入学式
実力試験を終えてから2週間。
魔法学院の入学式当日となった。
だが入学式があると言っても朝のルーティーンが変わることはなく、いつも通りに目を覚まし、鍛錬を行い、朝食を食べる。
変わったことがるとしたら朝食の後に魔法学院の制服に着替えることくらいだろう。
魔法学院の制服は黒をベースとした軍服のようなデザインをしている。
それに合わせて靴もブーツのような形状のものになっており、制服に白の手袋まで付属している。
完全に軍服を意識している。
この世界に軍服という概念はないから原作の制作会社がカッコイイからという理由でこういうデザインにしたのだろう。
何となくそんな気がする。
そんなことを考えつつも制服に着替え終わり、この際だからと手袋も嵌めたところで部屋の扉がノックされた。
「旦那様、入ってもよろしいでしょうか?」
そう問いかけてくる声はリリアだ。
今更目の前で着替えるくらいお互いになんてことないのだが、完全に着替え終わった姿を見て欲しいからと別の部屋で着替えていたのだ。
許可を出すと扉が開かれ制服に身を包んだリリアとその後ろからルルアも入ってきた。
リリアは俺の前までくるとその場でくるりと一回転して笑みを浮かべる。
「どうですか旦那様?」
「似合っている」
「ふふっ。ありがとうございます」
そう言ってリリアは嬉しそうに頬を染める。
リリアが纏う魔法学院の制服は女子用のもので下が膝丈のフリルのあしらわれたスカートになっている。
リリアは普段膝より下の長さのスカートを好んで履くのでこの長さはとても新鮮だ。
それに加え、いつもはおろしている髪をポニーテールにして結んでいるので雰囲気も違う。
魔法学院に入ったからこそ見られるリリアだ。
「‥‥レイス様、私はどう?」
「ルルアもよく似合っている」
リリアに同じくルルアも制服姿がとても似合っている。
だが、ルルアは剣を扱っているためか軍服風の制服がイメージに合っておりどこか風格のようなものがある。
「ありがと。レイス様も似合ってるよ」
「そうか」
「凄くかっこいいいですよ。それこそ今すぐ抱きつきたいくらいに」
制服姿を褒めたお返しか、2人が俺の制服姿を褒める。
何となく悪い気はしない。
俺は無言で手を広げる。
リリアが飛び込んできた。
=====
馬車で魔法学院に向かい、入学式の会場である大講堂に入る。
帝国はかなりの広さの領土を持つので今年入学する生徒だけでもものすごい人数になる。
大講堂に入った途端に人口密度が一気に高くなった。
だが、俺達には特に関係はない。
人の多い道から外れてほとんど人の歩いていない通路を歩き、左右が壁で区切られ個室のような作りになっている個室のスペースに入る。
そこには複数人が座れるソファーが一つと1人用のソファーが二つほど置かれており、そこから階下のステージ部分が見えるようになっている。
いわゆる貴族席である。
この入学式は封建制がそのままに現れる座席の配置となっている。
平民は一人一人の間隔がそれほど広くなく、少し体を傾けると隣の人に当たってしまう程の狭さで並ぶ椅子に座っており、男爵、子爵の貴族も平民よりも余裕を持った間隔になってはいるが椅子の置かれている場所は平民の座る部分と同じ高さだ。
それに対して伯爵、侯爵、公爵の貴族は下位の貴族や平民が座っている場所の2階以上に当たる場所にて今俺達がいるような個室に近い場所に座っている。
高位貴族様様だ。
左右にリリアとルルアを座らせ階下の様子を眺めつつ寛いでいると、ステージに教員であろう男が上がり拡声器の役割を持つ魔道具を使いこちらに言葉をかける。
『間もなく入学式を始めます。席についていない生徒は席につきなさい』
教員の言葉に幾人かの生徒が急いで席に戻っていく。
間もなくして講堂内が薄暗くなり、対照的にステージ部分が明るくなる。
かなりの人数がいるのでステージに集中させるための処置だろう。
『それでは、これより高等魔法学院入学式を開式します』
ステージの端の部分に先程とは別の男が上がり、魔道具を使用して入学式の開式を宣言した。
入学式は前世で通っていた学校のものと同じくつまらない人間のつまらない話がひたすらに続く。
この学院に多額の寄付をした貴族だの、学院での名誉職を持つ貴族だの、クソつまらん話をさもありがたいことのように話す貴族だの全く持って退屈だ。
ほぼ序盤から同じくつまらない話に退屈していたリリアとルルアと暇つぶしをしていた。
だが、先程入学式の開式を宣言した男の言葉でステージに意識を向ける。
『次は新入生代表の言葉。ゼリシア・レンリ・ルヴィア皇女殿下』
男の言葉にステージ脇から出てきたのは艶やかな金髪を持ち、威厳に満ちた佇まいをしている1人の少女。
この国の第一皇女であり、原作にて主人公のヒロインの1人であるゼリシア・レンリ・ルヴィアだ。
彼女は身分に関係なく人に接することができる人格者であり、市井にもよく足を運び帝都の様子を自分の目で確認し民との交流も積極的に行っている。
そのため帝国の民から大きな人気を得ており、それが持つ影響力は計り知れない。
原作において主人公がゼリシアのルートに入った時にはその影響力を使い主人公の行動をサポートしていたため、悪役である俺にとって注意が必要な人物となる。
「最悪の場合も考えて、何かしらの対策をしておくか」
ゼリシアが新入生代表としてのスピーチを終え、その後も滞りなく入学式は進行し終了した。
今日はこの後、事前に通達されている自分のクラスで軽く話をして魔法学院での予定は終了となる。
「先に終わったら門で待っていろ」
「はい」
「わかった」
リリアとルルアにレヴィアナをつけ、俺はセリーナを連れて自分のクラスへと足を向けた。
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