幕間-1
とある令嬢と悪魔達の一幕
入浴を済ませて窮屈なドレスからラフなネグリジェに着替え、化粧を落とした私は自分のベッドに倒れ込んだ。
体を包み込むような柔らかさを全身で感じながら令嬢として端なく思いながらもベッドの上を這って進み枕まで辿り着く。
その場で寝返りを打ち、仰向けになって後頭部を枕に預けた状態で私は誰もいない部屋に呼びかけた。
「今日はありがとう、ベル」
私の呼びかけに応じるようにベッドの側に気配が生まれる。
その気配の主は幼い声をその喉から発声する。
「ううん、僕も久しぶりにお腹いっぱいになったから」
「そう。いらっしゃい」
「うんっ」
ベル方に体を向けベッドに誘う。
ベルはその小さな体躯で自分の腰ほどまでの高さのベッドに這い上がりこちらに四つん這いで近づいてくると私のすぐ側でゴロンと横になった。
「えへへ」
「‥‥‥‥‥っ」
「わぷっ」
私の顔を見てはにかむように笑みを浮かべるベルに愛おしさが溢れ思わず抱きしめてしまう。
ベルは最初こそ驚いていたもののすぐに私の背中に手を回してくれた。
しばらくの間そうしてからそっと手を離す。
「寝るまで少し話でもしましょう」
「うん」
いつものように2人でベッドに寝転んでたわいもない話をどちらかが眠くなるまでゆっくりと話す。
普段通りであればベルが先に眠くなりそれに合わせて私も眠るのだが、今日は違った。
「お腹いっぱいで寝られるのは久しぶりだな〜」
そんななんでもないようなベルの呟き。
それは今日起こったことを思い出させる言葉だ。
私と第二皇子の婚約を正式発表するために行われたパーティー。
何の問題もなく終わるはずだったパーティーでそれは起こった。
それは第二皇子が触れてはいけないものに触れてしまったがために起こった出来事。
第二皇子が会場の壁を突き破って吹き飛ばされ、束の間の静寂の後に会場から逃げ出す貴族達、皇帝、使用人。
たった数人しか残らない会場に流れ込んできた騎士達は一瞬のうちにその命を失い、続けてやって来た帝国最強の人物も数分でその命を失った。
強力な魔法を放った第二皇子もダルマ同然の姿にさせられ、第二皇子に協力していた大罪の悪魔も消滅。
そして行われた世界の改変。
第二皇子は命を失い、その魂さえも別次元に飛ばされたが、命を失った騎士達は全員死んだことを無かったことにされた。
さらに荒れ果てた会場も、今日会場で起こった出来事も無かったことにされた。
帝城の敷地内にいた人々は皆"パーティーに参加した"という記憶しか残っていない。
私もベルがいなければ皆と同じ状態になって今この時を過ごしていたのだろう。
今日起こった出来事は私にとってとてもスッキリとした出来事だったし、何よりも絶対に忘れるわけにはいかないことだった。
だからこそ、ベルがいて本当に良かったと思う。
ベルが喰べてくれたおかげで私はあの出来事を覚えている。
それにベルのお腹を満たすことに繋がったのも良かった。
「ふわぁ〜‥‥‥‥」
そんなことを考えているとすぐ側から可愛らしいあくびが聞こえてきた。
どうやらベルはおねむらしい。
「そろそろ寝ましょうか」
「‥‥うん」
「おやすみ、ベル」
「おやすみぃ‥‥‥ミリー」
そう言って瞳を閉じたベルは数秒もしないうちに寝息を立て始めた。
その顔はとても安らかなもので自然と頬が緩んでしまう。
「ふふっ。‥‥こんなに可愛いベルが大罪の悪魔だなんて、未だに信じられないわね」
そう小さく呟くと私も瞳を閉じる。
「あなたもおやすみ。アイリー」
もう1人にそう告げて。
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