[第四章:怒りの大噴火]その2

 私たちは今日も今日とて、ゲーム破壊のために動いています。


 相変わらずです。イチョウは激しく説教されたのに、何故か全く懲りていません。なんなんら怒られたせいか暴れようとする意志が強くなったような気もします。


そのため、チョコを集めて彼を制御することに腐心する羽目になりました。


活動が一か月越えという長期間にわたりつつも、中々終わらないせいもあって、私のストレスも溜まってきています。


 終わりはいつ、見えるんでしょうかね?


 Aユニットを倒すことで即終わらせる方法はあるのですが、彼らはKユニットにこもって防衛態勢にあり、手が出せない状態です(割とすぐに仕掛けたのですが、シィムルグと秤、イチョウだけでは戦力不足なようで)。というわけで地道にユニットの数を減らす手法を取っています。


最近は私たち以外にも、ユニット破壊に動く人たちがいると、アデュプスから聞きましたが……。それによって早く終わるといいです。…っていうか終わってください。疲れてきました(休みはとっているので肉体的問うよりは精神的に)。それでも約束もした以上、投げ出すわけにもいかず………。


「もう、止めたいですね」


 雲一つなく澄み渡る、心地の良い朝でした。


 その陽気と日々の疲れにより、私たちは脱力して芝生に寝転がります。


 ちなみに、イチョウですが、ベルトをいじれば体を消滅させられることが分かったので、そうした上で、以前もらったドリルランスの中に封じています。


「僕様を閉じ込めるとは、なんと生意気な!確実に裁きを下してやる!」


 と言って彼は非常に五月蠅いし、声を聞いているだけでイラつくため、少し離れたところに槍ごと転がしてあります。


「……か、神様のためよ。やめるわけには」


「でも、もう限界では?毎日ユニットを狩り続けるのは」


「……そ、そうだけど……けど、神様のためよ!」


「……いるんですかね、そんなの」


 今ふと思いましたが、一行に終わらないゲームも、ゲーム破壊も、実はどこかの趣味人が嫌がらせのためにやっているのでは?一見、荒唐無稽な話に思えますが、趣味人は他人には扱えない超高度技術を持っていたりします。ユニットを量産して戦わせることも容易でしょう。


 ともかく趣味人ならやってやれないことではない。彼らの中には性格が悪い人も相当数いるので、嫌がらせでやるのもあり得る。


「……そうです。ゲームとやらはきっと、世界に対する迷惑行為とか、盛大な嫌がらせに違いないです」


 ならば、仕掛け人を見つけて絞めてやれば問題解決かと。いい加減状況を変えたいです。


「……そう言えば、あなたにもらった電話番号、ありましたね」


 そう言って懐を漁ると、随分ボロボロになった紙片が出てきました。


「……ギリギリまだ読めますね」


「何するつもり……?」


「この怪しげな番号に電話して、仕掛け人を問い詰めようかと……」


 私は脱力した声で言います。


 すると秤はやや機嫌が悪くなった様子で、


「仕掛け、人?まさかと思うけどあなた、神様を疑っている、の……………?」


「そもそもいるのかどうか………あ」


 不味い。疲れているせいで口が滑りました。


「神様はいるわよ!さすがにその発言は不敬よ、ふ・け・い!」


 実在を信じて交信を続けた彼女が、私の今の発言を許すわけありません。


 私と同じように(主に精神的に)疲れているのに、顔を真っ赤にして起き上がり、叫んできました。


「……し、失言でした。忘れてください」

 まともに相手をするのは余計つかれるので、素直に謝ることにする私。

 

 しかし、疲れで怒りを抑える力がないのか、秤は謝罪に対し、


「簡単に水に流せるほど軽い内容じゃないわよ!」


 そう大声で言います。


 …やはり、彼女の地雷を踏み抜いてしまったようです。本気で怒らせた今、魔法で何をやってくるのか。怖いです。


「落ち着いて下さい、秤。神様はあなたのことを見ています。折角期待してわざわざ啓示をくれたのに、理不尽に暴力を振るあなたを見れば、悲しむでしょう?」


「神様はそんな人格者ではないわ。もっと俗世じみてるわ!」


 世界を超越した存在と言える、神を名乗るくせして、俗世時見ているんかい(でもどこぞの神話の神様たちは結構俗っぽいから普通でしょうか?)。

 …あと、あなたの発言の方が神様とやらに対して不敬な気も?

