パーティー-5
ミリアンナがこのタイミングで俺の元に来た目的が分からず、思わず眉を顰めてしまう。
それに気がついたミリアンナはそれまで浮かべていた貴族向けの笑みを消し、目を細めて俺に向かって言葉を吐く。
「何よ、その顔は。私のとダンスが嫌だとでも言うつもり?」
不満げな感情が滲んだ言葉を受け止めつつミリアンナが俺をダンスに誘った目的を考えるが、何も思いつかず、早めに会話を打ち切りたい俺はミリアンナに直接尋ねる。
「俺をダンスに誘って何がしたいんだ?」
「‥‥‥こっちの質問を無視されるとは思わなかったわ。それで、何がしたいってどう言うこと?」
「そのままの意味だな。第二皇子との婚約を発表した直後に俺をダンスに誘うなんて周囲に誤解されかねないからな。別に目的があると考えるのが普通だろう」
俺がそう言えばミリアンナはほんの少し目を見開いたが、すぐに諦めたよう目を閉じ、小さく息を吐いた。
「やっぱり、あなたは昔から頭が切れるわね」
「当然だな」
「そう言うところは玉に瑕よ」
俺の発言に途端にジト目になるミリアンナを無視して、これまで置いてけぼりになっていたリリアに目を向ける。
「リリア、俺はこいつと一曲踊ってから戻る。ルルアのところまで1人で行けるか?」
「はい、大丈夫です」
「そうか。なら先に戻っていてくれ」
1人でルルアのもとに戻っていくリリアの背を少しの間確認してミリアンナに向き直る。
その時、ちょうどタイミングよく2曲目の演奏が始まった。
どちらともなく相手の手を取りステップを踏んでいく。
何度かステップを踏んだあたりでミリアンナが動きはそのままにこちらに話しかけてきた。
「さっきの子、平民でしょう?」
疑問、と言うよりは確信を持った答え合わせという感じだ。
特に隠すことでもないので素直に頷く。
「そうだ」
「呆れた。皇帝陛下主催のパーティーに平民を連れてくるなんて」
「使用人として連れてきている。問題はないだろう」
「そうね。使用人を着飾らせてはいけないなんて決まりはないわね。それでも、普通はやらないけどね」
「その普通の定義を教えてほしいものだな」
ミリアンナはため息を吐きつつ、ドレスのスカートをふわりと膨らませて一回転する。
器用だな、コイツ。
また同じステップを踏みつつ会話を続ける。
「まあ、あなたのそう言うところは置いておいて、本題に入りましょう」
そう言ってミリアンナは僅かに表情を引き締める。
「私の婚約者の第二皇子殿下が女好きってことは知っているわよね?」
「ああ」
第二皇子が女好きという話は貴族の間では有名だ。
嘘か真か第二皇子はわずか八つの時の時に女に興味を持ちそれ以来、常に自分の周りに容姿の整った女を侍らせているのだという。
さらには気に入ったメイドがいればすぐにお手付きにするんだとか。
上に立つ人間としてはあまり褒められた行為ではないが、勉学や武術など色々な面で優秀な成績を納めているので周りは傍観の姿勢を貫いているようだ。
そのため最近ではそれがさらに激しくなっているらしい。
耳にしたことがあり、その片鱗を先日帝都で感じた俺は肯定を返す。
それを聞いたミリアンナは続けて口を開く。
「最近では帝城を抜け出して帝都の街で女を探したりしているみたいなのよ」
「ああ、つい先日それを体験したばかりだ」
「そう‥‥‥。やっぱりね」
ミリアンナは目を伏せ、小さくそう溢す。
ミリアンナは少しして再び目線を上げた。
今流れている曲の終わりは近い。
「そろそろ、時間になるから詳細を省いて伝えるわね。一度しか言えないからよく聞いて」
「ああ」
「第二皇子殿下はあなたが連れていたさっきの女の子とあなたが連れてきているもう1人の女の子に執心しているわ。それこそ異常なほどに」
テンポを崩さず、ステップを踏み続ける。
「このパーティーで何かするつもりよ。くれぐれも、やりすぎないで」
真っ直ぐにこちらを見据えるアメジストの瞳に目線を合わせて、口を開く。
「無理な話だな」
ミリアンナはこの言葉を予想していたのか、そこまで大きな反応はしない。
軽く目を見張るくらいだ。
「理由を聞いても?」
「俺は一度奴に慈悲を与えている。それを自ら捨て去る奴に俺は容赦しない」
「そう」
静かにそう告げたミリアンナは一度口を閉じる。
それと同時に会場内に響いていた音楽が止んだ。
俺たちもダンスをやめる。
手を離すと俺の前からミリアンナは去っていく。
だが、数歩進んだあたりで足を止め、こちらに背を向けたままミリアンナは話し始めた。
「私ね、あいつにかなり適当に扱われているの。それこそ周りに侍っている女達と同じような扱い。いい加減、鬱憤が溜まってるのよ。だからさーー」
そこで一旦言葉を止めたミリアンナはこちらに振り返り、笑顔で言った。
「思いっきり、やっちゃえ、レイス」
「言われなくともそのつもりだが?」
その言葉にもう一度笑みを見せたミリアンナは今度こそ俺の前から去っていった。
俺もそれを確認しリリアとルルアのもとに戻った。
リリアとルルアのもとに戻ると、2人は見慣れないピンク色の髪の女と話していた。
男の情欲を誘うような肉付きの体を紫のドレスに包んだ10代後半に見える容姿の整った女だ。
「あ、レイス様」
ルルアが近づく俺に気がつき声を上げると、リリアとピンク髪の女もこちらを向いた。
リリアは柔らかく笑みを浮かべる。
「お帰りなさい、旦那様」
「ああ」
返事を返しつつ近づいていくと、突然ピンク髪の女がこちらに近寄り、俺の腕に胸を押し付けるようにして抱きついてきた。
「初めまして〜、レイス様ぁ。アタシぃ、ミミリーって言うんですけーー」
「お前は、誰の許可を得て俺の名を呼んでいる?」
「ーーッ」
ピンク髪の女を振り払い、声に魔力を込めてそう言うと女は動きを止めた。
その顔には困惑の表情が浮かんでおり、ひたすらに混乱しているように見える。
混乱で何も口にしないピンク髪の女に無言で目線を向け続けていると、後ろから爽やかな男の声が聞こえてきた。
「あれ?確か君たちは先日帝都で会った子達だよね。まさかこんなところで会えるなんてね」
そちらに視線を向ければ、ふざけたことを宣いながら近づいてくる第二皇子の姿が目に入った。
第二皇子は俺の横を素通りして2人に前に立つ。
「ここで会ったのも何かの縁だ。よかったら僕の部屋にでも来ない?」
下心の見え見えな言葉を2人に向かって投げかける。
「お断りします」
「嫌」
2人とも即答した。
それに驚いたのか第二皇子は俺の前に立つピンク髪の女の方に顔を向ける。
ピンク髪の女も同じく第二皇子の方に顔を向ける。
明らかなアイコンタクトだ。
知りたいことは知れた。
俺は一瞬で第二皇子の後ろに移動する。
「次はないと、忠告しただろう?」
会場の壁を破壊し、第二皇子の体が吹き飛んだ。
作者より
今日から投稿時間早くしてみます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます