[第二章:戯言のはずの現実]その1
「中々止みませんね、雨」
メカテントウムシから降りた私が今いるのは、自然多めの名無しの村です。昔は人の町だったようで、周囲に生える木々や草に囲まれた、廃棄された線路や電柱などがちらちら見えます。
それを直す趣味人はいないようで、苔むしたりして風情を醸し出しており、色々な生物の隅かになっています。妖精もいますね。
村の規模はそこまで大きくはないようで、住人は喋れる動物や虫です。後、擬人化属種で計十数人の様子。
この世界、野生の動植物がいる一方で、高い知能を持って意思疎通できる、いわば非野生の動植物が一定数いるんです。基本的に、人間や妖精と仲良くしてますよ。…多分。
「あの、すいません。ここって防具屋……いえ、服屋でもいいですけど、ありますか?」
防具屋なんて中世っぽいものも、勿論存在します(趣味人製)。
「へへい?あるんじゃない?あそこに」
たまたま近くの木の下で雨宿りをしていたコオロギの擬人化属種の少年は、少し遠くに見える巨大樹の一部を抉って作られた店を指差します。
私は、倒れて中身が腐った大木の中から頭を下げます。
「ありがとうございます。後で行きますね」
擬人化属種とは、自然にはいなかった人たちです。元は人類が衰退する前に愛玩用につくられた知能低めの生物だったそうで(人権はなかったようです)。その後、人類が衰退してから、どこかの趣味人が知能が比較的高い擬人化属種をつくり(倫理的な話は置いておきましょう)、野に放ち、その二種の間で交配が徐々に進んでいった結果、人間ぐらいの知能の擬人化属種が出来上がったらしいです。ただ、擬人化である都合上、手に肉球やらがついていたり、指がなかったりします。それが原因で人間の道具の類は上手く扱えないし、作れずにいるようです。
「あなた、だ~れ?」
「私はクロノユキですよ、お仲間さん」
私は、顔の近くにやってきた小さな妖精と戯れます。
妖精と言うのは自然発生する生物で、空腹が極限に達すれば透けていって最後には消えてしまうという特性を持ちます。私もそうです。
ただ、それだけなら変な生き物ですが、ここからが重要です。妖精と言うのは同じ質量のものをあげることで、それを代価に望むものを造れるのです。活動エネルギーを作る植物より凄いですよ?光合成は出来ませんけど。
そんな感じで随分都合の良い性質の私たちですが、原点は人間たちが利用するためと言う話もあります……。ただの道具だった可能性あり、ということです。
「……そろそろお腹空いてきましたね」
「だね~」
なにせ、朝から何にも食べておらず、時間的には昼過ぎぐらい。空腹は当然です。
「なら。御代金様、出てきてくださ~い」
そう言って私が手を合わせると、左肩に木の板と釘でつくられたガチャポンのような箱が出てきます。色合いからしてくたびれており、カプセル出口は何の飾り気もないです。
これは妖精の物質生成の機能を担当する器官です。こんな明らかに人工物のものが付いている以上、私たちが人間お手製だという話は、あながち嘘とも言い切れないんですよね。
「そうですねぇ、大学芋を下さい。…あ、あなたは何か食べるんですか?溜めてるエネルギーは余裕ありますし、あなたぐらいのサイズなら何でもいいですよ」
「そう~?ならキャビアくだちゃい」
「な、なぜに世界三大珍味……ま、まぁいいですけど」
私は手を伸ばしてありったけの土を握って肩の箱に無理やり入れます。そして御代金様の真ん中についているレバーを回転させると、コロンと言う音共に白いカプセルが二つ落ちてきました。
それらを取り出し、一つを仲間にあげ、もう一つを持って近くの壁に何回かぶつけます。すると卵の様にひびが入り、中から大学芋が顔を出てきました。
「いやぁ、しゅはらしぃへすへぇ」
大学芋を頬張りながら私は言います。
一方、仲間は、