「適当なこと言って!神様を馬鹿にするのも大概にしなさい!神様は俗っぽくて、実在している存在なのよ!」

 さらに声を張り上げて言う秤。


 適当を言って宥めようとしたことが、彼女をさらに怒らしてしまったようです。



「すみません、すみません!神様はいます、いますって!」

 とにかく場を収めようと、私は言います。


「本当に思ってる?」


 彼女は探るような、疑い深い視線を向けてきます。


「勿論です!」


 と言ってもやはり彼女は信じていないのか、こう言ってきます。

「そう思っている証拠を見せてくれないと。そしてさっきの発言をすべて撤回して…」


「…」


 面倒くさいですね!さすが趣味人の端くれ。適当な謝罪では許してはくれません。

 …いやまぁ、私が失言したのが悪いんですから、言えた立場でもないか。

 人の大切なものをないもの呼ばわりは、真実がどうあれ、良いことではありませんからね。


 そう思いつつも、どうこの場を収めたものか私が困っていたその時。狙いすましたかのようなタイミングで、です。


『クロノユキ』


 ポケベルモドキから声がしたのです。


「て、天の助けです!」


『…確かに衛星軌道上にいるけど。だよ?』


「すみません、秤。ちょっと連絡がきたもので」


「あ、ちょっと!……もう」


 申し訳ないですが聞こえないふりをして。


「…それで、どうしたんですか、アデュプス」


『久しぶりに配達の依頼、出てるよ』


「なんですと!?」


 配達。つまりはお仕事。その言葉だけで天にも昇る気分でした。そう言えば最近、ゲーム破壊の事ばかりでお仕事のことを一切考えていませんでした。それで余計に疲れたのかも。


 生きがいを実質的に放棄した状態にあれば、そりゃあね。


「……しかし、忘れてしまうぐらい依頼が来ないのは……」


 きっと、最近あちこちで続くゲームのせいですね。……く、ここにも影響が。そう考えると、ゲームへの苛立ちが再燃してきました。


「まぁ、それはそれとして。一体、どこにいけば?」


『うん。そこから東に二キロほどのところに大きめの町があるよ。中世のような見た目の町だから分かりやすい。だよ?』


「分かりました。今すぐ行きます。教えてくれて、ありがとうございました!」


『うん。秤のこと観察出来て楽しいから、別に。だよ?』


 私は心なしか体が軽く、うきうきして舞い上がってしまいます。


「秤、私実は………」


 先程彼女を怒らせたことをすっかり忘れ、私は彼女に楽し気に話しかけます。


 勿論、話を強制中断されて無視された彼女は余計に怒り、しばらく私は文句を言われ続け、謝り続けるのでした。




▽―▽




「……最近、NPCの邪魔が多い」


 A軍のAユニットは、平坦な声で言う。


「将軍たちの崇高なる目的を邪魔するとは」


 彼は今までプレイヤーのため、この世界の被害など気にせず、怒りなど気にせず、軍を動かして戦ってきた。しかしだ、最近はあちこちで趣味人や妖精、その他諸々の妨害を受けるようになった。作戦を崩されることも増え、大変迷惑しているのだ。


「…今までただの些細な要素と考えていたが。これは……」




「これら全てがぁ、ゲームの大局に影響しうる脅威とぉ、認定しなきゃねぇ」


 B軍のAユニットは言う。彼女も同じ意見なのだ。現地人は危険であると。


「そのなかでも一番厄介なのは………」


 彼女はとある妖精に注目していた。彼女自身はそこまで脅威ではない。しかし、彼女が指揮するジョーカーや怪物たちと、彼らを効果的に扱ってユニットを殲滅する作戦。これらは明らかな脅威である。彼女とその仲間たちは、他の誰よりも群を抜いた数ユニットを勝手に倒し、ゲームをかき乱しているのだ。


「対応、すべきぃ。それに本当の目的にもあってるしぃ。なんにしろAユニットとして、ゲームの駒としての役割を、こなすだけぇ。決められた通りぃ」


 彼女は、自身の生み出された真の理由と、それと一見関係ないようにも見える自身の役割を振り返り、そう言った。






 火山の噴火は、もうすぐ目の前だった。


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