[第二章:戯言のはずの現実]その3
「……どうやら捕まったようですね」
犯人は………まぁ、あの二人でしょう。
気絶する前、見覚えのある光の鞭も見えましたし。
「……許せませんね。私のお仕事を利用するなんて……」
一時は久しぶりの依頼で忘れていた怒りが、お仕事を利用されて生じた怒りに上乗せされ、機嫌が一気に悪くなる私。
「……しかし、考えてみればこれも全て………あのゲームとやらのせいです……よね」
イチョウが現れたのも、秤が私に嫌なことをしたのも、私が捕まったのも、あの村に大被害がもたらされたのも、高頻度で戦闘に巻き込まれるのも。
「……潰すのも、いいんじゃないですかね」
苛立った私はなんとなしに、そう呟きます。
ある意味、諸悪の根源ともいえるゲームを台無しにしてやれば、最近私たちに降りかかるあらゆることが一気に解決しそうな気もするのです。
「……しかし、もし秤たちを動かしているのが今の事態の仕掛人なら、ゲームを破壊することは本格的に面倒ごとに巻き込まれることになります……」
などと考えつつ、暫くむすっとしていた私でしたが。
「……まぁ、それはそれとして。このまま苛立っていても何にもなりません」
と言うわけで、思考を切り替えていきましょう。
「……さて。ここから脱出でもしたいところですが……。彼女等が犯人なら、ここって教会の中とかなんですかね?」
辺りは文字通り真っ暗です。見えるものと言えば、私の四肢を拘束する魔法の鎖だけです。体が十字に成るように張られていて、とてもではないですが、動くことなんてできないです。
「助けは……どうしましょうか」
今いる場所が気絶前にいた場所の近くとも限りませんし、戦車さんの救援は期待できませんね。
アデュプスへ連絡するというのは、あちらから取ってこない限り、あのポケベルモドキを使うしかないです。動けないのでこれは却下。
呼んだら助けに来てくれそうな人(人じゃないけど)はもう一人いるんですけど、彼も無理ですね。どうも室内らしいここでは呼びようもありません。
「……つまり、私は逃げようがないですね」
完全に詰みです。……くっ、せめて私が怪力だったり、液体の塊だったりすれば。
「……液体。そうですっ。御代金様に唾でも入れてなめこ汁を出してもらって……」
その流動性を以てして、私の手くび、足くびを濡らして縛る鎖から抜けば……。
「……無理な気がします」
十分な量の唾液を入れるのも御代金様の位置的に難しいですし、それが達成できたとしても御代金様は生成した物質を肩にしか出せません。両腕が上方向に固定されている都合上、腕の開放は不可。運が良ければ足までなめこ汁が流れ、足の開放に成功するかもしれませんが、そこだけ自由になってもどうしようもないです。
足を使って汁物を高い所にある腕に垂らすなんて曲芸レベルの芸当、私に出来るわけがないですから。
「……いえ、やらずに諦めるのは得策ではないですね。ここは関節を痛めるのを覚悟で……」
と、私が御代金様を出して計画を実行に移そうとした時、タイミングよく足音が聞こえてきました。
周囲に幾つか、ふわりと光源が発生。おかげで、周囲が少し見えるようになります。
「ふ~む…」
私はどうやら、円形の部屋に拘束されているようです。壁は金属質で、シンプルさを感じさせる一方で、格好良さも感じます。
そんな部屋の一角、私の正面のあたるところに、通路の入口らしきものがありました。
足音はそこからです。
「どうやら、来たようですね。私を捕まえた相手が」
……さて。予想どおりの顏(秤かイチョウ)が見えるはず………。
「って違う、誰ですか!?あなたは!?」
謎のガリガリのお爺さんが現れたではないですか。
随分と変な髪形をしています。モヒカンを眉間と首まで伸ばしたような感じで、顎に長いひげがあるせいか、横からの姿がどことなくPの文字に見えます(わざわざ体を九十度動かしてこちらに見せてきました)。
右手には先端にPの文字を模した装飾の着いた杖を持っています。吐いている靴もPの文字に見えなくもないです。………なんでしょうか、このP文字マニアは。