「みがつぶれて~、生まれられなかったいのちをこなごなにするの~、かんしょくさいこ~。こんどれいする~」
なんて言っています。…いや前半の内容。この子はサイコパスか何かですか。
「おいしいですね~」
ちなみに、御代金様は体の一部のようなのですが、私はそれを使って食べ物を造る事しかできません。残念ながら。
………でもまぁ、私はお仕事の事しか基本的に興味にないので、あまり気にしてませんね。飯時以外に使う機械なんてないですし。それに気にしても、お仕事の益には残念ながらなってくれないので。
「う~ん、美味しかったですね。厄日は好物を食べ、不幸はそれはそれ、と言って忘れるに限ります」
お、言っていると丁度雨が弱まってきました。近くに目的の店まで連なっている木々があります。今ぐらいの雨足なら、濡れずに行けそうですね。
「すみません、私あっちのお店に行きたいので」
「しがいをかみくだくのってたのしいなぁ~」
怖っ!なんか楽しそうにキャビアをかみ砕いているので、邪魔しちゃ悪そうですね。彼女のことはおいておいて店の方に行きましょう。
私は大木を這い出て木々の舌を足早に進み、店に辿り着きます。
立ち上がって体の汚れを払って落とし、中へ。
「こんにちはー」
扉を開けて挨拶をすると、肩やひざなど、体中に木彫りのドリルをつけた店員さんがいました。
「ギュィィィィらっしゃいぃぃぃぃぃ!!ドリルな僕の店にようこそ」
「どういう出迎え方ですか!?後恰好!」
あまりに強烈なお出迎え、ツッコまずにはいられません。
「…ああ、これ?」
彼女は自分の格好を見て、
「面白さ重視のためですギュィィィィィィィィィィ。この姿で腕組して仁王立ちすると格好よく決まるのです」
「なんと。格好良さ!それはいいですね!」
店の中は木の中のためか、木を壁、床、天井にした、暖かい感じのある店です。
見れば、兜とかもあるようですね。やったー。朝の事のせいで兜が割れそうですからね。変えておかなければ。
「それで、何をお探しィィィィン?」
「…あの、その回転音みたいな語尾は何とかならないのですか…」
「そ、それはダメェェェェェェン!そうすると僕の頭の回転も止まるのです」
「何言ってんですか」
「ドリルの化身の言葉ですギュィィィィン」
「……まぁ、いいです。兜とか、そう簡単に外れない被り物が欲しいんですけど」
さてさて。手持ちはそんなに多くないですが、買い物を楽しみましょう(趣味人の店はタクシーと同じように物々交換か貨幣で取引です)。
「兜……。まぁ、被りものなら幾つかありますけどォォォォォォォン」
防具はないのかも。さっき聞いた時も防具屋とは言ってはいませんでしたね。まぁ、取れにくいという条件さえ満たしていればいいです。
「じゃぁ、全部見せてくれませんか?」
店員さんは頷き、
「少し待っていてくださいィィン!」
肩のドリルを手動でコキコキと何故か必死に回しながら(なんか可愛い)、店員さんはカウンターの後ろの扉を開け、奥の階段を昇ってきました。上の階に倉庫でもあるんでしょう。
私は入り口近くにあった木の椅子に座ります。
「……」
さて。暫く暇になりました。お仕事の依頼もなく、考えることがありません。なんとなく視線をさ迷わせていると、壁にかかった売り物のコートに目が留まります。
「神様コートドリルカスタム…なにこれ」
強烈なセンスです。……それにしても。
「…神様、ねぇ」
ふと秤たちの神様話を思い出して呟く私。
もしも本当にいた場合、私をこんな運命にしたことに文句の一つでも言いたいものです。しょっちゅう不幸に見舞われたり、包装も含めて無事に配達物をお届けできないこととか(しょっちゅうその回避の策を打つのは疲れました)。
「しかし、いないとして。秤たちにゲームの話を吹き込んだのはいったい誰なのでしょうか」
どこかの趣味人が始めたのでしょうか、それこそ迷惑なゲームを。
