S-ファースト

 魔法学院でのクラスはS、A、B、C、Dの五つに分けられ、さらにその中でファースト、セカンド、サードに分けられる。

 S-ファースト、S-セカンド、S-サード、A-ファースト‥‥という形だ。

 このクラス分けは先日行った実力試験の結果をもとに行われ、S-ファーストが一番実力が高くD-サードが一番実力が低くなる。

 一年次は貴族、平民でそれぞれこの分け方になっているが二年次になるとアルファベットのクラスが増え、人クラスあたりの人数が多くなるようだ。


 俺はもちろんS-ファーストクラスだ。

 悪役としての死の運命を壊すにはこれくらいは当然である。


 実力の高いクラスということである程度移動の便利な位置に設置された教室に入る。

 その中はよくある異世界の学園のような内装となっている。


 横に四つほど並べられた長机が後ろの方向に階段状になって続いており、その席は自由。

 前には教師が使う教団と教卓、後ろの席まで見えやすい大きな黒板が設置されている。

 窓は比較的大きく作られておりそれなりに装飾も施してある。

 そして廊下側の壁には子息令嬢が連れてきた使用人達が待機するスペースが設けられており、教室内にいる者達の使用人が静かに並んでいる。


 もちろん立ってだ。

 使用人が座って待機するなどありえない。


 「あの、ご主人様?」

 「何だ」

 「私も、あそこで待機するのですか?」

 「そうだ」

 「‥‥‥座っていてもいいですか?」

 「俺に恥をかかせたいのならば好きにしろ」

 

 立って待機している使用人達を見て、表向き使用人として連れてきているセリーナが顔を引き攣らせる。

 そんなに立って待機するのが嫌なのかこちらに媚びるような視線を向け続けている。


 ‥‥‥放置したら視線がこちらに向けられ続けるな。

 

 「はぁ‥‥‥。魔法を使えばいいだろう。お前なら魔法の威力の微調整もできるだろう」

 「あ、そうですね」


 気づいていなかったのか。


 セリーナが立って待機するのを嫌がるのは単純に疲れるからだろう。

 二年も一緒にいれば何となく考えていることがわかる。

 なので魔法を使って負担を軽減すればいいと言えばそこで気がついたかのような反応をして、使用人達の方に行った。


 セリーナが離れた後どこに座ろうかと席の方に軽く視線を向けると懐かしい顔を見つけた。

 長机の間を歩いていくとあちらも俺に気がつき、席を立って軽く頭を下げてきた。


 「お久しぶりです、レイス様」

 「ああ。久しいな、コーリッド」


 俺が見つけた相手は二年前のパーティーで会ったレッサー侯爵家の次男、コーリッド・レッサーだ。

 あの時コーリッドは俺の問いに対して面白い解答をしたため印象に残っていた。

 

 「ここに座ってもいいか?」

 「はい、レイス様がよろしければ」


 コーリッドから1人分の間をあけて腰を下ろす。

 コーリッドも俺が座った後でもう一度座り直す。


 「まさか、ここでお前と会うとは思いもしなかった」

 「ははっ。レイス様の想像を超えられたのなら誇らしいです」

 「ああ、誇るといい。事実、二年前のお前にはこのクラスに入るほどの力はなかっただろう?」

 

 俺の言葉にコーリッドは驚きの感情を露わにし、目を見開く。

 

 「さすがですね。レイス様のおっしゃる通り二年前の私にはこのクラスに入る実力はありませんでした」

 「だからこの二年で相当な努力を重ねたか、あるいは新たな力を得たのだろう?」

 「ええ、その通りです」

 「近いうちにその力を見せてもらおうか」

 「喜んで」


 コーリッドと話をしているといつの間にか教室内にそれなりの人数が集まっており、その中には原作でこのクラスに入る主人公もいた。

 主人公はいく人かの生徒達と会話をしており、原作で見たのと同じ光景だ。


 原作であれば今日は何事もなく終わるのだが、俺という異分子イレギュラーの存在があるため原作通りにいかない可能性は十分にある。

 だが、先日の実力試験で見た限り今のあいつの実力では俺に勝つことはおろか、触れることすらできない。

 なので、物理的なことを警戒する必要はないが厄介ごとには巻き込まれるかもしれない。

 一応意識だけは向けておこう。


 そんなことを考えていると教室の前の扉から1人の教師が入ってきた。

 貴族に多く見られる金髪を後ろになでつけており、四角いフレームのメガネをつけている。

 表情は柔らかく、親しみやすそうだ。

 服装は前世で言うスーツのようなものの上から魔法使いのようなローブを羽織っている。


 教師は教卓の横に立つと教室内を見回してからこちらに向けて口を開く。


 「初めまして。今日からこのクラスの担任となりましたミハイル・ワークリンです。魔道具を使用する授業を主に担当しています。これから一年よろしくお願いします」

 

 教師ーーミハイルの挨拶が終わると教室内の生徒が拍手をする。

 原作通りだ。


 ミハイルの挨拶もその後の反応も原作通り。

 つまらん。


 その後、学院内における規則と一年のざっくりとした予定の説明を聞き終え今日は解散となる。


 「それではレイス様、また明日」

 「ああ」


 挨拶をしてきたコーリッドに返事を返し、こちらに近づいてきたセリーナを連れて扉に足を向ける。


 「なあ、あんた」

 

 後一歩で教室を出ると言うところで後ろから声をかけられた。

 これが何の聞き覚えもない声だったのなら俺は無視をしてそのまま教室を出て行っただろう。

 だが、その声には聞き覚えがあった。


 ゆっくりと後ろに視線を向ける。

 持ち主の意思の強さを表したかのような赤髪、正義心に満ちた光を宿す瞳。

 公爵家である俺に対して一歩も引かない態度。


 ああ。

 俺が嫌いな人間だ。


 俺の後ろに立つ主人公はこちらから視線を逸らさないまま訪ねてくる。


 「その女性は、あんたが連れてきたのか?」

 「人にものを尋ねるのなら、まず自分の名を名乗れ」

 「俺の質問に答えろ」


 ああ、イライラする。


 こちらの言葉を聞かず自分の目的だけを果たそうとするその態度が。

 

 常識を知らないその脳みそが。


 自分が正しいと信じて疑わない瞳が。


 前世から、大嫌いだった。


 「‥‥俺が連れてき女だが?」


 そう答えると、主人公は自分の左手に嵌めていた手袋を外しこちらに投げた。

 俺は意味を理解した上で手袋を掴む。


 「決闘だ。俺が勝ったら、彼女を奴隷から解放してもらう」


 


 




 

 


 

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