[第一章:迷惑を裁く迷惑]その1
趣味に生きる人間たちや知能ある非野生の動物たちの他様々。そんな彼らが好き勝手に、そして適当に生きるのがこの世界である。
しかし、そんなところに生きる彼らにだって日々の生活があるのだ。………そして、それを脅かすことが起き始めていた。
「ふふ」
その理由は…。
▽ー▽
「ひどいですよ、最悪ですよ。今度こそ、今度こそ……完璧にできると思ったのに。どうして、どうしてと私は叫びたいです」
「ふ~ん」
泣いている私は、吹き抜けとなっている教会の二階スペースで彼女と机を囲んでいました。
その彼女とは、勿論秤です。
神官服か巫女服なのかよくわからない格好の彼女は私の叫び声を聞き、出てきて中に入れてくれたのです。
…ああ、しかし。
「すみません、秤。今度は中身もいくつか潰れたかもしれません……うぅ、落ちてこなければ……ちゃんと届けられたのに……」
「ふ~ん。別に味は変わらないし、粉砕クッキーも珍しさがあっていいけどね」
嘆く私とは正反対に、彼女は興味なさそうな感じでそう言い、潰れたクッキー片を喉に流し込み、コップに注がれた牛乳と一緒に味わっています。
「………美味しい、ですか?」
「そうね。朝に食べるには最高だわ」
秤の口もとが僅かに緩みます。彼女は無表情と言うわけではないのですが、普段はあまり表情が動きません。…が、大好きなお菓子を食べた時はこうして頬を緩めるのです。
それと、あることに関わる話題が出た時には、興奮しますね。
「ありがと。配達頼んでよかったわ。あなたは届けることだけ、は確実にやってくれるし。あなた以外だと、辿り着くことすら難しいからね」
と、外の景色を見ながら、秤は相変わらずどこか興味なさそうに言います。
別に感謝の念がないわけではなく、むしろ十分に感謝してくれていると分かっているので、それは普通にうれしいです。
「いや、辿り着けないのは、あなたがしょっちゅう長距離を移動しているからだと思いますけど」
「それは仕方がないわ。私は神様との交信の使命があるからね」
「はぁ。…まぁ、いっか」
別にお菓子について問題とは感じていないようなので切り替えましょう。
今回は中身を無事に届けるのはかないませんでしたが、まぁ、それはそれとして。
次回こそ成し遂げられるように頑張ることにしてと。
「ところで、秤。これ、いったい何なのか分かります?」
「ふぅん?」
彼女は目だけを動かし、私が指さす机のものを見ます。
例の落下物です。変な形のベルトですね。
正面に来るであろう部分には、楕円形の枠の上に角張った装飾やレバーが付けられています。そしてその中心には、これ見よがしな四角い空白が。何かセットでもしろということでしょうか。
「どこかの趣味人が作ったものじゃない?」
「……かもしれませんね」
趣味人とは、この世界に残る人間全員の事を指し、秤もその一人です。
人間はかつて、高度な文明を誇り、世界の覇権を握っていたらしいですが、発展し過ぎてなんかほぼ自滅のようなことをしたらしいです。いわく、あまりに便利過ぎる道具に頼りすぎて自分ですることがついには何もなくなり、やる気を向けるモノがなくなり、無気力が広がっていったとか。それが急速に拡大した結果、生きる活力や時代に繋げる生物の本能さえほとんど失い、どんどん減っていったらしいです。
そして最終的に残ったのは、強烈な趣味人ばかりでした。彼らは無気力な他者と違い、便利に過ぎる道具にはあまり頼らず、頼り切らず、没頭するものを持っていて、かつそこにかける熱意があまりに強かったからのようです。
そのせいか知りませんけど、人格の癖が凄いです(秤はましな方ですけど)。
「これみよがしな穴が開いてますね」
私はベルトの中心にある窪みを指します。
「そうね」
「ここに収まるものを入れたら、何か起こるのかもしれませんが…」
「どうしたの?」
言葉を濁した私に興味なさそうに、本当は興味ありの秤が聞いてきます。
