[第四章:怒りの大噴火]その1
「無秩序な破壊はダメだと言っているでしょう!」
「やかましい!」
場所は巨大な古墳型の趣味人の拠点。私たちはそこを舞台に、A、B軍のユニットと戦っています。
木々が生い茂っていることと、敵が一塊なおかげで奇襲攻撃によって損害を与えやすいです。
一塊なのは全方位に弾幕をばらまく目的なようで、迂闊にでるとハチの巣にされます。生い茂った木や岩を楯にして接近、少数の敵に攻撃して森の中へ即離脱と言う戦法です。
相手は私たちを捉えづらく、こちらは一方的に攻撃できるゲリラ戦法と言う奴ですね。地形を相手は知らない一方でこちらは熟知している必要がありますが、それはアデュプスの支援で解決です。
「……はぁ。イチョウ、またそうやって作戦を台無しにするつもりで?なら、チョコはあげませんが、いいんですか」
「……」
ゲームが終わらず、あちこちで迷惑極まりない戦闘が続いているここ数週間。
私たち三人は、今まさにしているように、アデュプスにもらった情報を元に戦場へ赴き、武力介入をしています。
攻撃手段としてはシィムルグの炎ビームや秤の魔法、イチョウの必殺技などです。シィムルグに関しては、ビームを吐くのは結構疲れることらしいので、高頻度で動員はしていません。しょっちゅう呼びつけるのも悪いですしね。
「秤、今です!捕まえてください!」
「分かったわ」
秤の魔法の鞭が伸び、絡み取られたかぼちゃ頭が数体こちらに引き寄せられてきます。
「イチョウ、やってください」
「……これはチョコではない、神様のためだ!」
とイチョウは叫びながら勢いよく迫るかぼちゃ頭たちに必殺技の一つの正拳突き(最初に私にはなったやつです)を放ちます。それがうまく命中し、衝撃波がかぼちゃ頭たちにきれいな円形の穴が生じた瞬間、彼らは吹き飛びながら個々の部位がひび割れ、砕けて消えていきます。
秤曰く、イチョウの攻撃でHPヒットポイントがゼロになったからであるとのこと。まるでゲームですね。いえ、ゲームですけど。傍迷惑なゲームですけど。
「……さて。敵はまだまだいますよ。秤、お願いします」
「ええ」
ちなみに、私は秤に運んでもらっています。
勘違いしないように言っておきますが、楽をしているわけではありませんよ?私の動きでは逃げるどころかすぐにやられてしまうため、秤に魔法でもなんでも使って運んでもらった方が作戦を実行しやすいのです。
彼女も、神様のためだからと承諾してくれています。
「……しかし、最近妙に活発的にこちらを攻撃してくるような」
私は秤に運ばれて草むらに隠れつつ呟きます。
以前、村で戦闘が起こったときは、かぼちゃ頭たちは基本的に、私たちに目もくれませんでした。しかし最近は、かぼちゃ頭、モンブラン頭以外の動くものを見たとあらば直ぐに、射撃だけですが攻撃を加えてきます。まるで、邪魔をするなとでも言わんばかりに。これはどういうことでしょうか。
「……ま、それはそれとして。今は戦闘に集中です」
私は秤に指示を出し、イチョウを、チョコを餌にどうにか従わせながら戦いを続けます。
「そこです!」
「ふっ!」
また秤の鞭で絡めとられたモンブラン頭たちが、木々の中に紛れて消える私たちの元へ。そこにイチョウが回し蹴りを一発。地面に叩きつけられ全て消滅したかと思いましたが、一体だけ消えません。
それは素早く動きます。
「やり損ねた!?」
なんと、ナイフ持ちのモンブラン頭は地面を素早く蹴り、起き上がったときには走り出し、私に向かってナイフを突き出してきたのです。
「……くっ!」
私は回避は不可であると悟り、とっさに頭を下げます。
直後、兜にナイフが直撃したらしい衝撃が加わり……私の頭から外れて落ちてしまいました。
私は小さくなりつつ、攻撃を受けた勢いで秤の右横方向へ地面を転がっていきます。
「へ?……ま、まずいぃ~なぁ」
仕留めそこなったと分かったモンブラン頭はナイフを振り上げ、小さくなった私に振り下ろそうとします。
ぼけた頭で周りをみると、イチョウは回し蹴りに勢いをつけすぎたせいか、地面に片足がめり込んで動けない様子。
「やりぃ~」
「ふ~んっ!」
思考が溶ける寸前の私の言葉をくみ取った秤が素早く鞭を振るいます。しかし、その軌道、速度ではモンブラン頭を止めることができません。
「やったわ」
そうは言いましたが、その行く先には私がまだ背中に提げていたドリルランスが地面に落ちています。これを弾くことで、モンブラン頭を止められるのです。鞭は実際に槍を力強く弾き、モンブラン頭の背中にささりました。
「……」
無言で奴は砕け散ります。
本当にあっさりとした塵際ですよね。あくまでゲームの駒だからかも。
「危なかったわね」
秤はそう言って兜を拾い、私にかぶせてくれます。
「……あ、ありがとうございます。博打でしたが、成功して良かったです」
「あなた、あの状況でよくあんなの思いつくわね」
今のモンブラン頭を撃破した戦術のことを言う秤。