「……儂は点Pの先導者。儂が通った後には、飛翔する点P、掘削する点P、潜航する点P、襲撃する点P、爆発する点P、合体する点P……そして動き回る[炎帝]点Pが続く」
「なにをいってるんですかあなたは」
余りにも意味が分からなさ過ぎて真顔で言うほかありません。おまけに面白くないし。
「逃げるなら今の内じゃ。縦横無尽の点Pは容赦なく迫り、お主らを多いに苦しめるじゃろう………」
「私にはまったく意味が分からないという厳然たる事実を言っておきます」
半眼でお爺さんを見ながら私は言います。
「それならそれでよい。それもまた運命。悲しき人生の定めじゃ」
「はあ?」
「さらばじゃ。お主らが点Pの脅威から脱するのを願っておるよ…ほっほっほっほっほ」
そう言い残し、謎の点P仙人は私を通り越し、背後の暗闇へと消えていきました。
「………関数の話でもしたかったんでしょうか?……しかし、私、つくづく変な人と会いますね」
イチョウやあのドリル店員さんやら。
「……壁にP字型の、壁が開いているのは一体どういうことなのかしら…神様のための艦なのに………。…あら、なんで自動照明の魔法が発動して……」
「……ようやくお目当ての人が来ましたね」
何故かどこかやつれた様子の秤が、点P仙人が現れた通路から出てきます。
無駄極まりない脱線展開は終了です。
「……。秤」
私は光源に照らされて完全に浮かび上がった彼女を見て、ちょっと驚きました。
「なに……」
「なんですか、その悪魔のコスプレは」
怪訝な表情で言う私に、
「……か、神様のためよ。神様の送り込んだ彼が魔王軍とかいうからね、雰囲気づくり、よ……」
「は、はあ…」
秤は頭に黒ウサギのようなリボン(つけ耳?)を生やし、背中には紅の蝙蝠の羽、お尻には漆黒の尻尾を生やしています。彼女はやや身長が高いので、リボンは可愛さと言うよりエロさを強調しているような。そう言えば、格好も以前よりは開放的かつ、戦場的になってるし。悪魔っぽさはありますね。
「まぁ、それはそれとして。なんでそんなに疲れてるんですか?テンションも前より低いし」
大好きな神様のために動いている以上、趣味人であるのですから、仮に疲れていてもテンションは高いはずです。何か病気にかかっているようにも見えませんが…一体どうしたのでしょう。
「……そ、それは。いえ、それよりも……」
秤は額に脂汗を浮かべながらも呼吸を整え、そして。
「すまなかったわ」
「……え、はい?」
突如として頭を下げてきました。
「え、とそ、その……」
急に謝罪を受け、私は戸惑ってしまいます。
「あなたのこと、それなりに分かっているつもりなのに、散々勝手なことを言ってしまって」
「あ、はい……えと、私も期待させて裏切ってすみません」
私は秤の謝罪につられて、逃げ出しことについて謝ります。
「前に会った時、私はあなたが逃げたことに怒っていたわ。……けど……そもそも無理やり付き合わせようとした私が悪かった。そしてあなたが嫌な事して、ごめんなさい」
「は、はい……」
おぅ。少し遅い気こそしますが、こう素直に謝られた以上、許さないのは良くないと思います。
「い、いいですよ、もう。反省しているのなら」
戸惑いが残った状態で私は返します。
「ありがとう。無理やり付き合わせようとかは、しないから」
「そうですか」
おや、これは幸いです。どうやら、私に強制的に協力させるために、二人でストーキング行為をするのはやめる気のようですね。
何があったのかは知れませんが、非常に良い展開になってきましたね。
「…………ん?」
ちょっと待ってください。無理やり付き合わせないという事はつまるところ、私が拒否するゲーム破壊への協力はしなくてよい、ということになります。
ならば、私をこんな風に捕らえる必要がないはずです。
「………。秤、何故私を捕らえたのですか」
「………協力してほしいから」
ふむ。さすが趣味人。大事なことはそう簡単に妥協も諦めもしません。……ついしてしまった感心はともかく。
私は一先ずツッコみます。
「諦めたんじゃなかったんですか!?」
「……私、そんなこと言ったかしら?」
首を傾げる秤。
「た、確かに言ってませんが」
「補足すると、私があなたを捕まえたのは、話をする時間を確保するため」
