圧倒的な力-3
帝国最強と言われていた騎士団長ゲルグ・ランダンの死によって絶望の表情を浮かべる騎士達。
視線の先にいる騎士達を一掃するべく魔力を放出するのと同時に、会場全体が一気に明るくなり、肌を焼くようなジリジリとした熱さが生まれる。
「我が敵を焼き尽くせ『
頭上に視線を向ければ視界いっぱいに真っ赤な炎が広がりこちらに迫ってきていた。
俺は放出した魔力を頭上で一本の槍の形に練りあげ、魔法の中心に向かって放つ。
次の瞬間、視界に広がっていた魔法が弾け、散った。
俺はその光景をゆっくりと視界に収めると、再度入り口の騎士達の方向に視線を向ける。
そこには騎士達に加え、先程までいなかった2人の人物がこちらに鋭い眼光を向け立っている。
「発動に時間のかかる大規模魔法を放つ寸前の状態にし、その女がもつ転移系統の能力で魔法ごと会場に転移。そして、不意打ちで高威力、大規模の魔法を放つことで俺を殺そうとした、と言ったところか。随分と姑息な真似をしてくれるな、第二皇子殿下」
騎士達の前に立つ2人の人物。
それは先程俺が会場の外に蹴り飛ばした第二皇子とピンク髪の女だ。
2人は特に目立った外傷は無く、ほとんど無傷と同じ状態だ。
第二皇子にはあらゆる才能があると言われていたが、戦闘に関する才能もあったらしい。
防がれたか。
少し、加減をしすぎたな。
第二皇子は後ろに立つ騎士から剣を受け取りながらも、俺から視線を外さず声をかけてくる。
「随分とやってくれたね。パーティーが台無しじゃないか。これはもう、君にーー」
後ろに立つ騎士達を十数人巻き込んで第二皇子が吹き飛んだ。
そして第二皇子が立っていた場所には俺が立っている。
「戦闘中に声をかけてくるほど余裕があるとはな。随分と舐められたものだ」
「レイス様もですよぉ」
一瞬にして後ろに現れたピンク髪の女が俺の背中めがけてナイフを突き出す。
だが、ナイフが俺の背に刺さることなく、そのまま空を切る。
「ッ!?どこにーー」
「後ろだ」
俺の声に反応して女が振り返ろうとするが、その頭を右手で鷲掴みにし地面に叩きつける。
地面に女の頭を中心として同心円上に亀裂が走る。
その衝撃を受けたことによって女の力が緩くなった瞬間を狙いその手からナイフを奪い取り、背中の心臓のあたりに突き刺す。
「ぎっーー!?」
「
それに続けて女の腹、両手、両足を地魔法によって作った杭で下から貫き、固定する。
帝城の厚い床の下にある地面に干渉して行ったので力技でこれを破壊するのは不可能だ。
俺は女の頭から手を離し立ち上がる。
「レヴィアナ。2人を連れたままでいい。こちらに来い」
「はい」
壁際でリリアとルルアの護衛をしながら待機していたレヴィアナを呼び寄せる。
視線を前に戻すと、これまで何もしていないがために存在を忘れていた騎士達が視界に入る。
「ああ。お前達は処理しておかなければな」
帝国最強を屠ったのと同じ魔法を使い1人残らず燃やし尽くす。
レヴィアナが近くまで来たのを確認し、問いかける。
「レヴィアナ、俺はコイツが悪魔だとにらんでいるが、どうだ?」
「はい、その通りでございます。彼女は七大罪の一つ『色欲』を司る悪魔です」
「‥‥‥‥それは本当か?」
「はい。以前、言葉を交わしたことがございます」
まさか、コイツが大罪の悪魔の一体だったとは‥‥‥。
『色欲』としての能力の片鱗は見られていたが、
弱すぎる。
確かにコイツが司る『色欲』は七大罪の中で下から二番目ではあるが、仮にも悪魔の中で上位に立つ存在なのだからこれでは駄目だろう。
俺はため息を吐きつつ、落胆で下を向いていた視線を上げる。
「コイツは後で片付ける。レヴィアナ、見張っておけ」
「承知しました」
俺は溶けた鎧に覆われた騎士達の死体の方向へ体を向け、口を開く。
「待たせて悪かったな、第二皇子」
俺がそう言い終えると同時に騎士達の死体を吹き飛ばし、剣を振りかぶった第二皇子が俺目掛けて飛び出してきた。
第二皇子は魔法の才能もあったために俺の魔法を防御系統の魔法か身体強化の魔法で防いだのだろう。
「アアァァァァッ!!」
第二皇子が声を張り上げて振り下ろす剣を魔力を刃の形状にし、腕ごと切り飛ばす。
続け様に両足も魔力で切り飛ばし、ダルマ状態となった第二皇子の頭を掴み、宙にぶら下げる。
間違っても失血死しないように傷口を魔法で焼き、止血する。
「あぁ‥‥‥痛いぃ‥‥‥痛いよぉ‥‥腕がぁ‥足がぁ‥‥‥」
つい数刻前まで綺麗に整っていた第二皇子の容姿は今、その影もなく無惨な状態になっていた。
両手、両足がなくなっているため服の腕や足の部分は千切れて大量の血が滲んでおり、他の部分にも血や砂埃が付着している。
使用人達によって手入れさせていたであろう綺麗な髪も血と砂埃によってくすんだ色になり、ぐしゃぐしゃになっている。
俺が頭を掴んでいるために見えない顔も苦痛に歪んでぐちゃぐちゃになっていることだろう。
これだけ見ても十分すぎるほどの仕打ちを第二皇子にしているが、足りない。
全くもって足りない。
「俺の女に手を出そうとしておいて、これだけで済むわけがないだろう」
第二皇子の頭を掴む左手に体内の魔力を集め、魔法陣を構築する。
その魔法陣に魔力を注ぎ込み、唱える。
「『
「ぎっ、がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
魔法の発動と同時に第二皇子が喉が張り裂けんばかりに叫び出す。
この『
使用した対象の精神が決して壊れないようにした上で、精神が壊れるほどの悪夢を死ぬまで見せ続ける魔法。
悪夢は対象が寝ている時だけに縛られず、四六時中どんな状態であっても見せ続けられる。
そして、この魔法はもう一つの魔法と合わせることで真に完成する。
左手から力を抜き、第二皇子を地面に落とす。
地面に体を打ちつけながらものたうち回る第二皇子を見下ろし、唱える。
「『
「がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ーーぁ‥‥‥‥‥」
苦痛に叫んでいた第二皇子が一瞬にして静かになり、その体の上に淡い光を放つ球体が現れる。
「‥‥‥な、なんでぇ‥‥?なんで、人間のレイス様がぁ、魂に干渉できてるのぉ‥‥‥‥?」
後ろから聞こえてきた女の声に光を放つ球体ーー第二皇子の魂を手に振り返る。
地面に縫い付けられた女の顔には困惑と恐怖が混ざり合った表情が浮かんでいる。
本来、契約に魂を用いることのある悪魔しか行うことのできない魂への干渉。
それを人間である俺が平然と行ったのだ。
困惑と恐怖を抱くのも当然だろう。
俺は悪役らしい笑みを浮かべ、口を開く。
「あの世でゆっくりと考えるといい」
「ーーあはっ」
レヴィアナに合図を出す。
最後に恐怖によって溢れた笑みを浮かべ、『色欲』は『傲慢』の手で消された。
それを確認し俺は動く。
「さあ、仕上げを始めよう」
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