パーティー-4
「え、あの?旦那様?」
戸惑うリリアの訴えをさらっと無視してルルアの方に目を向ける。
ルルアは俺とリリアの会話を全く聞いておらず、先程と同じようにお腹を摩っている。
「ん、何?」
俺が視線を向けていることに気がついたルルアが小首を傾げる。
が、その表情は変わらず苦しそうだ。
今日は無理そうだな。
「お前はまた今度だな」
「え、何が?」
「ダンスだ」
「ん?」
「とにかく、お前は休んでいろ。俺とリリアは踊ってくる」
頭に疑問符しか浮かぶことのないルルアにそう告げると、リリアの手を取って貴族達と同じ方向に歩いていく。
リリアは戸惑いながらもおとなしく手を引かれてついてくる。
テーブルの置かれていないスペースで貴族達が作るダンスの輪に近づくと、リリアが俺の手を引き口を開いた。
「あ、あの、旦那様っ」
「なんだ」
「私、ダンスは踊れないのですが‥‥‥」
そう言ってリリアは不安げな表情を浮かべる。
「問題ない。お前は俺に身を任せていればいい」
「あ‥‥‥はい」
幾分か不安の色が薄くなった表情を確認して、ダンスの輪の中に入る。
耳に入ってくる音楽に合わせ、公爵邸で学んだステップを踏んでいく。
それと同時に身体強化と軽量化の魔法をリリアに使用する。
この二つの魔法によってリリアは俺の動きについてくることができるようになり、細かい動きも俺の方で修正がしやすくなった。
完璧とまではいかなくとも恥をかかない程度のダンスができているように周りからは見え、リリアは自身も踊っている感覚を得ることができているだろう。
俺の目に映るリリアの柔らかい笑顔が何よりの証拠だ。
「旦那様、ありがとうございます」
「ああ」
俺が魔法を使ったことは伝えていないのに、リリアはそれがわかっているかのように感謝を告げてきた。
それに短く返事をして、口を閉じる。
リリアも同じく口を閉じるが、その口元には変わらず笑みが浮かび続けている。
ダンスが終わるまでリリアとの間で言葉が交わされることはなかったが、俺も、リリアもそれなりに楽しむことができた。
しばらくすると会場内に流れていた音楽が止まり、それに合わせて貴族達もダンスをやめパートナーと別れる。
次のダンスのパートナーを探したり、ダンスの輪から外れたりとそれぞれ行動を始める。
俺とリリアもダンスをやめ、静かに向かい合っていた。
お互いに何も言わずにいるとリリアが破顔し、口を開いた。
「楽しかったです。ありがとうございます、旦那様」
「‥‥‥そうか」
リリアの笑顔にほんの少し見惚れてしまい、返事が遅れてしまった。
だが、リリアが楽しんでくれたようで何よりだ。
リリアは顔は満足そうだが、微かに呼吸が荒い。
ダンスを踊るのは初めての様子だったので、なれない動きで疲れたのだろう。
リリアを休ませるためにルルアのいる場所まで手を引いて連れて行こうと足を動かす。
「あら、一曲踊っただけで戻ってしまうの?」
ちょうど一歩踏み出したタイミングで後ろから声をかけられた。
相手の確認だけして問題がなければ無視をしようと思い、目線だけ後ろに向けると、視界にアメジストが広がった。
「私とも踊っていただけませんか、ヒーヴィル公爵子息殿?」
芝居がかった言い方をしてきたのは1人の少女。
腰まで伸ばした艶やかなアメジスト色の髪に、同じ色の切れ長の瞳。
髪と瞳の色との統一性を感じさせるライトパープルのドレスを纏ったバランスの整った体。
リシャール公爵家の長女であり、第二皇子の婚約者であるミリアンナ・リシャールがこちらに目線を向け、俺の後ろに立っていた。
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