「そっちの方が現実味がありますね。……まぁ、それはそれとして。被り物って何があるんでしょう?」
楽しみですね。店を出た私はどんな風になるんでしょう。頭の装飾が変わるだけでも印象は変化するものです。もしかしたら、恰好だけでも恰好良い配達員になれるかも。
「お待たせしましたァァァァァァァァァァァァン!結構数がありましてェェェェ」
「……暑苦しいです」
ギュンギュンと、店員さんの全身のドリルが音を立てているので。
…ま、それはそれとして。大きな木箱を二つ詰んで店員さんが下りてきました。中には色々な被り物が見えます。防止とかカチューシャとかドリル型のヘルメットとか。……え、最後のは何ですか、これ。どうやらドリル回転機能付きの様ですけど。
「早速見させてもらいますね」
まぁ何にしろ、素晴らしい商品の数々ですね。多分全部手つくりでしょう。何だか温かみを感じるので。
「さぁてとどれから………」
と、立ち上がって木箱の所に行った私が、嬉しさで手を合わせた瞬間でした。
何一切の前触れなく、大きな爆発音が発生。同時に、大地が大きく揺れます。
『………な、なんでしょうか』
何か異常事態が発生したのでしょうか。私たちは何事かと店の窓から外の様子を伺います。
「あれは………」
見れば店の外、少し離れた森の一角で煙が濛々と上がり、空からはいくつかの人影が落下してきています。
「なん、でしょうか………」
よく見れば、落下し、地面と接触すると同時に砕けて消えるそれらは、ハロウィンのかぼちゃ頭をしていました。中には、モンブランのような頭の奴もいます。こんなのが大量落下してくるなんて……ギャグか何かでしょうか?…いえ、実際に爆発なんて起こっている以上、ギャグで片付けられることではないでしょう。むしろ不味い事態が起こった気がします。
「……あれは」
私たちがなんとなしに、落ちてゆくかぼちゃ頭たちを見ていると、その奥、森の中から何かが姿を見せ始めました。
「……兵士?」
そう表現するのが最も適当でしょう。徐々に周囲に煙に満ちていく森の木々を通り過ぎ、現れた彼らは各々武器を持っています。それは弓であったり、槍であったり、パイルバンカーであったりと様々です。
「……杭打機とは、浪漫の分かっている連中ですねぇぇぇぇ!」
琴線に触れたのか、店員は興奮した様子で言いつつ、同意を求めるように私に視線を送ってきます。
「ああ、はい」
とにかく、様々な武装を持ったかぼちゃ頭の集団が、綺麗に隊列を組んで進んできています。その動きは非常に統制がとれていますが、妙に機械的な感じもありますね。
「しかし、なんですかね、あの体」
頭もそうですが、連中の胴体は、ケーキのスポンジ部分のような、変な見た目をしています。そのせいで、微妙に緊張感が抜けるというか。
そういえば、かなり最近にどこかで同じような特徴の連中の話を聞いた気が、しないでもないかも。
「……彼らは一体。店員さん、少し様子を伺いましょう」
私はいつの間にやら気持ちが昂ってその場で回転している彼女を宥めます。
「………………なんなんでしょうかね」
と、かぼちゃ頭の集団の様子を伺う私の肩を、店員さんがつつきます。
「…な、あれはなんでしょうぉぉぉぉぉん!?」
「はい?」
彼女の声で、私はかぼちゃたちと逆の方向を見ます。するとそこには、同じような兵士の集団が続々姿を見せ始めていました。多種多様な武器を持ち、隊列を乱さずに動く彼らが違うのは、その頭部形状のみ。彼らは、モンブランのような頭を持っているのです。
「これは………」
頭部のみが違う二つの大規模な兵隊。彼らは村の真ん中で停止し、お互いを見ます。
そして、ハンドガンや弓を持っている者たちが一斉に構え、それを合図に………戦いが始まりました。
『!?』
降り注ぐ弓や銃弾の豪雨。宙を舞うそれらは見事に相手に命中し、時には即刻砕け散らせる一方で、幾つかは槍などを持つ者たちに防がれます。