「話?説得でもする気ですか?」
その言葉に秤は頷きます。
「ええ。さっき言った通り、無理やり協力させるのはやめる。だから言葉で説得することにしたわ」
「はぁ。分からなくはないですけど……。いや、だとしてもどうしてこんな今にも拷問でも始めそうな体勢にして、捕獲する必要が……?別の、もっと穏便なアプローチ方法があるでしょう?」
「え?話をするなら、捕まえた方が一番良いんじゃないの?」
「…………あなたって人は」
素で変なことを言う秤に私はため息をつきます。
彼女、普段興味なさげに対応していることをまともに対応していると思い込んでいたり、ときどきなんかずれているんですよね。他の、自分ルールを適用して好き勝手する、そこらの趣味人よりかマシですけど。
……まぁ、なんにしろ、彼女なりに反省をして、考えたんじゃないでしょうか。そうでなければ話の前に謝罪をいれることはないでしょう。
……だったら。
「……説得、ですか。まぁ、出来るモノなら、やってみてください。一応ちゃんと話は聞きますよ……まぁ、でもその前に」
「……?」
「一旦休みでもしてください」
息こそ整えてはっきり喋っていましたが、何度も肩を上下させていて、見るからに辛そうですからね。
休んでくれたほうがいいです。
「……そうするわ」
秤は小さくうなずいてそう言います。直後、秤は地面に崩れ落ち、静かに寝息を立て始めました。
「な、何があったというんですか」
休もうと思った瞬間に寝落ちするなんて、普通ではありませんよ。こんな状態で私への謝罪と説得をしようとしていたなんて。
一応ではなく、真面目に話を聞きましょうか。多少なりとも適当に聞くのも悪い気がしてきたので。
「…って急に拘束が!?」
秤が力尽きたからか、四肢の拘束が解け、私は頭から床に落下します。
「あ、いたた……」
私は暫く頭を抱えて蹲まっていました。
▽ー▽
「………う」
十分ほど経ったころ、秤はむくりと起き上がりました。
「……疲れが少し取れたわ」
寝る前よりは多少元気になったようですね。
「う、うぅぅん」
彼女は立ち上がり、背伸びをして後、頬をはたいて目をぱっちりと開けます。
「……よし。それじゃぁ、説得をするわ」
私を見て彼女は言います。
「分かりました。聞いてあげますよ、どうぞ」
私は頷き、彼女に手の平を向けて話の開始を促します。
「……ん?なんだか妙に積極的だけど…」
秤は急に乗り気な感じになった私に対し、怪訝な表情をします。
「気にしないでください」
「はあ。……まぁ、いいわ」
細かい所を追求できる余裕があるほど、彼女は回復したわけではないようです。
「……繰り返し言うけど、あなたには私たちに協力してほしいの」
その言葉から秤は説得を始めました。
「ここ最近、ゲームの規模は拡大している。あなたも何度か見たんじゃない?かぼちゃ頭とモンブラン頭の戦いを」
「……まあ。確実に、何かが起こっていますね」
認めざるを得ないでしょう。私が村で見たユニットは最初に秤に聞いた通りの特徴をもっていた。そしてそれらが、二つの勢力に分かれて抗争を行っているのを何度も目にした。
秤の言う通りに、戦争ゲームは現実に起こり、あの村のように幾度にもわたり、周囲に被害が出ている。それはもはや、疑いようのない事実なのです。
となれば、拒絶し、無関係でいることは不可能です。すでにそうではいられなくなっているのですから。
「前にも言った通り、私たちはゲームを壊す…この事態を解決するためにいるわ」
「ふむふむ」
「今まで、情報なしで、行き当たりばったりでやって来たけど、殆ど直接交戦はできず、あちこちに被害が出ているわ」
「そうなんですか?」
「………そして。ゲームの持続は、あなたのお仕事の邪魔になる」
「………!確かに」
今まではイチョウたちに巻き込まれることの方が迷惑で、それしか考えず、それにしか怒っていませんでした。しかし、実際にあちこちで被害が出ている。そしてそれは、不運な私にとって、配達時に災厄となって襲い掛かってくるに違いないでしょう。その先に待つのは、二度目どころではない完璧な配達の失敗です。
……う~ん。普段なら多少機嫌が悪くともすぐ気づけたはずですが、お仕事の事で怒ると、視野が狭くなりがちですね、私。
