圧倒的な力-2
前から発生する莫大な魔力と後ろから聞こえてくる鎧同士が擦れ合う音。
先に会場内にたどり着いたのは後者だった。
「そこを動くな!!」
鞘から抜き放った剣を片手に会場内に流れ込んでくるフルプレートの鎧を着た数十人単位の騎士達。
後ろに振り返った俺は右手をあげ、そちらの方向に向ける。
「図が高い。『
右手の前に出現した魔法陣から真っ赤な炎が放たれ、騎士達を襲う。
ーー魔法だ!全員回避!
ーーな、何だ!?この炎、鎧を溶かしてっ!?
ーークソッ!鎧の中まで溶けて来ているぞっ!
ーーあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!熱い、熱いぃぃぃぃぃぃっ!!
さすがは帝城の騎士と言ったところか。
今の魔法で大方片づけるつもりだったが、半数ほどが魔法を回避した。
だが、魔法を避けきれなかったもう半数は魔法の熱によって阿鼻叫喚の嵐であり、魔法の近くにいた者もその余波を受けてすぐには動くことができない。
入ってきた時と同じ状態の騎士は四分の一程度だ。
残っている騎士達も今の魔法を見て足がすくんだのかその場から動こうとしない。
「興醒めだ」
残りを片付けるためにもう一度魔法を使おうと右手を上げるのと同時に、先ほどと同じ鎧同士が擦れる音がまた聞こえてきた。
その音は先程とは比べ物にならないくらいの重さがあり、軽い振動がこちらにまで伝わってくる。
どうやら今の騎士達は先兵のようなもので、こちらが本体らしい。
魔法を使うことを感知されないために会場内に魔力を広げ、その形を刃のような形にし、首を切り裂くことで残りの騎士達を一瞬で処理する。
この魔力を直接扱う技術は人間の間ではほとんど認知されておらず、不可視の攻撃且つ、その威力や大きさを自由に変えることができる使い勝手のいいもので、こう言った時にとても役立つ。
これは人間の間では失伝しているも同然だが、明確に寿命の概念がない悪魔の間では一般的なものであるため、俺はレヴィアナにこれを教えてもらった。
そうこうしているうちにこちらに向かって来ていた本体が姿を表す。
その先頭にいるのは胸の辺りに皇室の紋章が刻まれたフルプレートの鎧を纏い、真っ赤なマントを靡かせている騎士。
帝国最強と名高い近衛騎士団長、ゲルグ・ランダン。
「『
先程と同じ魔法を放つ。
だが、魔法は一瞬で消滅する。
俺の視線の先に立つのは剣を振り抜いた姿勢のゲルグ。
奴が俺が放った魔法の核を斬り、魔法を消滅させたのだ。
ゲルグは振り抜いた剣を下ろし、周りを見回す。
その目に映るのはドロドロに溶けた鎧から除く焦げた手足や顔、首の辺りから血を流し絶命している騎士達の姿。
ゲルグは鎧の中から怒りのこもったくぐもった声を出す。
「なんと惨いことを。貴様が幼い身であろうと、行っていることは悪魔の所業。第二皇子殿下に無礼を働いたことも含め、今この場でーー」
ゲルグの体から魔力が溢れ出す。
一部はその体へ吸収され、一部は鎧のにまとわりつくように動き、一部はその手に握る剣に絡みつく。
全身が可視化できるほどに白くなった魔力で覆われたゲルグ。
あれこそがゲルグを最強たらしめる固有身体強化魔法『
ゲルグが剣を構え、一歩踏み込む。
「ーーその命、狩り取らせてもらうっ」
地面を爆ぜさせるほどの力を込めて踏み込み、音速に匹敵する速度でこちらに接近したゲルグは、目の前で俺の命を狩り取らんと剣を振り下ろす寸前だ。
その行動全てを見ていた俺はそっと右手を上げる。
剣が振り下ろされ、その威力によって周りに強風が発生する。
服の裾やゲルグのマントがなびき、バサバサと音をたてる。
「なっ‥‥‥‥」
風がおさまると同時にそんな声が耳に入る。
それを聞き流し、俺はつぶやく。
人差し指と中指、そして親指の3本で掴んでいる剣に視線を向けながら。
「帝国最強とは、この程度か?」
俺は自分の実力を帝国上位と評価していた。
たとえレイスの才能とレヴィアナによる指導を合わせても13歳の肉体では、圧倒的な実力を持った大人には敵わないだろうと思っていたが故の評価だ。
だが、俺が思っている以上に俺は強かったらしい。
この状況がそれを物語っている。
実に気分がいい。
俺の持つ目標の一つ。
自然と顔に笑みが浮かぶ。
悪役としての、それが。
俺は目の前のゲルグに視線を向け、告げる。
「俺は今とても気分が良い。だから、一撃で殺してやろう」
「はーー」
圧縮した魔力をゲルグの口の中に入れ、解放する。
瞬間、ゲルグの頭が弾け飛び辺りに目玉や歯、脳髄などが撒き散る。
剣から指を離し、力の抜けたゲルグの体を蹴り飛ばす。
後ろに倒れたゲルグの体の向こうでは騎士達が言葉を失い、絶望の感情をその顔に滲ませていた。
「クハハッ」
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