ある程度射撃戦をやったところで、双方の軍から何人かが四人一組になって離脱。残りの者達は近接武器を構えて突撃をし、射撃武器持ちは後方に下がっていきます。
「一体、何が起こっていると………おっ!?」
弾き飛ばされた槍が飛んできて、ガラス窓を粉砕。それに直前で気づいた私たちは慌てて窓から離れ、床を転がります。
粉砕されたガラスはキンキンと鋭い音を立てて床に転がり、槍は壁に突き刺さります。
「……こ、怖すぎ……」
私たちは恐る恐る外に視点を戻します。今みたいなことを恐れ、這いつくばった状態で頭を少しだけ出して、です。
外では戦闘音のせいで様子を見に来た村人が逃げたり隠れたりする中、二つの軍が戦闘を繰り広げています。最も数の多い主力が接近戦で戦い、それを射撃部隊が支援。時には遊撃部隊が奇襲を仕掛け、敵軍の体勢を崩そうとします。
そしてどうやら、私たちが見ているのは戦闘のごく一部に過ぎないようで、時には遠くで、時には近くで爆発が起き、その度に爆音とともにかぼちゃ頭やモンブラン頭が吹き飛んで宙を舞います。
さらには、耳を澄まさずとも、あちこちから響く銃撃や剣戟の音を聞くことができます。
………つい先ほどまでは平和な村だったここは、既に危険極まりない戦場と化しているのです。
「お前たちは、なんなのでぁぁぁぁ!?」
狐の擬人化属種の男性が勇敢にも文句を言いますが、兵士たちは反応しません。怒った彼が突っ込んでいくと、一部が機械的な動作で彼の方を向き、一切の容赦なく攻撃を加えます。
「あ、危ないぃ!?」
男性は慌てて四足歩行でその場から逃げます。
兵士たちはそのことに構いもせず、敵軍との戦闘を続行。
周囲の家が銃弾を受けて砕け、木々がへし折れるなど、周辺被害は広がるばかりです。
「………一体何なのですか……」
「迷惑な話ですぎゅぃぃぃぃん」
さっきからゴロゴロ転がりながら時折来る流れ弾や飛んでくる武器を回避している私たち。
二人とも落ち着いているのは、両方ともこういう突発的な事態に慣れている証拠です。
趣味人ともなれば、趣味のために(作品のための素材集めや実地での情報集など)危険なこともたくさんする傾向があるようなので、店員さんが比較的冷静なのも、そう不思議でもないですね。
……いつのまにか彼女が大きなドリルに変貌して回避行動を続けていますが、ツッコんでいる場合ではありません。
「……しかし、なにか状況を打開する方法は…」
「このままじゃいつ弾が当たってしまうやらぁぁぁぁん…」
私たちが様子を伺っている間に攻撃の応酬によって視界内の兵士の数がかなり減りました。それに従って流れ弾の数も大幅減少です。
ですが、まだこの店を出るのは危険です。戦闘は全方位、極めて広範囲で行われているようなので、外はどこから弾が飛んでくるかわかりませんからね。なら、いつ収まるのかはわかりませんが、このまま待っていた方がまだ安全ですね。迂闊に動くのは得策とは言えないです。
…と、私が考えていたその時。
「あ」
「え?」
それは、今までと同じ、タダの流れ弾でした。違ったのはたった一つ。そうたった一つ。当たったのが壁ではなく………カウンター上に置かれた木箱に入った、あのドリル型のヘルメットだったことでした。
「………………ぶっ殺しィィィィィィィィィ!!」
「え」
見れば、銃弾を受けたヘルメットの上部が銃弾を受けて折れていました。それを理解した店員の人は、どうやら頭の中で何かがプツンと切れたようです。
いきなり窓ガラスの残っていた部分をぶち破り、ロケットの様に勢いよく戦場に飛び出していったのです。ドリル型なので余計それっぽい見た目です。
「ちょっとぉ!?」
「よくも自信作をぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!」