「どうも。……それにしても、あなたもよく私の言わんとすること、くみ取れましたね」
「そりゃぁね。長い付き合いだし、特に最近は」
「そうでしたね。……早く終わってほしい、このゲーム」
最近戦いに明け暮れる日々であることを思い、思わず言う私に、
「神様のためよ。頑張るしかないわね」
「はぁ。あの時Aユニットをちゃんと撃破できていたら……いえ、これはわざわざ来てくれたシィムルグに失礼ですね」
そう言って立ち上がった私は、二人と戦いを再開し、最終的にユニットたちを殲滅しました。
「某の墓が……ぐちゃぐちゃに……く、くっそぉ~」
ここのお所有者である、エジプトの権力者風の趣味人は悔しそうに、ボロボロになった拠点を見て言います。
「こんな迷惑なことをした連中を倒したのは僕様だ。正義の魔王の、な。感謝するとよい」
「いや、あなたもここの木とか、壊していたでしょう」
「必要な犠牲だ」
さも当然かの様に言うイチョウ。目的のためなら、何でもやってよい理論全開です。
「…な、なんだと」
趣味人は怒気を孕ませてイチョウを見ます。
「……な、なんだ、その生意気な顔は」
ただならない剣幕に、怯んだのか、イチョウは数歩下がります。思い上がっているせいか、余計なことを言っていますが。
「……な、生意気?そこの二人は余の墓を壊さぬよう配慮していた節があるが……貴様は壊す気満々だった……さらには生意気などと……余を舐めているのかぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「な、な、なんだ!?急に怒るな!?」
イチョウは動揺した様子で、慌てて私たちを見ます。助けてとでもいうつもりでしょうか。
「僕様を守れ!盾だろう、お前!」
ほぼ正解でした。
「誰が盾ですか。一体いつそんなになったと?」
私が冷たく言うと、彼は逆上し、
「今!僕様は正義の魔王!そして神様によって遣わさ……いたっ!?」
「ふ~ん。痛そうね」
興味なさそうに秤が言う通りです。今しがたイチョウは、打製石器を後頭部に叩きつけられたのですから。
「…な、なにをする……いたいぃ」
まるで子どものように縮こまり、イチョウは振り返って言います。高身長でガタイもいい方なのに。内面が完全に外面に裏切っている………。
「余が折檻してやる!そこになおれぇ!」
「せっけん!?僕様を洗剤に加工する気か!?」
「折檻だぁ!」
打製石器の一撃がイチョウの後頭部へ。
「いあたぁ!?」
「いいか、よく聞け。お前は……」
趣味人は石器で殴ると脅し、頭を押さえて蹲るイチョウを叱りつけ始めました。
「……これは、チョコはなしでもいいですね」
私は最近、イチョウを制御するため、チョコを趣味人などから仕入れているのですが、足りていません。何故ならば、久しぶりにチョコを摂取したことで執着がましたのか知りませんが、彼はより食べたがるからです。
そんなわけで、節約ができるならしておきたいのです。そんなに何度も、しかも大量に仕入れるなんて都合よくはいきませんからねぇ。
「この様子だと、気持ちが沈んでチョコなんて忘れるでしょう」
相変わらず暴走をしかけて周囲に被害を与えるので、いい薬ですね。
「チョコね……。そう言えば」
秤がふと言います。
「A、B軍のプレイヤー。つまりは神二体だけど、両方ともスゴイ甘党らしいわ」
「そうなんですか?……いや、それは当たり前では?だってかぼちゃケーキかモンブランかで争っているんですから」
甘いもの好きなのは当然でしょう。
という私の言葉を、秤は手を振って否定し、
「いえ、ただの甘党ではないの。尋常ではない甘党よ。砂糖が入っているあらゆる食べ物をひとしく愛しているぐらいに」
「砂糖さえ入っていればいいんですか…」
「かもね」
久しぶりに神様からの情報を言ったからか、嬉しそうな秤です。
…っていうか、一度にどれだけ彼女に情報を詰め込んだのでしょう、神様は。そこまで通話時間は長くなかったはずですが。
「でもそれだけ見境がないなら、別にかぼちゃケーキとモンブランの優劣何てどうでもいいのでは?」
「…そうね。じゃぁ、どうしてかしらね、ゲームをして勝敗を決めようとしているのは」
首をひねる私たち。
「本来、仲は相当いいらしいけど。どうして揉めたのやら」
秤は肩をすくめます。
「まぁ、神様のためにやるべきことは、ゲームを破壊すること。それ以外はまぁ、些事ね」
私も似たようなことを思ったのを頷きます。
そんなことをしている間にも、イチョウは趣味人に説教されていました。
「……それはそれとして。どうして、私を狙ったんでしょうか」
あのモンブラン頭は、至近距離のイチョウではなく、私を何故、明らかに狙っていたのでしょうか。
▽―▽
やっぱり、クロノユキは見ていて、聞いていて、面白い。
なんだかわからないが、結構好きなのだ。だからできる限り、いろんな表情を、長い間見ていたい。
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