大迷惑戦記そそれそれれ
結芽月
プロローグ
まだ、何も知らない。
それが私です。
これから世界に起こる大迷惑な事件を知らず。
「か、神様!?やっぱり実在したのね!」
知らない所で友達が電話で神様(本当に?)の啓示を受けていることを知らず。
「ハァッハッハッハッハッハ!正義の魔王、僕様の光臨だ!」
変なことを言うアホが空腹でベルト化していることを知らず。
「…」
無言で進みだす謎の兵士たちを知らず。
数々の前兆の一つして知らない私は、ただ寝ているのでした。
「……くぅ」
全てが始まる、けれどまだ始まっていない、平和な朝に。
「ん………ふわぁ」
私は背伸びとあくびをして起きます。
場所はとある草原のど真ん中。川が流れていたり、木々が点々と生える、自然風景を見ることができます。
「……起きたし、洗顔でもしましょう」
目覚ましも兼ね、川へ行って被っている兜を外し、顔を洗います。
「ぼへぇ~……あ。危なかった。危うくバカに戻るところでした。たまたま兜が被れてよかった…」
それはそれとして即切り替え。身支度を整え、いざ出発。
私のいきがいであり、趣味でやっている配達に、です。
「ふっふっふっふ……。秤ったら、配達を頼んでおきながら勝手に移動するもんですから、見つけるのに苦労しましたよ。疲れすぎて寝落ちしてしまいましたが、今はちゃんと起きています。しっかり届けてあげましょう!」
草原を進む私はそう言い、持ってきていた袋にはいった袋を空に掲げます。
お菓子入りの箱が入った袋です。袋の大きさが結構あるのは、友達の彼女は大の甘党だからというのもあるでしょう。
「…いやぁ、中に梱包剤を大量に詰めていてよかった!おかげで潰れずに済みました」
いつもどんなに対策を打っても、何故か配達物が破損するんですよね…。予想外の出来事で。中身だけはこれまた何故か無事ですけど。
「完璧な状態のものを今度こそ、届けましょう」
私はそう言って走り出します。
目的地である、秤のいる教会(何故か変形して移動可能)は、今はやや遠くに見える高い丘の上にいます。
「待っていてくださいね、秤!」
私は進みながら言います。
近くでは二足で歩く犬さん(・・・・・・・・)が音楽系の趣味人・・・と野生の犬の散歩をしていたり、自作らしき人型ロボットに乗り込んではしゃぐ趣味人などがいますね。
「………後少しです」
気づけば、教会はもう目の前です。
私は既に、丘の上でした。
「ふぅ」
何気に急だった丘を登り切った私は息を尽き、なんとなしに早朝の地上を見下ろします。
そこには、森や川などの普通の者がある一方で、浮遊する星型の機械や女性の胸を象った歩く家などの、超技術が合わさった珍妙なものも、前者を越える数があります。
そのどれもが、この世界に住む物好きたち…通称趣味人によるもの。
彼らのような変人や、その他の知性ある生き物たちが好き勝手して様々な出来事が起きているのが、私の生きるこの世界です。
「……さて。休みはこれぐらいにして、と」
私は背伸びをしながら空を見上げます。
しかし、私は完全に油断していたのです。
配達物を完全な状態で届けるという悲願の達成を前にしていたがために。
「……え?何でしょう」
頭上に、急に影が落ちました。
「……鳥?UFO?……これは……!?」
それに気づいて頭上を見上げた時には、もう手遅れでした。
勢いよく何かがこちらに向かってくるのです。
謎の落下物の姿は、なんだか特撮の変身ベルトのように見えましたが、そんなことはどうでもいいのです。早く逃げ……、
「あ」
何てところに石ころが転がってるんですかー!?
私は駆けだそうとしたところでこけて倒れてしまいます。
そして両手からお菓子詰め合わせが転がり出て………。
「お届け物があぁぁぁぁぁぁぁ!?」
そんなご無体な。落下物は奇跡的な確率で箱の中心に突き刺さり、箱を木っ端みじんにしてくれやがったのです。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」
絶叫が思わず出てしまいます。後少し、あと少しで悲願が達成できたのに……。
涙が一滴、一滴、また一滴。悲しみが心を暗くするぅ…。
「あははは…………」
からからとした笑いしか、絶叫の後には出ませんでした。
私は鬱一歩手前の心理状態で、せめて飛び散ったお菓子を回収しようとふらふらと動き出します。
「……し、しかし、なんですか、これは……」
お菓子を集めつつ、この悲劇の原因に視線を向けます。
「……いえ、それはそれとして集めましょう…あはは…」
悲しいなぁ、悲しいなぁ……。あはははは。
後であの落下物はどこかで薪にくべてやりますよ。
「今日は厄日です……」
……それだけなら、まだよかった。それで終わりなら、どれだけよかったでしょう。
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