あ、そういうことですか。趣味人は自分の作品は大事にするものです。勝手に壊されたら怒るのは不思議な事ではありません。さらにそれが自信作ともなれば、激怒は間違いなしでしょう。
「って冷静に分析している場合ですか!」
しかし、私自身の手で出来ることはないです。体は柔だし、動きは普通、攻撃なんてもっての他。
「……くっ」
言ってる間に店員さんは、空気を貫くように裂き、銃を撃っているモンブラン頭に突き刺さり、高速回転を始めました。
あ、他の連中が狙いを……!不味い。あのドリル形態がいかほどの耐久力を持っているか知りませんが、今まで流れ弾から逃げる姿勢は変えていなかった以上、防弾性能はないはず。なら多分刃をはじくこともできないでしょう。これは……。
「く、こうなれば………」
私は素早く懐からポケベルの形をした通信機を取り出し、言います。
「アデュプス!悪いですが、空から一射を!」
『……。どうしても必要?なの?』
通信機越しに、可愛らしい声が聞こえます。
その声の主(私の友達)に迷惑をかけた上、機嫌を損ねさせかねないので、この手はあまり使いたくなかったのですが……。そんなことを言っている場合でもないようですし。
「……すみません。しかし、状況が状況なんです。あなたも見ているでしょう?さすがに店員さんを見殺しにするのは気が引けます」
言っている間に、店員さんは兵士たちに囲まれ、攻撃を受けています。今は回避したりしていますが。
「……このままでは私もいつ殺られるかわかりません。どうか」
『………見れないなんて……ううん、仕方ない。分かった。だよ?……十分反応は見たし』
「ありがとうございます」
相手の最後の呟きに気づかない私はポケベルをしまい、息を思い切り吸い込みます。そして………。
「………村人の皆さん!もしいるなら目を閉じてください、店員さんもぉぉぉ!!絶対ですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
喉が枯れるぐらいの声で言います。その際、既に店員さんドリルは連中にタコ殴りにされかけていましたが、私の言葉に反応したのか、相手の攻撃とは関係なしに身をよじります。
それが私の声を聞いてくれたくれた証拠だと信じましょう。
私は店のカウンター裏に急いで回り、思い切り目を瞑ります。
「今です、いっちゃって!」
その直後。
『……!?』
雨のために分厚い雲に包まれていた空。その一部が裂け、雲が消えうせ、さらに上の空から太い光の一射。それは姿を現したと同時に地上の兵士たちに直撃しました。
『…………』
「……よし」
私はカウンター裏から頭を出し、外の様子を伺ってから、店員さんの元に駆け寄ります。
「……だ、大丈夫ですか?」
「………ギュィィィィン……あれ、穿つ相手は?」
抱き上げたところでドリル形態が解けて元に戻った店員さんは、若干混乱した様子で言います。
「穿つって……中々珍しい攻撃方法ですね」
「ドリルは基本だぁぁぁぁぁぁん!!」
「あ、そ、そうですか」
と適当に応答する私をよそに、店員さんは周囲を見まわします。
「?死んでる?」
彼女は近くに黒ずんだ状態で動かなくなったかぼちゃ頭たちを見て首を傾げます。そのいくつかは既に砕けて消えていました。
…こいつら、生き物でも機械でもなさそうですね。どうせ趣味人の手による妙ちきりんな存在だと思います。
「あ、いえ。強いショックで気絶しているだけなので、時期復活しますよ。といっても、半日ぐらいは動けないと思います」
不思議そうにしている店員さんに説明をする私。
「……もしや、あなたがやったのぉぉぉぉぉん!?もしや、魔法使いですかぁぁん?」
立ち上がった店員さんが言ってきます。
「いえ、私がやったわけじゃ……それに魔法じゃないどころか、めっちゃ科学寄りですよ、多分」
「?」
またもや首を傾げる店員さん。
「まぁ、それはいいとして。近くのはあらかた気絶していると思います。今のうちに逃げましょう」