「…これが趣味人の作品だった場合、何が起こるか」
趣味人は自身の衝動やら妄想でとんでもない作品をつくるものです。例えば、巨大メカが好きな人が、合体するだけで世界を滅ぼすロボットをつくったりします。
例え目の前のものの見た目がただのベルトであっても、起動したらとんでもない災難が降りかかる可能性が十二分にあるのです。
「ふ~ん。そうしたら……」
「ええ、私のお仕事に支障が出ます」
「……身の危険が及ぶじゃないのね」
「それもそうですが、それよりも、です」
私はさっき成し遂げようとした仕事、つまりは配達と言うものを生きがいにしているのです。
「ふ~ん。いつも通りね、あんたは。基本的にお仕事…ものを届けることや、それ関連のことばっかりね」
勿論です。
かつて、物凄く格好良い郵便配達員を目にし、憧れてからというもの、ずっとやってきたんですから。長い時間をかけて育んだ熱意は尋常なものではありませんよ。
「でも、秤も似たようなものじゃないですか?思いを向けるモノは違いますけど」
「そうね」
相変わらずお菓子を食べながらそう答える秤。
彼女も人間の一人。そして勿論趣味人(物好きって言った方が的確かも)ですので、当然熱中するものがあります。神様との交信という。
何を思ってそんなことを始めたのか知りませんけど、とにかく実在するかも分からない神様と繋がりたいらしいです。彼女が神官なのか巫女なのかよくわからない服を着ているのも、教会にいるのもそれに関係しています。
どうも神職に関わる格好をする、行動をすることなどで、何かの効果を期待しているようで。
移動に関しては、良い交信地点でも探っているのでしょう。今の所一度も交信は成功していないようですが。
「いいえ、したわよ」
「はい?」
え、本当に?
「電話で来てね。…そうだわ。神様が教えてくれたこと、あなたに言わなきゃいけないのよ」
「え、遠慮しておきますよ」
「必要なことだから」
と言って、秤は譲りません。
「頼んでませんよ、そんなこと……てか、無理やり聞いたんですか」
しかし、既に秤は聞いていません。
どうもテンションが上がってきているせいな気がします。まぁ、悲願(言い過ぎかもしれませんが)を達成できたことを思い出し、昂っているのでしょう。
「実は。この世界は………細かい所が雑な、巨大な模型プラモデルなのよっ!」
「えええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
模型ってあれですか?部品パーツを説明書通りに組み立てて立体物をつくるあの?
「……私たちが原子とか分子だと思ってるものがプラのパーツらしいわね」
と本気で言っている秤に対し、私は思わずこう言います。
「……荒唐無稽ですね」
私はぶっ飛んだ内容の話に思わず言います。
「こうとうむけいではない」
そこに否定の言葉。
「いや、荒唐無稽でしょう」
「四文字熟語を使うな。アホらしい」
「何を言ってるんですか。……。え、誰が言ってるんですか?」
私たち二人は、そのどちらのものでもない声の主を探して視線をさ迷わせ、最終的に目の前の机を見ます。
『……なんだこれ』
ベルトが勝手に動いています。まるで軟体動物の様にくねくねと体をよじりながら。
『不気味……』
明らかに硬そうな(実際固かった)ものが、何故こんな動作を……。
そんなことを思う私たちが呆然と動くベルトを見ていると、それは置いてあるお菓子の箱にぶつかります。
転がり落ちたお菓子が机の上に散乱。ベルトはバランスを崩したのか倒れ、四角いチョコレートを下敷きにします。
「……あ、私のお菓子!」
秤が悲鳴を上げます。
「………こ、これはすごい、すごいぞ!とにかく凄い!」
「え?」
ベルトが起き上がります。見れば、下敷きにされたはずのチョコは跡形もありません。ベルトから咀嚼音がするので食べているのかもしれません。……え?
