撫でられて感謝を受けた彼は、嬉しそうに声を上げます。
「よしよし……しかし随分意味深なことを言っていたものですね、エツは……」
一体、何の話だったのか。
まぁ、兎にも角にもAユニットを撃破。動きなどから見るに本物だったように思えますし、これでゲームは終了したはずです。どういうふうに終わるのかは知りませんが。
「少なくとも、敗北条件が満たされた以上、A軍が戦闘する意味はない。間違いなく、敵の抵抗はなくなっているはずですね」
そう結論付け、私は確かめようとシィムルグに乗ります。
「…さぁさ、見事ゲームを潰せたこと証拠をこの目で確かめに行きましょう」
私たちは、嬉しい気持ち一杯で空に上がります。今の戦闘で、にっくきゲームを一方的に叩き潰し、仕返しを達せしたし、何よりお仕事を邪魔されることもなくなります。
「連中の脅威がなくなれば、私のお仕事の成功率は元には戻ってくれるでしょう」
言いながら、私たちは森の木々を越え、空へと到達しました。
「さてと。連中の抵抗はもう起こっていないはずで…………え?」
私は、一方的に仲間たちがユニットを攻撃するか、ユニットがすべて消えて戦闘が集結している、そんな情景を思い浮かべていました。しかし、です。
「ど、どうしてですか?」
現実は違いました。私の想像とは全く違うのです。
「…何故、何故、どうしてゲームがまだ、終わってないのですか!?」
戦いは、まだ続いていました。さらには、B軍のユニットがA軍のユニットに攻撃を仕掛ける様子も見られ、ゲームが続いていることが証明されていました。
「………」
私は暫く、無言で辺りを見ていました。
そんな時、突如として拍手が聞こえてきたのです。
「よく頑張った。よく、神様の言う通りの行動をした。想定通りのリアクションをした。褒めてやる。無駄なことをしたことを」
聞き覚えのある声。それに私は振り向きます。
「この、悪の大魔王であるイチョウ様がな」
空中に浮遊するもの。それは紛れもなく、あの阿呆でした。
「………あなた」
私は、いつもの格好の割に、どこか異質な雰囲気を出すようになった彼を見つめます。
「何か、知っているのですか?」
彼は、無駄なことと言いました。それはおそらく、今しがた私たちが成し遂げた筈の、エツの撃破の事でしょう。
「…ふっふっふっふっふ。はぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!勿論知ってる!」
イチョウはそう叫ぶと、マフラーを掴んで大きく羽ばたかせます。
そしてにやりと笑うと、私に人差し指を突きつけて叫びました。
「…そもそも、Aユニットは何度倒されても復活する。つまり、実質的に排除はできないんだよ」
「………はい?」
ちょっと待ってください。秤が言っていたことと話が違います。
「おかしいでしょう!?倒せなきゃ、ゲームを終わらせようがないのですから!」
「くっくっく………」
イチョウは嘲笑うかのように私を見つめます。
彼は、一体……。
「お前はバカだな。嘘を信じ込んでいたとは。僕様は神様から聞いているぞ、真実を」
「なん、ですって……?」
嘘?彼は真実を聞いた?
「まさか、教えたゲームルールが本当だったとでも思っているのか?」
「ど、どういうことですか…?」
そういえば、秤に協力をしてからと言う者、いつの間にか全て、彼女やイチョウの言う通りだと思っていました。……しかし、それらの言葉に証拠はなく、一部の内容が状況証拠から正しそうに見えるだけです。
「…あなたたちは、嘘をついていたというのですか!?一体どうして!」
「…全ては神様のためだ……」
「神、様……」
二人とも、ことあるごとに神様のためと言っていました。しかし、その神様とはいったい誰なのか。そもそも実在するのか。仕掛け人かもしれないその存在の正体は一体…。
「……それで?あなたはわざわざ何をしに来たんですか?」
嘘を明かすためだけに現れたとは思えません。
「あなたの目的は、ゲームを潰すこと。なら、これは何かの作戦なのですか?」
ゲーム破壊のための。彼なら考える頭はともかく、下種な作戦でも取りそうなところがありますから。
私はそう思って言ったわけですが、そこで驚きの言葉が出てきます。
「はぁっはっはっはっはっは!僕様はゲームを潰す気はない」
「………はい?」
あれだけ固執していたのに、今更どうして真逆の事を言って……。
「そもそも。ゲームは終わらない。絶対に」
「終わらない?どういうことです………」
イチョウは両手を勢い良く広げて言います。
「ゲームに終りなんてない。幾らユニットを潰そうとも、Aユニットを叩こうとも、直ぐに再生し、戦いを続ける。永遠に。全滅しても、復活して、戦い続ける」
「何を、言っているのですか……!?」
ゲームが終わらない?そんなバカな…だって。
「神様二人が、下らないことで意地になって、揉めているのでしょう!?」
競い合う二人が、勝負の一生突かないことで勝敗を決めようとするはずが…、
「ああ、それ嘘だからな」
「………はい?」
二度目の絶句。
イチョウはそんな私の様子を見て、嘲笑し、続けます。
「お前に教えたこと、半分ぐらい嘘。現実じゃぁ、ない。現実なのは、生産されるユニットが永遠に争っている、それだけだ」
「……」
私は言葉が出ません。今までの前提の多くの事が覆されてしまったからです。ゲームは終わりないものであり、原因とされたものはなく、私は騙されていた。
なら、一体何故…………?