「……それは無理だすぅぅぅぅぅ。僕の大切な工房兼店舗を捨てるわけにはいかないのでぇぇぇぇぇ」
「……放って置いたら、じきに全部復活して襲ってくるかもですよ?」
さっき撃ってもらったのは、村人が巻き込まれた場合も考えての、無力化の光線ですから。
「……問題ない。その前に全部穿って仕返してやるんですからねぇぇぇぇん!」
「………そうですか。まぁ、ほどほどしておいてくださいね」
趣味人は誰しもが、趣味物を守ると言ったら、譲らないものですからね。
私は店員さんにお別れを言ってその場を後にしようとします。
すると、店員さんは店の方に行き、木箱の中を漁って、一つの被り物と槍のような物を持ってきました。
「なんにしろ、あなたのおかげで助かったっぽいのでェェェェン。お礼です、受け取ってください」
「こ、これはどうも」
私の力ではないのですが……、いえ交友の力も自分の力と言えるでしょうか。
「……な、なんですこれ」
私は腕の中を見ます。
先端が螺旋形を描いている純白の槍と、謎のスイッチとカバーが付いている白い兜。
「ドリルランスとミサイル兜ですゥゥゥゥン」
「……ミサイル兜?」
頭からミサイルが出るんですかね?
彼女の話によると、私が危険を感じると、それを感じた対象に向かって、勝手に発射される模様。便利ですね~。
「ミサイルを打ち尽くしたら小物入れとして使えるのでェェェェン!槍も付属の説明書通りに変形合体させれば同じように!ドリルランスは頑張って回せば、何でも一瞬にして穿つ!」
店員さんは槍の持ち手の近くにある、円にハンドルがついたもの指して言います。これを手動で回転させることで、威力を発揮するという事ですかね?…電動でもいい気もします。こんな面倒な事しなくても。
「ま、まぁ、ありがたく使わせてもらいます」
さっき転がったことで、今の兜は何度か床に打ち付けられて限界を迎えていますし。
というわけで私は早速装備し、取り外したところで四つぐらいに割れた兜を素材として買い取ってもらいました。……どうやら新たな衣類の素材にしたいようです。壊れた兜で何を造るのやら。
「………ここまでは、戦闘が及んでいないようですね」
その後私は村を離れ、少し距離のある丘の上にいました。兵士たちの復活前に逃げられたようで、幸い怪我はしませんでした。
「……しかし、ひどいです」
丘から村を見下ろした私は呟きます。
広がる森の木々はいくつも折れ、砕け、消滅しており、あちこちに焦げた跡が残っています。いつのまにか雨が降ってきていた(今はやみました)おかげで、爆発によって火事にならなかったのが救いですね。
村は壊滅しており、住人は逃げたようですが、建物は全て大破。自然に囲まれた幻想的な雰囲気は見る影もありません。
「………とてつもなく、迷惑ですね……」
私は村を後にすることにしました。後々、店員さんが生きているのは分かったので、それはよかったです。
「……さて。分かったか、お前。ゲームが現実に起きていることを」
「なんですと?」
しばらく歩いた私が後ろを見ると、イチョウと秤が立っていました。
「………まさかと思いますが、私を追ってきたんじゃ、ないですよね?」
「半分正解。そして当たり前よ。あなたがいた方が良いから」
なんだか怒った様子で秤が言います。そりゃそうですよね。協力すると見せかけて逃げたんですもん。
「僕様はユニットの殲滅に言ってくるからな、お前はその自分勝手野郎をきっちり服従させておけ!」
イチョウはそう言ってその場を離れます。
私は勝手と言ってくる彼にカチンと来ましたが、何故か秤も苛立ったのか、少し彼を睨んだ様子がありました。
その後、彼女は私のほうに視線を戻し、
「…私たちは神様のために動かなきゃいけない。そのためにはあなたの力が必要なの。あなたのことだから、妄言に付き合っていられないとは思うでしょう。けどゲームは現実に起こっているわ。あのかぼちゃとモンブランを見たでしょう?」