「ベルトが、お菓子を食べてる……」
この世界、趣味人のせいで変な生き物や機械が複数存在しており、料理を食べて成長する生物、機械もいますが………。
「さすがにお菓子を食べるベルトは知りません………」
そう私が呟くと同時に、ベルトが震え始めました。
「最高だ!また食べたい!…それにき、きた……僕様の再降臨だ……!」
分かりやすい歓喜の声が上がります。
「何を訳の分からないことを………」
直後、ベルトから光が溢れます。
それを中心にあるものが…そう人の形を新たに形作っていったのです。
転がったお菓子を踏みつぶし、人型は机の上に立ちます。
『………』
私たちがあっけに取られている間に体の構築は完了し、私たちを見下ろす彼の姿が明らかに。
袖がない漆黒の和服と、大きすぎる紫のスカーフという風変わりな格好の男は口を開き、大声で言います。
「神の使いである正義の魔王、僕様イチョウの登場だ!」
「………………よく恥ずかしがらずにそんなこと言えますね」
わざわざバランスの悪い一本足の机の上で決めポーズを取ってまで。
「……のわぁっ!?」
そんなことをしたからか、彼の体重で机はひっくり返ります。当の彼は華麗に着地を決めたようです。
最後を決めても直前の格好悪さはぬぐい切れていない気がしますが。
「………華麗に復活を遂げた今、僕様が使命を全うするときだな」
などと言っている、イチョウという名前らしい彼に、私は聞きます。
「………失礼ですが、あなたは」
私の言葉に反応し、顔を上げる彼。
「……誰かの作品でしょうか?」
そして、いきなり叫びました。迷惑にも。
「な…ち、違ぁぁぁう!」
「な、い、いきなり叫ばないでください!」
こんな質問したのは、さすがに迂闊でしたか。いやでも、さっきのベルトの動きとかを見ると、(趣味人の)誰かの作品だと思ってしまいます。そうならば、(危険性があるので)逃げるなどの策を講じることも可能です。
「僕様は誰かのつくったものではな……いや、神様の依頼物なんだから、作品ではあるのか?……」
首を傾げ、本気で悩み始めた彼。このままでは何も喋ってくれそうになかったので、私は改めて問います。
「コホン。先程は失礼しました。それじゃぁ、あなたは一体、何なのですか」
「よくぞ聞いてくれた!」
私の質問を聞いた瞬間に彼は悩むのをやめ、急にハイテンションで言います。うるさ…。
「僕様はイチョウ!正義の魔王イチョウ!」
それ、さっき聞きましたよ。………それにしても。
「ま、まおう……ですか…」
散々変人と関わってきましたが、その中でもかなり面倒くさい部類の人たちと為を張れるぐらい、頭がおかしそう(失礼ではありますが、思わずそう思ってしまったのですから仕方ないです)。この自称魔王からは距離を取っておいた方がいいです。
私は高笑いする彼から距離を取ろうと背を向けます。
「待って。何処に行くのよ」
「……………はい?」
いきなり、肩を掴まれたのです。それもかなり力強く、しかも秤に。
「どうしたんですか、秤?私を止める理由が、何かお有りで?」
「あるわ。とても、とても大きな理由があるわ」
秤は真剣な面持ちで私を見ながら言います。
「そ、それは……?」
「………神様のためよ」
「へ?」
ど、どういうこと?さっきから意味の分からないことの連続で混乱します。
「……彼こそ、神様の使徒。彼が来たからには、あなたは手伝わなければならないわ」
「何の話っ!?」
混乱続きの私が言います。
「あなたのお菓子を勝手に食べた相手ですよ!?なんで怒らずにこんな訳の分からん相手の味方に付く行為を…!?」
「神様のためだから。そのためにはお菓子の一つや二つは仕方のないことだわ」
まったく未練がないわけではないのか、少しだけ残念そうに秤は言います。
「そう仕方ないわ。神様の電話式お告げの内容の通りの状況が始まったんだから」
電話式お告げというツッコミたくなるワードセンスはともかく。
「…どういうことです?」
「説明してやろう」
私の目の前にわざわざイチョウがやって来て指を突きつけてきます。
「お前は僕様の配下……いわば奴隷だな。神様の決めたとおりに。だからこそ、ゲームの破壊を手伝わなければならない!」
どこかで雷が落ちました。それは、私の衝撃を表現しているかのようです。実際いきなりの奴隷発言は衝撃的でしたから。
「な、何を言ってるんですか!?」
「お前は僕様の兵隊と言う事だ。だからゲームの破壊を手伝え!」
「意味不明です!私はそんなのしませんからね!」
まぁ、私でなくても奴隷呼ばわりしてくる相手を手伝うなんてしないと思います。純粋にむかつきますし。
そう呼ばれるのを好む趣味人とかならともかく。
「……ふっ。そうか。ならさらに、きっちりと、説明してやる」
「……説明?」
したら私がやる気になるとでも思ってるんですかね?