「あなたたちは、どうして私を騙したのですか!?」
そう。私に散々嘘を吹き込み、様々なことに巻き込んだ。わざわざそんなことをする理由は、しようとしたのはいったい誰なのか。
「……それだよ」
「はい?」
イチョウは私の顔を指差します。
「そういうのだよ」
「?」
私は何のことかわかりません。
その疑問の答えは、直ぐに与えられました。
「お前の反応だよ。お前たちの、たくさんの表情だ。恐怖、怒り、悲しみ、その他諸々。それを見るために、神様は全てを仕組んだんだよ」
「………はん、のう?」
それはつまり、私たちの喜怒哀楽を観察していた、ということでしょうか。
「観察は、楽しいらしいからな」
イチョウが補足するように言います。
「………私たちの様子を見て楽しむために、全ては仕組まれたというのですか?」
今までのイチョウの言葉から出た、私の確認の言葉に彼は首肯します。
「終わらないゲームもなにもかも、生きて表情を見せるお前らが面白いからだ。面白いのが悪いからだ。そして、これからもずっと観察される。神様が飽きるまでな」
イチョウは眼下の戦場を指差します。
「言っておくが、お前たちはゲームを終わらせることなんてできない。今やっている攻勢はすぐに無限に再生するユニットによって盛り返され、阿鼻叫喚の地獄が始まる」
イチョウは私より高い位置に跳びあがり、見下しきった目で言います。
「お前たちはこれから、せいぜい必死に生きるんだ。その様を、天から神様は見続けている」
その言葉を聞き、私は明かされた真実に対する衝撃で声を詰まらせつつ、
「………私たちは、踊らされていたというのですが、観察とやらのために…」
イチョウは頷き、
「お前たちは思考が単純だからな。操るのは簡単だった」
「………」
私はキッと彼を睨みつけます。
「……私がお仕事を達成できない日々が続いたのは、全て、あなたたちのせい、ですか……」
怒りが、湧いてきます。最初にお菓子を潰されたのも、偽のお仕事で騙されたのも、手紙を燃やされたのも。全てはイチョウたちのせい。下らない観察とやらのために、私は日々を拘束され、無駄にストレスを感じる羽目にもなりました。
「いいな、その表情。神様は今も喜んでいるだろうな。愚かなお前に」
イチョウは高笑いをします。
私はそれを見て、さらに怒りがこみ上げてきます。
「……許せません。一体誰なのですか、あなたたちの背後にいるのは!」
「愚かなお前は気づけないだろうな。常にお前を見ている神様の正体など……」
「さっきから思ってましたが、あなたの言葉は一々ムカつきます!」
その叫びを聞いてもイチョウは平然とし、さらにはこんなことを言ってきます。
「さて。そんな些事はどうでもいい。僕様はさっきも言った通り、ゲームを破壊する存在じゃぁない。お前たちを、命の危機にさらす存在だ」
「……あなたの本当の役割は…私たちを殺しに来る死神だと?」
「その……とおりだ!」
その瞬間、イチョウが両腕を振り上げます。間髪入れず、彼の頭上に巨大な炎の球が発せしました。
「さぁ、さぁ、さぁ!お前たちは、終わらないゲームを終わると信じ、せいぜい足掻くんだな!超絶強化された僕様の必殺技、食らいやがれぇェェェェェェェェェェ!!」
彼はその球を私たちに向かって投げようとしてきます。
「シィムルグ!アデュプス!」
私は二人に攻撃を放ってもらおうと声を上げました。
「クェェェ!!」
前者は即座に反応し、口を開いてイチョウに向かってビームを叩き込ます。
……しかし。
「き、効かない!?あなた、打たれ弱いんじゃ…」
シィムルグの攻撃は、イチョウに傷一つ負わせることができませんでした。
「今までのは、あくまで演技だからな?愚か者がぁ!」
彼は、勢いよく両腕を振って炎の球を投げつけてきます。
「アデュプス!」
私はシィムルグに指示して逃げようとしながら、彼女に迫る脅威を排除してもらうため、ビームを撃つように言います。
ですが、何の反応もありません。
「アデュプス!?」
既に三度目のコール。しかし、彼女が応じる様子はありません。
「どうして………!?」
彼女からは、私が命の危機に晒されていることは見えているはず。それなのに、どうして助けをくれないのか。以前、私が村で頼んだときはやってくれたのに…!
「全力で、逃げて!」
私は叫び、シィムルグと炎の球から逃げます。
球はいつのまにか巨大所ではない、空母ぐらいの大きさに成長していました。
「………どうにか、逃げ………」
直後。巨大な破壊が、辺り一帯を襲ったのです。
地面に接触した炎の球は、その瞬間に一気に弾け、周囲に大規模な爆発をもたらしたのです。
「はぁっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!さぁ、頑張って生きて見せろ、神様は、楽しみにしているぞォォォォォォォォォォォォ!!」
私たちも爆発に巻き込まれ、イチョウのムカつく叫びを聞いた直後に、意識を失ってしまうのでした。
▽―▽
とても、面白い。多くの者たちが必死になる様は。様々な感情で、多種多様な行動をする様子は。
特に、観察しがいがあるのは、致命的な絶望を味わう時。一番笑える反応を、彼らはしてくれる。
だからこそ、今回のようなことを起こしてみた。楽しいし。
……友達と思われている人に嘘をつくのは、良心が咎めないでもなかったが、自分もまた趣味人。止められるはずがない。好きなことを。
「それにしても趣味人の反応は特に面白い。その中で一番面白いのは……ふふ」
怒り狂う趣味人の暴走の被害を受けることもない、絶対安全な特等席で静かな笑いが零れた。
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