改変

 「レヴィアナ。これからを出す。後のことは任せた」

 「承知しました」

 「リリア、ルルア。今から先、俺を俺だと思うな」

 「あの、それはどういう‥‥‥?」 

 「もっと分かりやすく説明してよ」


 リリアとルルアがそう疑問の声を漏らす。


 「見ればわかる」


 俺は短く返すと、第二皇子の魂を持ったまま3人から20メートルほど距離を取る。

 目を閉じ、自らの内側に意識を傾け口を開く。


 「出てこい。傲慢アザー




 =====




 曖昧だったあらゆる感覚が鮮明になっていく。

 水中から水面に浮上していくように段々と。


 音がする。

 こちらを見ている人間の呼吸音が。


 においがする。

 鉄臭い独特な臭い、人の肉が焼けた臭い、死の匂い。


 目を開く。

 見える。

 見るも無惨な有様となった室内の様子が。


 口を開く。


 「ーー外に出るのは久方ぶりだなぁ」


 喉が震え、自らの意思が形になる。

 なんと、心地良いことか。


 「旦那様‥‥‥‥?」


 背後から聞こえた女の声に振り向く。

 そこに立つのはドレスを着た二人の姉妹らしき女達と、母に近しい存在である悪魔。


 「ああ、お前達が奴の激情に繋がる女か」


 一瞬にして距離を縮め、女達に向かって振り下ろした手刀が止められる。

 視界に映るのは何が起きたのか理解できていない女達と、手刀を受け止める悪魔。


 「お戯れはおやめください」

 「そう怒るな。母よ」

 

 そう言いつつ手を下ろすが、悪魔の警戒は解かれない。


 「あなたの母になった覚えはありません。それよりも、役割を済ませてください」

 「冷たいなぁ。久方ぶりの外で我も気分が高揚していると言うのに」


 悪魔に言葉を返しながらこちらに出てきた役目を果たすために先と同じ場所まで戻る。


 魔力を巡らせ、爆発させる。


 「『傲慢たる世界アロガント ワールド』」


 我の体から溢れ出した魔力が空間を埋め尽くし、支配していく。

 範囲内にある物や人、動物、昆虫にいたるまでの全てを。

 魔力が範囲内を完全に支配した。


 

 この世界の王は我だ。



 【我、この世界の王傲慢が命ずる。神の支配ルールから外れよ】




 =====




 ふと眩しさを感じ、沈んでいた意識が浮上していく。

 閉じている瞼を開くと、窓から差し込む太陽の光が目に入る。


 「‥‥‥‥まずは現状確認だな」


 そう呟き体を起こそうとするが、両側から何かに抑えられていて起き上がることができない。

 目を向ければリリアとルルアが俺の体にしがみ付くようにして眠っている。


 どうりで起き上がれないわけだ。


 「レヴィアナ」

 「お呼びでしょうか」

 「あれから何日経っている」

 「二日と半日でございます」

 

 思っていたよりも長く眠っていたようだ。

 俺は体をベッドに寝かせたままレヴィアナに問う。


 「何か問題は?」

 「ございません」

 「第二皇子についてはどうだ」

 「問題ありません」

 「そうか」


 パーティーにて俺が第二皇子に対して行ったのは永遠の苦しみを与えること。

 そのために永久の悪夢エターナル ナイトメアで終わることのない苦痛を与え、魂を取り出して転生や消滅の概念がない異次元に飛ばすことで寿命という救いさえも消した。

 第二皇子は意識が残ったまま永遠に苦しみ続けるだろう。


 「第二皇子の死についてはどうなっている」

 「はい。今はまだ公表されていませんが、じきに病死として公表されることになっています」


 病死か。

 それが一番無難な選択だろう。


 俺がを表に出し、帝城という限られた範囲ではあれどのだからまともな判断材料など残っているはずがないからな。

 

 「ご苦労だった。お前は公爵邸に向けて出発するまでメイドとして俺の側に待機だ。を出した影響が残っている可能性がある」

 「承知しました」

 「下がれ」


 ベッドの上の俺に一礼し、レヴィアナは姿を消した。

 必要なことを済ませた俺は小さく息を吐いた。


 とりあえず今済ませるべき事は終わらせた。

 別邸で行うべきことはもう何もなく、公爵邸に帰るまで予定も入っていない。

 俺の体にしがみついている二人が起きる気配は微塵もない。


 「‥‥‥‥もう一度眠るか」


 そう一人呟くと瞳を閉じ、意識を手放した。



 

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