「この僕様が何のために来たのかを……そしてこの演説を聞いたお前は、僕様に協力するしかなくなるぞ!」
本当にそう思ってるのかも。
「…て、いつの間に演説に?後、聞きませんからね、わた………うわっ!?」
逃げようとしますが、どこからともなく現れた光の鞭に、私は両手を捉えられ、動けなくなってしまいます。
私は鞭の出所を見て、
「秤!魔法を使いましたね」
「ええ」
秤は頷きます。
そして唐突な話ですが、彼女は魔法使いです。…そう、この世界には魔法があるのです。謎の理論と技術をもとにした超高等技術らしく、全く普及していませんが。彼女は神様との交信の役に立つよう、頑張って習得したそうです。
「…いいから、彼の話を聞いて。勿論、協力もして」
「どうして人を奴隷呼ばわりする人の味方を!?」
「神様の言っていたことに彼の事があってね。彼に協力するようにって言葉もあったわ。だから仕方ないのよ……神様のためなんだから」
「ちょっと!?それ私に関係ないですよね!?」
あんな変人と関わったらどんな事態に巻き込まれるのやら。早く逃げたい。一刻も早く!
「いえ。残念ながら、あなたも仲間に加えるように、とも言っていたのよ」
「何故私を指名っ!?全く嬉しくない………!」
首を左右に振って全力で拒否する私。
「実際、あなたの友達や、あなた自身の能力も、貢献できるのよ、ゲームの破壊に。すまないけど……神様のためだから、仕方ないのよ」
秤は私の手を握り、申しわけなさそうに言います。
その視線を見て私は、
「……本当にすまなく思ってるようですね。……いや、それなら止めてくださいよ」
顔を逸らし、秤は返答をしませんでした。ダメだこりゃ。
どうやら彼女の中では友達の私より、神様の方が優先順位が上のようです。申し訳ないと思っている以上、決して私のことが大事じゃないわけではないし、優先順位が極端に低いわけではないのでしょうけど。
「く………こうなったら仕方ありません。」
今この時に逃げることが出来なくった以上、とりあえずイチョウに好きに語らせ、逃げる隙を待ちましょう。
その際に秤の協力が期待できないのが痛いですね。彼女の魔法があれば、恐らく容易く逃げられたのに。けれど彼女は私を裏切って敵側ですよ、残念なことに。
「どうぞ」
私は仕方なく、抵抗をやめ、聞く体勢を取ります。……あんまり聞く気はないので、ほとんど聞き流すつもりですが。
「ありがとう」
秤はいつもより感情のこもった声で言います。
「はい」
私は固い声で言います。
一方、潔く聞く気になったように見える私を見て、イチョウは深く息を吸って始めました。
「今、この世界は一大迷惑行為の渦中にあり、その行為によって、ある勝負の決着がつけられようとしている」
「……迷惑行為に、勝負の決着?」
彼は大きく頷き、続きを話しました。
その間に一度逃げようとしましたが、秤が逃がしてくれませんでしたよ。…くそぉ~。
その長ったらしい話を纏めると以下の通りです。
私たちの住むこの世界を舞台フィールドに、二人の神によってとあるゲームが始まった。これはA、Bの二つの軍に分かれ、お互いの軍を全滅させるか、指揮ユニットを撃破することで勝敗が決まる戦争ゲームである。そしてそれは、かぼちゃケーキかモンブランのどちらが嗜好のケーキか、という実に下らないことの白黒をつけるために行われ、自分の作品であるこの世界をそのために使われた神様はご立腹である。そうでなくとも、日ごろから喧嘩をしがちな二人の仲裁役として被害を被っていて苛立っていた。そういうわけでこの際、真剣にゲームに取り組もうとする二人に嫌がらせをするため、ゲームを破壊めちゃくちゃにする、とのこと。
「へぇ。なんてわかりやすいせつめー。スゴイですねー」
棒読み。内容は分かりましたが、どうでもいいのでとりあえず受け流します。
「頑張ってくださいねー。私はお仕事をしたいので邪魔をしないでください」
そう言う私に、
「簡単な説明してやったんだ、分かっただろ?やる気になっただろ?」
「……そんなわけないじゃないですか」
そもそも現状では、完全なる妄言ですよ。作り話ですよ。
と思いながら言っために気持ちが伝わってしまったのか、露骨に彼の機嫌が悪くなりました。
「何にぃ?お前、正義の魔王軍の一員のくせしてやる気がないだと!?」
