実力試験 - リリアの場合
セリーナさんを連れて貴族様の会場に歩いていく旦那様の姿を見送る。
人混みに紛れ、姿が完全に見えなくなってから視線を動かす。
「さあ、私達も行きましょうか」
「そうだね」
旦那様の歩いて行った方向とは逆に足を進める。
やはり貴族よりも平民の方が人数が多いのか、貴族の会場に向かう道に比べて人と人の間が狭く感じる。
極力周りの人とぶつからないように気をつけながら歩き、開けた場所に出た。
そこでは大勢の人がいくつもの列をなしており、今歩いてきた人達もその列の最後尾に次々に並んでいる。
「すごい人だね」
「そうですね。みんな今年の入学生だと言うのですから驚きです」
思っていた以上の人の多さにルルアと一緒になって驚く。
「お二人とも、早く並びませんと筆記試験の時間に間に合わなくなってしまいますよ」
「そうだね。行こ、姉さん」
「ええ」
適当な列に並び、ルルアとレヴィアナさんと会話をしながら自分達の順番が来るのを待つ。
外から見ていたときは列の進みが遅いと思っていたが、並んでみたら思った以上に早く列が進む。
どうやら次から次へと人が並ぶので列が動いているように見えてなかっただけらしい。
やがて順番が回ってきたのでまずは私から受けることにする。
「お名前をどうぞ」
「リリアです」
「‥‥‥はい。では、こちらの魔道具へ手を翳してください。魔力量を測りますので」
「はい」
前に立つ女性が手で差し示した魔道具に手をかざす。
すると、魔道具が少し眩しく感じるほどの光を数秒間放ち、ゆっくりとその光を収めた。
これでいいのかと確認の意味を込めて目線を上げると、女性は驚いたように目をぱちくりと瞬かせていた。
「あの、これでいいのでしょうか?」
「‥‥‥あっ、は、はい。大丈夫です。すいません、こんな量の魔力を見たのは初めてでして」
「私の魔力の量は多い方なのですか?」
「ええ。物凄く多いですよ。それこそ比較的魔法の才能に恵まれている貴族様でもなかなか見ないほどの量です」
「へぇ、そうなんですね」
驚いた。
私の魔力量は多い方だったらしい。
近くに私とは全く比べ物にならない量の魔力を持つ人がいるからそんなこと気がつきもしなかった。
ふと隣を見るとルルアが後ろ、ちょうど貴族の会場がある方向に目を向けていた。
何かを察したような表情で。
「ねえ、姉さん」
「大丈夫ですよ、ルルア。言わなくてもわかっています」
「レイス様、やり過ぎないといいけど‥‥‥」
ルルアも私と同じことをし、またその魔力量に驚かれたこと以外は特に問題なく一つ目の試験を終えた。
「次は筆記試験でしたよね」
「うん。でも、私達ってレイス様に貴族とほとんど変わらない教育を受けさせられてたからこの筆記試験あんまり意味がないような気がするな」
「ふふっ。それもそうですね」
そんな会話をしながらその場を後にしようとすると、後ろの方が騒がしくなっていることに気がついた。
ルルアが不思議そうな表情で後ろを振り返る。
「何かあったのかな?」
「なんでしょうね?」
しばらく何が起こったのかと足を止めていると、向こうの方から伝わってきたのか周りの会話からそれらしい話が聞こえてくる。
ーーあっちで何が起こったんだ?えらい騒いでいるみたいだが。
ーー今そこの奴から聞いたんだけどよ、なんでも魔力を測る魔道具が壊れたらしい。
ーー故障ってことか?
ーーいや、あの魔道具は今年買ったばかりだからそれはありえないらしい。
ーーじゃあ、どう言うことだよ?
