一方のセリーナ
ご主人様達が帝都に向けて出発してから今日で四日目。
「もうそろそろ帝都についている頃かしら」
ご主人様のいない部屋でソファーにもたれてくつろぐ私ーーセリーナはそんなことを誰に聞かせるでもなく呟いた。
ご主人様達は帝都で行われるという第二皇子の婚約発表のパーティーに出席するらしい。
最初は私も誘われたのだが、私が行くと会場中の視線を集めてしまいパーティーどころではなくなるので遠慮した。
それにあの姉妹ーーリリアとルルアを貴族のいる環境に慣らしつつ、対応の仕方も学ばせるという目的もあるらしいので尚更ね。
そのため、公爵邸に残った私はご主人様の専属メイドという認識なので、日に一度ご主人様の部屋の掃除を行い、その後はこうしてゆっくりと過ごしている。
あとは気が向いた時にお屋敷の別の仕事を手伝うこともあるわね。
周りと良好な関係を築くにはこうしたことも大切なのよ。
まあ、そのおかげで何人かの男の使用人達から好意を向けられているのだけれど。
ご主人様という抑止力がいないせいかアピールしてくる人もそれなりにいる。
ご主人様が帰ってきたら大変なことになりそうね。
あの人、独占欲が強そうだもの。
「それにしても、部屋の中が静かに感じるわね」
普段もこうして1人で過ごす時間はそれなりにある。
でも、こうして1人の時間を過ごしていると大体ご主人様が私の元に来て、色々と話をするので実際はそこまで多くないかもしれない。
今はご主人様がいないのでそういったこともない。
せいぜいが他の使用人達が食事の時間を知らせに来るくらい。
ご主人様が私の元に来ても騒がしくなることはないし、気分を害することもない。
部屋の空気だって変わることはない。
一人の時と変わらない。
それなのに、ご主人様のいない部屋がどうしてこんなにも静かに感じるのだろう。
そう考えていると、ふと喉が渇いていることに意識が向く。
ソファーに預けていた体を起こしテーブルの上の紅茶を一口飲む。
「‥‥‥‥?」
喉の渇きがなくならない。
不思議に思いつつもう一口紅茶を飲む。
まだ、なくならない。
もう一口飲もうと紅茶の入ったカップを口元に運び、そこで気がついた。
「‥‥‥ああ、そういうこと」
私が感じていたのは体が水分を欲して感じる渇きではなく、吸血鬼特有の、本能が血を求める渇きだった。
でも、それは誰の血でもいいわけではない。
ご主人様のーーレイスの血が欲しい。
どうやら自分でも気がつかないうちに彼に惹かれていたらしい。
その事実に自然と笑みが溢れる。
この数百年間他人に好意を抱くという経験がほとんどなかった。
好意を抱かれることは呆れるほどあったというのに。
「まさか、人間の、それも成人すらしていない子に‥‥‥‥」
ご主人様が帰ってきたら彼の宣言通りとなるのだろう。
『すぐに俺の女にしてやる』という宣言通りに。
たった1ヶ月と少しで好意を抱いた自分に呆れつつ、それも悪くないなと思う。
そうしていると、好意という言葉でふと思い出すことがあった。
「そういえばお城に置いてきたあの
私が奴隷になる以前に住んでいたお城に残してきた2人の娘達のことを思い出した。
あの2人、いつも私にベッタリだったのよね。
あれも形は違えど、同じ好意よね。
まあ、何はともあれ私はもうご主人様から離れることはできなくなってしまったのよね。
諦めて数十年は一緒にいることにするわ。
でも、一応の抵抗はしておこうかしら。
ご主人様が私の気持ちに気がつくまで私から口に出すことはしないでおきましょう。
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