……ああ、思い出しましたよ。かぼちゃ頭やモンブラン頭。最初にかぼちゃ頭たちと遭遇したときに感じた感覚の正体が。私がイチョウと出会い、秤からゲームの話を詳しく聞き、深夜に逃げ出した日のことです。
その時の話によれば、ゲームにおけるA軍はかぼちゃ頭、B軍はモンブラン頭。人型のものは武装ごとに全十種。ということらしいです。確かに、見ることができた武装はそれぐらいありましたし、見た目の特徴は秤の話に合致していました。
「さぁ。いいから手伝って、絶対に」
一応裏切られたせいなのか、秤はいつになく視線を鋭くして近づいてきつつ、語尾を強くして言います。
しかし、私は押し切られるわけにはいきません。秤やイチョウの話に少なからず説得力が出ようとも。
「あの戦闘は、どこかの趣味人が起こしたことかもしれませんよね?ゲームとやらが行われている証拠にはなりません。仮にゲームが行われていたとしても、数日程度ならともかく、いつ終わるかもわからないことには、厚意で付き合う事なんてできませんよ。分かっているでしょう?」
秤は、私の嫌なことぐらい分かっています。それでもその嫌なことをしつこく要求してしまうのは、大事な一つのことに執着する趣味人の性でしょうね。
「神様の言ったことよ。……そのためには、付き合ってもらわないと、困るのよ!」
「勝手なこと、言わないでください!」
私はそう言い、走ってその場を後にします。雰囲気は険悪そのものでした。
「……。…ちょっと!」
逃走する私を非難するかのように秤は言いましたが、何故かそれ以上何もせず、私は逃げ切る事が出来ました。
▽ー▽
「……イラつきますが……いえ、忘れましょう。…そう、それはそれとして」
秤の勝手な主張にムカついていた私ですが、彼女と完全に距離を取った今、ずっと苛立っていても仕方ないので、意識を切り替えることにしていました。
「……さて。嫌なことに巻き込まれましたが、それはそれとして今日はどこで寝ましょうか?昨日みたいな感じでもいいですが…」
私は、日が暮れてきたこともあって、夜を越せる場所を探して歩き回ります。
しかし、です。
「な、なんですか一体!?」
ちょうど良さそうな洞穴や洞窟、廃墟、セーフハウス、怪しい山の旅館などが見つかると、必ずと言っていい程、あの連中に遭遇したのです。
「こんなあちこちで小競り合いをしているなんて…………!」
あの兵士たちはあちこちで小規模な戦闘を起こしていました。
村で遭遇したような大規模戦闘はなく、双方合わせて二桁に満たない数の兵士が戦っているのがほとんどでした。…が、それでも巻き込まれたら厄介極まりない。せっかく見つけた場所を諦めて逃げ、別の場所を探すと言ったことを何度もする羽目になったのでした。
……中には、たまたま戦場のど真ん中に入ってしまうと言ったこともあったのですが、ここであの店員さんが暮れたミサイル兜のおかげで切り抜けましたよ(残弾はもうないです)。
ちなみに、ドリルランスは振るう余裕すらない時ばかりだったので、今の所役立ってはいません。ですが、ミサイル兜が役に立ったこともあるし、折角厚意でもらったので、まだ持っていました。
「……深夜になる前に見つけられてよかった」
そんなこんなで不幸に見舞われていた私ですが、幸い、野生の戦車の中に一晩泊めてもらえました。
「いや、野生の戦車って何ですか」
どこの誰ですか、こんなの作って野に放ったの。
「まぁ、少し揺れますが、寝床の確保できたし、いいでしょう」
夜も更けてきたので、寝ることにします。何かと今日は疲れましたからね。
「おやすみなさい、戦車さん」
彼または彼女は履帯で地面を進む振動で答えました。
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