「…そして、ゲームはこのままだと長く続くわ」
「それは困りますね…」
いつかは終わるかもしれませんが、長続きするとなると放置は不味いかも。その期間中に、さすがに数個の依頼はあるでしょう。その時、あんな連中がいたままだと、やはり。
「……ね?困るでしょう?」
「……一理、ありますね」
「だったら、ここは私たちに協力して。少しの時間的拘束は我慢してゲームを破壊できれば、早く、安全にお仕事ができるようになるわ」
ふむふむ。私はいつだって完璧にお仕事をしたいと望んでいます。次こそはと思っています。あんな連中がいることによってまた失敗するのは、例え限られた回数であろうとも許せません。
しかも、今のままだとゲームは長期間と来ています。少しでも短く終わってくれないと、次のお仕事が来て、戦闘に巻き込まれてる羽目になり、失敗するかも。
「……今後のお仕事の成功率を上げるためにも、彼らにはいち早くいなくなってほしいでしょ?」
「そうですね」
本当に、秘策がありましたね。こういう攻め方をされるとなると、私に断る理由はほとんどなくなってしまいます。あるとすれば、やっぱり時間を拘束されるという点と、後はただのイチョウとかへの反発心ですね。
「……どうか、あなたに、頼むわ。私たちに……いえ、私に協力して。神様のために」
「………そうですねぇ」
断って逃げれば、また今回の様に囚われるなんてことも考えられます。それがお仕事の最中に起きるのは避けたい。
それならば、さっき考えたことも踏まえて、協力した方が私にとっては比較的いいですね。
理想を言うなら、秤たちが私を巻き込まずにとっとと問題を解決してくれればよいのですが…。まぁ、ゲームとやらは相当広範囲でやっているようですし、それは無理でしょうね。ここまで結果も出ていないようですし。
「……まぁ、仕方ないですか」
秤は私を説得する文言をわざわざ考えてきたようですし、結構真剣なご様子。
ここまでされて断るのも、ちょっと気が引けます。
……後、ついでではありますが、あの村みたいになるところを減らせる手伝いになるなら、それはそれでいいかもしれませんね。
それに、目が覚めてから暫くの間私の中に渦巻いていた怒りも、私の決定を後押しします。
「……と、いうことは?」
秤は期待と緊張を込めた視線を私に送ります。
「……依然、やりたくはないですがね。でも、協力しましょう」
なんやかんや言っても、基本はあくまで、した方がマシだから協力する、というだけです。なので、そこまでのやる気に慣れないのは当然です。
「十分よ」
秤は安心した様子で、胸をなでおろしました。
「そうですか」
彼女の様子を見て私が言います。
と。
「説得に成功したか。当然だな。神様から指名を受けた正義の魔王の下につかないなど悪の所業。そんな勝手は許されない。お前の勝手もここまでだったな!ハァッハッハッハッハッハッハッハ!」
私は声のする方を向き、
「………言っときますけど、私はあなたの下にはつかないですよ………………この野糞野郎」
と、最後に悪口を付け加えつつ言います。
「何?勝手なことを言うな」
そんな応答とともに、秤が現れた通路から、黒ずくめの男……イチョウが現れます。
「……あら、盗み聞き、して、たの?」
彼を見た瞬間、疲れが増したのか知りませんが、さっきより力なく秤は言う。
「主である僕様には、新たな下僕が加わるところを見る権利がある」
「何を言ってるんですか、あなたは。ふざけたことを抜かすのも大概にしてください」
なんか見ただけでも嫌に思いましたが、言葉を聞くと苛立ちが湧いてきた私です。
「ふざけてないわ!僕様はいたって真面目に、そして当然のことを言っているだけだ!」
イチョウは私に指をビシリと向けて言います。
「……アホらしいです」
他人を下に見るのもいい加減にした方が良いです。
「私はあくまで協力をするだけです。盗み聞きしてたなら、分かりますよね?」
「僕様たちに協力するとは即ち、僕様の配下になるってことだ!」
「理論もクソもないですね……」
イチョウと話していると、無性にイラつきますね。
