とある一夜
レイナ・ルインヴェール。
この世界の元となっている『ロード・オブ・ジャスティス』において、主人公の年上ヒロインとして登場する少女の名だ。
燃えるような真っ赤な髪を頭の高い位置で結び、切れ長の瞳を持つクール系の美人。
魔法学院では第3学年のS-セカンドに所属し、剣術を得意としている。
そんなレイナには治療法の存在しない病ーー所謂、不治の病にかかった妹が1人いる。
レイナはそんな妹を救うために病の治療法を探し続けていたのだが、なかなかその方法が見つからず心身ともに疲弊し切っていた。
彼女はそこをとある組織につけ込まれそうになるのだが、たまたま通りかかった主人公によって最悪の事態を回避する。
そして、主人公がレイナに協力することを誓い2人の間にフラグが成立するのだ。
「なんとも都合のいい話だな」
窓から差し込む月光によってぼんやりとした明るさを持つ部屋の中。
椅子に腰掛け、月明かりによって照らし出されたリリアとルルア、セリーナの3人の寝顔を見つめながらそう呟く。
今し方、俺が思い出していたのは前世から引き継いだ記憶の中にあるレイナに関する情報だ。
今日の昼、レイナに万能薬を渡したことで繋がりができたので念の為に持っている情報を思い出してみたのだが、他でもない俺自身の行動によってほとんどが使えないものになっていた。
それに落胆すると同時、主人公にとってあまりにも都合の良すぎる話につい口からこぼれたのが先の言葉だ。
前世でゲームをプレイしていた時は何も感じなかったが、こうして現実として考えてみると不自然であり、あまりにも都合が良すぎて気持ち悪くなってくる。
まるで世界が
「だが、すでに壊れているのだから、気にする必要はないかもしれんな」
原作開始である試験の日からからすでに3つーー主人公の不在と学院長の死、そしてヒロインの
特に主人公の不在などという物語としてあってはいけないことを行っても、不自然な修正が行われることはない。
だからこそ考えてしまう。
この世界は『ロード・オブ・ジャスティス』に酷似しただけの世界なのだろうか、と。
「‥‥‥いや、今考えることではないな」
この世界が『ロード・オブ・ジャスティス』の世界であろうとなかろうと、俺がすべきことは変わらない。
運命という名のシナリオを壊す。
これは絶対だ。
そんなことよりも、原作通りであればレイナに接触するはずだった組織への対応だ。
前世の記憶からこの組織は帝都に支部を設置しており、その支部がこの先学園や帝都で起こるあらゆる出来事に関与してくることがわかっている。
その中には俺が今いるこの屋敷にも被害が及びそうなものもある。
俺は自分の所有物に手を出されることが何よりも嫌いだ。
権力、金、女、服、道具、屋敷、人材、資源。
この中のどれであっても、他人に手を出されることが嫌いだ。
だから、俺の所有物に手を出すも同然の行為をしようとしている組織は潰す。
もちろん支部だけではない。
組織そのものを潰してやる。
「リベリス」
「ここに」
俺の呼びかけに応じ、影からメイド服を身に纏った女エルフが現れる。
影から現れ静かに佇む淡い緑色の髪のエルフの名はリベリス。
帝都に屋敷を購入した際、使用人兼屋敷の管理者として奴隷商から購入した3人の奴隷の内の1人だ。
彼女を購入した当時、彼女は手足など体の損傷が激しく、奴隷娼婦として働かされていたため体を梅毒に犯されていて生きているのが不思議なほどの状態だった。
だが、奴隷娼婦に身を堕とす前は冒険者界隈でかなり名の通った冒険者だったということで購入した。
その後、リリアの『回復』の聖女の力を使って体の損傷を治し、俺の所有物であることを示すため、そして彼女に新たな生を与えるために"リベリス"という名を与えた。
現在では普段はメイドとして働かせ、時々レンジャー職をやっていた冒険者の技術を使った仕事をさせている。
今回も後者の仕事をさせるために呼び出した。
「近々、魔法学院に侵入者が入るはずだ。そいつを捕らえて俺の前に引きずってこい」
リベリスには原作でレイナに接触を図る組織の人間を捕らえさせる。
本来、レイナと組織の人間が接触するのはもう少し後のことなのだが、今の期間でも捕まえることは可能だろうと踏んでのことだ。
レイナと組織の人間が接触するのは魔法学院の敷地内なのだが、 学院は貴族の子息令嬢、年によっては王族も通うこともあるために警備はかなり厳しく、簡単には入り込むことはできない。
それにも関わらずそいつが侵入できていたのは学院内に内通者がおり、尚且つ何かしらの目的を持って普段から侵入しているということに他ならない。
だからこそ、今のタイミングでも捕まえることができると考えたのだ。
後は、俺の周りを飛び回る小蝿を早めに処理したいというのもあるな。
「承知しました」
「下がれ」
リベリスは影に溶け込むようにして姿を消した。
部屋の中が静かになる。
俺は座っていた椅子から腰を上げ、リリア達の眠るベッドに向かって足を進めた。
=====
「レイス・ヒーヴィルはいるだろうか」
レイナに万能薬を渡してから3日。
レイナが1年S-ファーストクラスに訪れ、教室内に響く声でそう言った。
一拍遅れて俺に集まる視線。
レイナもその視線によって俺に気がついたようでこちらに近づいてくる。
「レイス・ヒーヴィル。この前はありがとう。おかげで妹が助かった」
「そうか。それで?感謝を伝えにきただけではないのだろう?」
「ああ。これを受け取って欲しい。我が家への招待状だ。ルインヴェール伯爵家として正式に感謝を伝えたい」
レイナが差し出した手紙を受け取る。
それは蝋で封がされており、そこにはルインヴェール伯爵家の紋章が浮かんでいる。
この件に当主も関わっているようで何よりだ。
余計な手間をかけることなく、新しい駒が手に入るのだからな。
俺は悪役らしい笑みを浮かべた。
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