「いや、魔王軍なのに正義ってなんですか……。とにかく嫌ですからね!」
「バカなことを言うんじゃない!お仕事などと下らないことを」
なにぃ?私の生きがいをそんな風に言うとは……。
「それはこっちのセリフですよ!さっきのくだらない妄言を信じて、ついていくわけないでしょ!そんなの馬鹿か物好きのすることですよ!」
…あ、不味い。うっかり怒らせそうなことを言ってしまいました。何気に、イチョウが私の地雷を思い切り踏みぬき、、若干怒ってしまったせいですね。
「なん、だとぉ……!」
怒りで顔を歪める彼。
「私はお仕事がしたいんです、お届けしたいんです!あなたの配下に何てなったら、自由にお仕事できないじゃないですか!それは困るんです。短時間ならまだいいですが、とても短期間終わってくれるような物とは思えません」
「……」
勢いよく、私がそう言うと、イチョウはいったん黙りました。分かってくれたのか、と思ったのですが、そうではありませんでした。
すぐに、彼は口を開きます。見下したような目つきで。
「お前、なんて自分勝手なことを言ってるんだ?」
「は?」
なんか嫌な攻撃をし始めましたよ、彼。
「てめぇのわがままで迷惑を他人にかけるんじゃない。そんなことも分からないのか?僕様の使命はこの世界全員のためになるものであり、神様のためにもなる。お前はその、一時の自分勝手でそいつらにこれから被る大迷惑を防ぐ邪魔をするのか?たかが一人の意思で周りに迷惑をかけるんじゃねぇぞ!」
なんか主張の仕方が超ムカつくんですけど。
「はぁ?他人がどうのこうの、神様がどうのこうの言っていますが、結局はあなたがやることに、言い訳をつけて嫌がる私を無理やり巻き込もうとしているだけじゃないですか。それはいかなる言い訳を使ったところで変わりませんよ」
イチョウ自身が、望まないことに他人を巻き込むという、迷惑行為をしようとしている事実は変えようがないのです。
そんなことも分からないとは。
「や、やかましいっ。勝手な奴には裁きをくれてやる」
自分勝手はあなたでしょう、論破されて震えているこの野郎!
と私が思っていると、イチョウが私を殴ろうとしてきます。
見かねたのか秤が口をはさむことで止めに入ります。
「あなた、分かったわよね?この世界に対する大迷惑行為が始まっているって」
「………はあ」
でもイチョウ側に彼女はいるので、私に有利なことはしてくれません。巻き込んで悪いと思ってるのにどうして……とまた思ってしまいます。
「私たちの目的もわかったでしょ?アデュプスと連絡をとれるあなたが必要なのよ。ゲームを外側から破壊するためには」
「…………へぇ」
「大迷惑行為を止めるために必要だ。敵軍の動きの情報がな」
イチョウが秤の話に乗っかります。初対面のはずですが、うまく乗って来たのは彼がぐいぐい来るタイプだからか、それとも二人とも背後に神様(?)が付いているからでしょうか。
「………」
イライラが募っていきます。
「それに、あなたは状況の分析とか、指揮とか、割と得意な側でしょ?人を使うのがうまい。その能力も生かしてほしいわ」
その言葉に、イチョウが少し顔をしかめました。何故?
「だから諦めて彼の仲間に」
「それがいいと神様は言ってたぞ。ほらほら、素直になれって」
「………そうですね」
私は淡々と言います。そして肩の力を抜き、
「分かりました。大人しく入りましょう」
両手を挙げて降参のポーズをします。秤は完全にあっち側。魔法が使える以上、私では逃げられません。今のところは。
「なぁはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!これで魔王軍結成だ!あの迷惑な連中を叩き潰すことができるぞ」
あっそ。そんなの本当にいるのやら。
「ええ。これで神様の命令の最初の段階は達成できたわね。イチョウの目覚めと、彼女の加入、チームの結成は。…あとは教会を移動用に飛行可能にでもしておけば、十分ね」
そういうと秤は私の方を向き、
「協力、ありがと」
と言ってきます。
「はぁ………」
また変なことに巻き込まれた。私はいつものようにそう思うのでした。
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