しょっちゅう勝手だのなんだのと言ってくるからですね、多分。
「……ま、それはそれとして」
私は一応、秤たちの仲間たちになったわけです。なら、一刻も早く自由になるためにも、いち早く事態を収拾する必要があります。となれば、まずはこれからどうするかを、秤に、聞きましょう。
「秤、それでこれからどうするんですか?あなたたちが今までどうしていたのかは知りませんが、ゲームを壊すんですよね?」
「ええ。実際、そのためにあちこち回ってユニットを潰していたわ……ま、見つけようがないから、行き当たりばっかりだったし、そんなにやれてないけどね」
「……やはり、アデュプスの情報が必要だという事ですね」
頷く秤。
「分かりました。後で話を通しておきましょう」
▽ー▽
彼は、唯一の不確定要素。ならば、排除した方がいい。
そのように言われたことに彼は、今までいた場所を発つ。そこは鉄壁の拠点である要塞、Kユニットだ。相当な耐久値を誇り、専用の防衛ユニットを持つその場所は、撃破されれば負けが確定するAユニットを守る最強の盾となりうる。
だが、将軍はそれを一時的にせよ放棄して、あるものを叩き潰しに行けというのだ。撃破すべき対象は、ゲームを単調にしないがためにゲームマスターによって投入されたらしいもの。
「何故そこで10ユニットを使おうと思わない」
そのユニットを使えば、両軍に対する邪魔者を自軍戦力にし得るというのに。
彼はそのように考える。くだらないゲームのユニットの役割を設定されている故に。
「将軍のためには、独自の行動も必要か。…だが今は命令どおりにしようか」
呟いたAユニットは、Kユニット内部に設置された情報収集ユニット、Qユニットにて得られた情報をもとに、ある場所へと向かう。
「場合によっては、大規模攻撃で確実に倒す。単騎で、か」
彼は空を飛ぶ。彼も敵軍の指揮官の彼女と同じように、あくまでゲームの、プレイヤーの勝利のために。
▽―▽
『クロノユキ。聞こえてる?だよ?』
突如、アデュプスの声がしました。
驚いた私はポケベルモドキを取り出します。
「急にどうしたんです、アデュプス?お仕事のお話ですか?……なら」
『申し訳ないけど、違う。もうすぐあれが来るから、気を付けて。そういう忠告。だよ?』
「あれ?」
私は怪訝な顔をします。
その瞬間でした。とても大きな、ひびが入るような音が鳴り響いてきたのです。
『!?』
全員が動きを止め、天井に目を向けます。
ぼんやりと浮かび上がるそこには、確かにヒビが入っていました。
それを全員が確認した直後、天井が崩れる様子を見とめた時には、そうなるどころか蒸発。それと同時に爆発が起こり、私たちは空間の端に吹き飛ばされます。
「なぁ!?」
降り注ぐ瓦礫群。
秤は咄嗟に魔法で態勢を立て直し、瓦礫を魔法の鞭で弾きつつ、華麗に着地します。
一方の私は無様に地面を転がります。鎧のおかげでたいした怪我はしていません。よかった……いや、よくはないです。格好悪いし。
ちなみに秤が飛んできた瓦礫を鞭で弾いてくれました。
イチョウは通路の方に吹っ飛ばされて行って姿が見えませんね。
「これがジョーカーの要塞か」
天井の穴から光が射します。それは穴の直下に立つ男の姿を私に見せつけました。
「…あなたは」
男は長身で、髪が長く、体には銃身の長い銃や溶断機能が付いていそうな剣が付いており、腰に戦闘機のような翼とエンジンを持っています。体そのものを覆うのは、真っ黒なボディスーツでした。
「明らかに失策だとは思うのだが……。プレイヤーの指令コマンドだ。仕方がない…」
よく聞こえませんが、なんかブツブツ言ってます。
「……さて。指令コマンドを出された以上、始めなければ」
彼は目の前の瓦礫を踏みつけ、私たちを見て言い放ちました。
「ここにいるジョーカーを出せ。さもなくば、殺す」
「え」
「ゲームの邪魔をしてはならない、NPCノンプレイヤーキャラクター」
その口調は、機械のよう。与えられた役割の是非も、意味も問わず実行するそれのようでした。
▽ー▽
『……命の危機には良い反応が見られる』
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