ーーなんでも、魔道具が魔力を計りきれなくて壊れたって話だ。
「ふーん‥‥‥」
周りの会話を聞いたのだろう。
ルルアが興味なさげな表情を顔に浮かべる。
「興味がなさそうですね」
「魔道具を壊すくらいレイス様ならやっててもおかしくないしね」
「確かにそうですね」
良くも悪くも規格外な旦那様が側にいるので魔道具が壊れた程度では私もルルアも驚かなくなってしまった。
「この調子だといつか怖いもの知らずになりそうですね」
=====
思っていた通りあまりやる意味を感じなかった筆記試験を終えた後、私とルルアは別行動を取ることにした。
その理由は実技試験で別々のものを選択したからだ。
私は魔法の実演を選んだ。
ちょうど魔法試し撃ちをしたいと思っていたところだし、戦闘はできないことはないが苦手だからだ。
ルルアは模擬戦。
普段旦那様かレヴィアナさん、時々出かける森にいる魔獣としか戦ったことのないルルアは自分の実力がどの程度通じるのか試してみたいのだそうだ。
何と言うか、ほんの少しだけ戦闘狂のように感じた。
ちなみにレヴィアナさんにはルルアの方について行ってもらった。
模擬戦では何が起こるかわからないので、レヴィアナさんがついて行った方が安心できるからだ。
もちろん私との連絡手段は用意してあるので問題はない。
そんなわけで1人で魔法の実演を行う会場に向かっていると、後ろから声をかけられた。
「あ、あのっ」
「?はい」
「あの、あなたも実技試験で魔法の実演を選んだのかな?」
「はい、そうですよ」
「な、なら一緒に行ってもいいかな?私1人だと不安で」
「構いませんよ」
「ありがとうっ」
会場までの同行を願い出てきたどこか小動物のような愛らしさを感じるこの少女の名はリース。
ここにいることから分かる通り平民で、今日実力試験を受けにきたらしい。
最初の魔力測定と筆記試験は案内が出ていたので1人でも大丈夫だったが、実技試験の会場は口頭での説明だったのでちゃんと辿り着けるか不安に感じて私に声をかけたようだ。
最初は1人で行動するのが苦手な性格なのかと思っていたが、ただ単に初めての環境に慣れていなかっただけだった。
その証拠に会場に着くまでの間会話が途切れることはなく、会場に着く時には友達といえるくらいには仲良くなっていた。
思ったよりも気が合ったのだ。
会場に着くと試験の説明があり、その後魔法の実演に移る。
平民は人数が多いためいくつかのグループに分けられ、私とリースは同じグループになった。
「やった、リリアと一緒だ。お互い頑張ろうね」
「はい」
グループごとにそれぞれ移動し、早速試験が始まる。
私とリースは中間あたりの順番だったので、他の人が魔法を放つのを軽く言葉を交わしながら観察する。
放たれるのは初歩の魔法が多く、時々中級の魔法も放たれるが精度がイマイチだ。
でも、リースや周りの人たちは中級の魔法が放たれるだけでざわめいている。
こう言った部分で自分と周りの環境の違いを如実に感じる。
「‥‥‥近くにいる人が規格外すぎるせいかもしれませんけど」
「ん?リリア、何か言った?」
「何でもありません」
「そう?」
ついつい思ったことが口から溢れてしまった。
でも、これも仕方がないものだろう。
今日一日でいくつか現実とのギャップを強く感じる。
「次、リリア」
「あ、はい」
試験官に名前を呼ばれ、的から数十メートル離れた位置に立つ。
それを確認した試験官が開始の合図を出す。
「始めっ」
開始の合図と共に目を閉じて、集中する。
「『
足元に大きな魔法陣が浮かび上がる。
それはいくつもの小さな魔法陣が集まり、一つの形を成している。
「『
魔法名を呟くと周囲に現れる三十センチ大の鋭い氷。
その数は到底数え切れるものではない。
静かに右手を薙ぐ。
瞬間、無数の氷が的を目掛けて飛んでいく。
氷は音を置き去りにして的を砕く。
遅れて起こる衝突音。
「試験官さん、これは満点で構いませんか?」
私はこの時の試験官の表情を絶対に忘れないと思う。
作者より
昨日投稿した新作は一旦消しました。
今日書き直したものを投稿します。
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